2023(02)
■退勤ダッシュの先には
++++
「お疲れさまでしたー!」
この仕事やっている以上仕方ないことだとはわかってるんだけど、世間の休みが必ずしも休みだとは限らないのが不利に働くことがあるよね。出たいイベントに出れなかったり、土日限定の楽しいキャンペーンに乗れなかったり。
その分平日休みがたまにある恩恵があったりもするけど、楽しいイベントは世間の休みにあることの方が圧倒的に多いから、こうやって土曜日に働いてると悔しさのあまり歯軋りをすることになりますよね。現に今日だってそう。
「伊東さん退勤ダッシュ凄いねー」
「今日は1分1秒でも早く帰らなきゃいけないんです! そういうことなんでお先に失礼します!」
会社ではカオちゃんこと朝霞クンと同じ部署に配属されて、ニコイチで働いている。新卒だし2人で1人分の働きになれば儲け物っていう感じなのかなと思ってたけど、割といつでもやってる会社なので片方がいなくても仕事を進めるための手法みたい。
極力2人同時にいないことは避けてもらえれば嬉しいと言われているので、どうしても外せない用事があるときには前もってカレンダーを共有しておくのも大事な仕事。会社の他に家や外出先で仕事をやるパターンもあるけど、それも出来ない本当の用事ね。
今日はカオちゃんが配信者のレイとしてオフイベントをやっている。だからカオちゃんがお休みでうちが出勤。だけど仕事してるってことはイベントの現地にも行けないし、リアルタイムで配信を見ることも出来ないしであーもー! って感じ。うちだってファンなんですよ。
だからせめて一刻も早く家に帰ってご飯食べてお風呂入って、カミツレイベントの配信アーカイブを見るんですよ! チケットはあらかじめ買ってあるからね。配信は大人の事情で現場とはちょっと違う感じに編集されるとは聞いてるから、本当はやっぱ現地に行きたいんですけどね!
「カーズー! ただいまー!」
「お帰りー」
「おー、おかえり伊東さん。今日はマジでありがとう!」
「おっ、相方ちゃん仕事お疲れさん!」
「はい!?」
玄関の時点で靴の多さや台所の戦場っぽさに気付くべきだったのかもしれないけど、配信見る時間を作らなきゃっていうので全然目に入らなかった。リビングのテーブルにはカオちゃんと、動画で見たことがあるから記憶に間違いがなければカミツレの?
「えーと、カンヂさん」
「カンヂでーす」
「ミキさん」
「ミキでーす」
「ツキオさん。ですよね?」
「お邪魔してます」
「え!? ナニナニ何で!? 全くもって意味が分かんないんだけど!」
イベントやってたはずのカミツレの4人がうちのリビングにいる意味がわかんないんですけど!? カオちゃん単体ならわかりますよ? うちの常連だから。他の大御所たちですよ……動画で見てる人たちがイベントの壇上どころじゃない近さで実在してるんですけど!?
