2023(02)

■Toward a New Welcome

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「えー、卒業式、3年生追いコンと送り出す側の行事を無事終えたということで、今度は迎える方について考えていきましょう! っつーことで新歓についてだけど、俺は去年やってたのが結構手応えあったから今年も同じようにやりたいと思ってんだけど、誰か何か意見ある?」

 3月にもなると、サークルも普段とあまり変わらないペースで集まるようになるんだなあと感じているうちにもう4月の話が始まっている。この間、卒業式で4年生の先輩を見送り、3年生追いコンでは奈々先輩を労った。追いコンには例によってすがやん先輩も誘われていて、ボーリング大会と焼肉が盛り上がった。
 で、新入生の勧誘だ。場を仕切るカノン先輩が去年の感じで行きたいと意見を発したことで、去年はどうだったかなと思い起こすところからだ。去年の新入生勧誘は、何としてもサークルに人を入れて盛り上げるんだという使命感でカノン先輩が鼻息を荒くしていたようだ。でも今年はそこまで切羽詰まっていないので、スタンスをどうするかだ。頑張るのか、緩く行くのか。

「去年の感じっつーと、連休頃まではお知らせ放送をやってサークルの認知度をそれとな~く知らしめて?」
「昼休みにブースも出していましたよ。それから、ビラの配布とポスターの掲示をしましたね」
「なあお前ら、1年的には何が決め手でウチに来ようと思ったかっつーのはあったか?」
「俺はやっぱ食堂で番組聞いて、食器を戻すところにあったポスター見てこんなサークルがあるんだーって思って、教室向いて歩いて行ったところにちょっと話聞けるブースがあったのはお~って思ったっすね」
「じゃ今年もポスターの1枚は食堂の食器返却口んトコだな」
「だな」
「食堂からの動線は確かに強かったと思います。如何せんサークル棟の立地が立地なので、山を登らずに話を聞けるというのが大きかったです」
「それは違いねえ! そーいやよ、殿は確かブースには来ずに直接サークル見学に来たよな」
「はい。人の多いところで、ブースに立ち寄るというのが、自分には、ハードルが高かったです」
「なるほど。そういう奴もいるわな。でも、現場の方がよりリアルなサークルの実情みたいなモンが見えるし、飛び込んで来る奴を迎える準備もしとかなきゃな」

 今の1年生6人がサークルに来るまでの流れを聞くというのは、次の1年生を迎え入れるためにどう準備すればいいのかを確認するのにも重要なようだ。方針としては、今年も昼休みに外で簡易ブースを設けることになった。このブースでMMPというサークルがどういう活動をしているのかを説明したり、見学受付をしたりするようだ。

「で、かっすー。今年は何人くらいを目安に勧誘してくんだ? 場合によっちゃ追加でイスを用意しなきゃいけなくなる」
「あー、来るもの拒まずで行きたいけど、この部屋に入るかどうかの問題もあんのか。今年抜けてったのが奈々先輩1人じゃんな」
「かと言って、あまり勧誘する人数が少なすぎるとまたサークル存亡の危機が訪れかねませんよ。希くんはあの時の状況を誰よりも理解していますよね」
「そう、それもあるんだよ。サークル存亡の危機だーっつって慌てんのは俺で最後にしたい。だったらイスくらい準備するし部屋の模様替えとかでスペースはいくらでも何とかする」
「じゃ、目標としては4、5人ってトコか?」
「そうだな。それくらいが今後のことを考えてもちょうどいいかも」
「他校の話にはなりますが、緑ヶ丘はこの部屋の3分の1くらいの広さのサークル室に15人が入っていたそうですから、広さ問題はきっとまだ大丈夫ですよ」

 確かに、緑ヶ丘のサークル室はMMPのサークル室と比べて狭いという印象がある。前に合同番組の件で春風先輩と殿と3人でお邪魔したときには、よりによって場所を取るメンバーで来てしまってすみませんと春風先輩が高木先輩に謝る一幕もあった。俺と殿が並んで座っていると、緑ヶ丘の人3人分以上のスペースは軽く取るからなあ(向こうの人が小柄だというのもあるけど)。

「ジュン、ところでビラとポスターなんだけどよ、お前に任せて大丈夫か?」
「薄々言われる気がしてたので大丈夫です。必ず書かなければならないことだけ指定してもらえればそのようにデザインします」
「じゃ、それと仕様は後でまた渡すわ。あと何か決めることあるか? かっすーでも春風でも、他の連中でも」
「じゃあ、はい」
「おっ、ジャック。何だ?」
「えっと、昼休みのブースとお知らせ番組やるんだったら、当番表みたいなのを作る感じですか? ペア決めとか」
「あー、そうだ。ペア決めは大事な要素だよなー。奏多、どうやって決める?」
「去年奈々さんは男女ペアの方が都合がいいっつってたけど今年はムリだし、まあ1年と2年が組むようにすればよくね? とにかく、口が上手い奴とか愛想のいい奴、あと、ジュンみてーに特殊な活動やってる奴とかが主に頑張ってもらう感じで」
「突然の名指し」

 インターフェイスの活動の派生でコミュニティラジオの番組に出ているというのは結構な特殊例なので、ただ大学の食堂でラジオっぽいことをやるだけじゃないんだ、という驚きくらいは提供出来るかもしれない。あと、映像作品に興味のある人に対するアプローチもお前がやっていけと奏多先輩からは結構なことを投げられる。

「あ、あの……奏多先輩……」
「あ? 何だツッツ」
「えっと、その……ば、番組の方でたくさん頑張るので、ブースの方は、ちょっと……」
「だああっ! ちょーっと良くなったと思ったのによお、お前はぁ! 人見知りをぶり返してんじゃねーよツッツ!」
「奏多先輩」
「何だ殿、お前まで」
「自分がブースにいると、人が寄り付かないかと。自分も、番組の方に回らせてください」
「うん。悪い殿、それは否定出来ねー。お前は番組に回っていいぞ」
「ありがとうございます」
「慣れれば愛嬌の塊なんだけどなー、その境地に至るまでよ」

 本当ですよねと春風先輩も頷き、俺たちも最初は怖かったけどすぐ慣れたよなーと殿の印象について振り返る。同期の中では、殿は俺たちの中で一番優しくて頼りになるという評価だ。だけど、昼休みのブースは通りがかりにふらっと立ち寄る場所なので、最初の印象が肝心なんだ。無理に笑顔を作らせるのもまた違う。

「かっすー、大体決めることは決めたか? 粗方の方針としては」
「そうだなー。ブースとか番組のペアについては履修を見ながら入れ替えることもあるかもだけど、大まかにはこんな感じで。あと、ビラとポスターに関してはジュン、よろしくお願いします」
「はい。目を引くものになるよう頑張ります」


end.


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抜けていった分だけ補充する、が通用するのはある程度人数がいるときだけ。
別に奏多がサークルのトップではないけど、みんな物事の許可取りは奏多に行く。何でかな

(phase3)

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