で、それを受け入れて普通にご飯作ってるカズですよ。カズにはカオちゃんから話が行ってるんだろうけど、何だかんだで楽しそうなことやご飯を振る舞う機会が好きな人だから、カオちゃんの話術もあって結構簡単にオチたんだろうなー……、嫁の勘ですけど。
「ほら、俺が職場の相方に結構面倒掛けてる話はカミツレ内にも伝わってるって話はしてたでしょ」
「うん、その節はカンヂさんにお菓子をいただきました」
「で、俺が普段食ってるカズの弁当も割と羨ましがられてて」
「それも動画で見ました」
「せっかく星港にいるんだし仕事終わりの相方を労いつつ弁当作ってくれてる旦那の料理が食べたいっていうんで今回の企画を」
「えっ、カズ聞いてた!?」
「結構前に聞いてたんでシフト合わせて休みにしたよね。せっかく食べてもらうんだからちゃんとやんないと」
「うそォ!? うちだけ知らなかったのー!? もー、カオちゃんちょっとヒドくない!?」
「ホントにスイマセン!」
「うちアーカイブ見なきゃって仕事終わってチャイムと同時にダッシュで退勤してきたんだから!」
でも、こんなことになってたらもちろんアーカイブはすぐには見れませんよね。仕方ない、明日見よう。今日はこのドッキリを全身で楽しむことにしよう。
「で、伊東さん今回のイベントのグッズにサイン入れてくれれば許すって言ってたじゃん」
「言ったけど今の件の分は別だよー」
「サンプルで世に出回らないグッズに全員分のサインが入った物がこちらです。どうぞお納めくだ」
「許す」
「早っ」
「てか3人のサインまで入ってたら許す以外の選択肢がない」
「それはそう。俺のそれの価値は薄いけど先輩方は強い」
「えっと、一応カミツレの皆さんに確認なんですけど、この間の水堀のイベントの後って実写動画あったじゃないですか」
「あったねえ」
「星港の実写動画をここで用意しようと考えてる人はいらっしゃいます? もしそうなら映ったらマズい物の確認とかしなきゃなんで」
「はい」
「ミキさん!?」
「ご飯食べながら緩くダベってる感じの動画にしようかなと。自分たち以外は編集で切るし使わせてもらえると嬉しいです」
「その辺は画角で調整しますか」
「はーい、それじゃあ前菜からどうぞー」
カズはカズで結構気合い入ってそうだね、この感じ。高崎クンとか千葉ちゃんを相手にする時とはまた違うと言うか、アヤちゃんを相手にするときみたいな小洒落感や見栄が見て取れますね。さては動画映えを意識してるな? 普段通りで十分映えるのに。
「いただきまーす」
「うっま! お前普段こんなん食っとるんか」
「なので遠くに出るときも弁当はもらってくるんですよ。栄養バランスのこととかも考えたらこうなります」
「お前ホンマ相方夫婦に足向けて寝れんぞ」
「重々承知しております。仕事と配信者の両立頑張ります」
「うちはいいんですよ、レイ君の書き物と配信で救われる魂がここに」
end.
++++
リハビリ。
(phase3)
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「お疲れさまでしたー!」
この仕事やっている以上仕方ないことだとはわかってるんだけど、世間の休みが必ずしも休みだとは限らないのが不利に働くことがあるよね。出たいイベントに出れなかったり、土日限定の楽しいキャンペーンに乗れなかったり。
その分平日休みがたまにある恩恵があったりもするけど、楽しいイベントは世間の休みにあることの方が圧倒的に多いから、こうやって土曜日に働いてると悔しさのあまり歯軋りをすることになりますよね。現に今日だってそう。
「伊東さん退勤ダッシュ凄いねー」
「今日は1分1秒でも早く帰らなきゃいけないんです! そういうことなんでお先に失礼します!」
会社ではカオちゃんこと朝霞クンと同じ部署に配属されて、ニコイチで働いている。新卒だし2人で1人分の働きになれば儲け物っていう感じなのかなと思ってたけど、割といつでもやってる会社なので片方がいなくても仕事を進めるための手法みたい。
極力2人同時にいないことは避けてもらえれば嬉しいと言われているので、どうしても外せない用事があるときには前もってカレンダーを共有しておくのも大事な仕事。会社の他に家や外出先で仕事をやるパターンもあるけど、それも出来ない本当の用事ね。
今日はカオちゃんが配信者のレイとしてオフイベントをやっている。だからカオちゃんがお休みでうちが出勤。だけど仕事してるってことはイベントの現地にも行けないし、リアルタイムで配信を見ることも出来ないしであーもー! って感じ。うちだってファンなんですよ。
だからせめて一刻も早く家に帰ってご飯食べてお風呂入って、カミツレイベントの配信アーカイブを見るんですよ! チケットはあらかじめ買ってあるからね。配信は大人の事情で現場とはちょっと違う感じに編集されるとは聞いてるから、本当はやっぱ現地に行きたいんですけどね!
「カーズー! ただいまー!」
「お帰りー」
「おー、おかえり伊東さん。今日はマジでありがとう!」
「おっ、相方ちゃん仕事お疲れさん!」
「はい!?」
玄関の時点で靴の多さや台所の戦場っぽさに気付くべきだったのかもしれないけど、配信見る時間を作らなきゃっていうので全然目に入らなかった。リビングのテーブルにはカオちゃんと、動画で見たことがあるから記憶に間違いがなければカミツレの?
「えーと、カンヂさん」
「カンヂでーす」
「ミキさん」
「ミキでーす」
「ツキオさん。ですよね?」
「お邪魔してます」
「え!? ナニナニ何で!? 全くもって意味が分かんないんだけど!」
イベントやってたはずのカミツレの4人がうちのリビングにいる意味がわかんないんですけど!? カオちゃん単体ならわかりますよ? うちの常連だから。他の大御所たちですよ……動画で見てる人たちがイベントの壇上どころじゃない近さで実在してるんですけど!?
で、それを受け入れて普通にご飯作ってるカズですよ。カズにはカオちゃんから話が行ってるんだろうけど、何だかんだで楽しそうなことやご飯を振る舞う機会が好きな人だから、カオちゃんの話術もあって結構簡単にオチたんだろうなー……、嫁の勘ですけど。
「ほら、俺が職場の相方に結構面倒掛けてる話はカミツレ内にも伝わってるって話はしてたでしょ」
「うん、その節はカンヂさんにお菓子をいただきました」
「で、俺が普段食ってるカズの弁当も割と羨ましがられてて」
「それも動画で見ました」
「せっかく星港にいるんだし仕事終わりの相方を労いつつ弁当作ってくれてる旦那の料理が食べたいっていうんで今回の企画を」
「えっ、カズ聞いてた!?」
「結構前に聞いてたんでシフト合わせて休みにしたよね。せっかく食べてもらうんだからちゃんとやんないと」
「うそォ!? うちだけ知らなかったのー!? もー、カオちゃんちょっとヒドくない!?」
「ホントにスイマセン!」
「うちアーカイブ見なきゃって仕事終わってチャイムと同時にダッシュで退勤してきたんだから!」
でも、こんなことになってたらもちろんアーカイブはすぐには見れませんよね。仕方ない、明日見よう。今日はこのドッキリを全身で楽しむことにしよう。
「で、伊東さん今回のイベントのグッズにサイン入れてくれれば許すって言ってたじゃん」
「言ったけど今の件の分は別だよー」
「サンプルで世に出回らないグッズに全員分のサインが入った物がこちらです。どうぞお納めくだ」
「許す」
「早っ」
「てか3人のサインまで入ってたら許す以外の選択肢がない」
「それはそう。俺のそれの価値は薄いけど先輩方は強い」
「えっと、一応カミツレの皆さんに確認なんですけど、この間の水堀のイベントの後って実写動画あったじゃないですか」
「あったねえ」
「星港の実写動画をここで用意しようと考えてる人はいらっしゃいます? もしそうなら映ったらマズい物の確認とかしなきゃなんで」
「はい」
「ミキさん!?」
「ご飯食べながら緩くダベってる感じの動画にしようかなと。自分たち以外は編集で切るし使わせてもらえると嬉しいです」
「その辺は画角で調整しますか」
「はーい、それじゃあ前菜からどうぞー」
カズはカズで結構気合い入ってそうだね、この感じ。高崎クンとか千葉ちゃんを相手にする時とはまた違うと言うか、アヤちゃんを相手にするときみたいな小洒落感や見栄が見て取れますね。さては動画映えを意識してるな? 普段通りで十分映えるのに。
「いただきまーす」
「うっま! お前普段こんなん食っとるんか」
「なので遠くに出るときも弁当はもらってくるんですよ。栄養バランスのこととかも考えたらこうなります」
「お前ホンマ相方夫婦に足向けて寝れんぞ」
「重々承知しております。仕事と配信者の両立頑張ります」
「うちはいいんですよ、レイ君の書き物と配信で救われる魂がここに」
end.
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リハビリ。
(phase3)
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