2023
■appropriate positions
++++
「あー野坂さんちょーどいいところに! ちょっとお時間いいです?」
「よう奏多。どうした?」
最近は大学祭と同時開催されるロボット大戦のために情報棟に籠もりっきりだ。大会まであとひと月を切り、詰めの作業が忙しい。気分転換ついでに何か食べる物でも買いに行こうとすると、エントランス脇のロビーに奏多が陣取っている。何か俺に用事があるっぽいし、これもいい気分転換になるだろうと足を止める。
「いやーちょっと学祭のことでいろいろ相談したいことがありまして。ほら、俺MMPでの大祭って初めてなんで、わかんないことだらけなんすよ」
「内容にもよるけど、分かる範囲でなら相談に乗るよ」
「あざーっす。まず、番組のタイムテーブルのことなんすけど――」
そう言って奏多はずらずらと文字や表が描かれたルーズリーフを広げて話し始めた。春風からも断片的に聞いていたけど、今年のMMPではDJブースと食品ブースの2ブースを同時に出すことにしたそうだ。カノンがすがやんから聞いた緑ヶ丘の話から着想を得て提案したらしい。今年の人数ならまあ出来るだろうと。
去年は奈々とカノンの2人で迎えることになる来期に向けた資金を稼ぐために、放送サークルのアイデンティティとも言えるラジオの部分を取っ払って商売一本で行くことにした。だから大学祭で出すDJブースのことを知っているのは現役では奈々1人。今年は絶対にDJブースをやって、歴史や技術の継承をしたいのだと。
ただ、如何せんカノンの張り切り方であったり、裏で思いついていた企画のおかげでやることの規模がデカくなる一方。カノンが企画するだけしてとっ散らかしている部分を奈々と奏多でどうにか後始末をしながら体裁を保っているという状態なんだそうだ。とは言え奏多もMMPでの大学祭は初めてなので、せめて自分は地に足をつけておかなくては、とのこと。
「食品ブースとの兼ね合いも見ながらシフトをテキトーに決めて、かっすーが言ってる余所との中継の都合も見つつ、春風のロボコンも撮りに行かなきゃいけないっしょ? まーまーやることが多くてですね」
「奈々は何をやってるんだ?」
「あの人は大祭実行委員関係の手続きだったり、食品関係と金のことを詰めてもらってますね。あと、俺の立てたタイムテーブルが破綻してないかとかを見てもらってます。機材管理だとか、技術的なことは俺に一任されてるっつー感じで」
「そうか。……と言うか、言い方は悪いかもだけど、派手でオイシイことをカノンがやってて、一見地味な雑務を奈々と奏多でやってるってことか」
「ま、傍から見りゃそーなりますかね」
「カノンはああだからカノンなんだけど、あまり行き過ぎるようなら問題だぞ」
「わかってます。ま、せめて内々では好きにやってもらって。定例会では俺の目が黒いうちは好き勝手させませんし」
最初は随分軽い感じのイケメンが来たなあと思ったけど、ここに来て奏多の存在がデカすぎる。元々のスペックが高いから機材の扱いもすぐマスターしたし、インターフェイスの音源管理システムも今じゃ中心となって構築してる。
基本的に天才肌の軽い奴という雰囲気を纏いつつも、春風が言うにはかなり真面目な努力家とのこと。それを表に出すことを嫌いつつも、その面を強く出すべき部分もちゃんとわかってんだよなコイツは。ホントにタメかよ。実はもう1コ2コ上なんじゃねーのか?
「野坂さんのおかげでかっすーもちょーっとだけ反省したのか奈々さんへの報告っつーことを覚えたみたいなんすけどね? アイツの動く規模に対してまだまだ足りないんすよね」
「まあそうだよなあ。カノンはここっていう一点に集中したらそんなことすぐ忘れそうだし」
「なんでね、俺はかっすーのやりたいことを実現出来るように動きはしますけど、奈々さんの手となり足となるっつーのが基本で。俺の動き方の指針は奈々さんっす。あの人がサークルのトップなんでね」
「奏多って意外に献身的なんだな」
「献身的っつーかねえ。かっすーが自分のやりたいことに一直線で周りが見えなくなりつつあって、春風もロボコンで忙しい。いろははまだサークルに入って日が浅い。現役であの人の話をちゃんと聞いてやれるのは、俺しかいないっしょ。ま、それでなくても歳は上なんでね、あの人がおかしいこと言ってりゃ俺はちゃんと突っ込みますし。可愛い可愛い先輩なんでね」
実際、奈々に必要だったのは対等な立場で話せる相手なのかもしれないとは思った。急に規模が大きくなったサークルを、最高学年として1人で支えなければならないんだ。しんどいだとか、どうしたらいいかわからないと思ったことは一度や二度ではないだろう。これまでのサークルのことを知っているのは自分だけ。繋いで、支えなければという気持ちも強かったはずだ。
で、俺が奈々の立場だったらサークルを引退した4年生の先輩に心配や迷惑なんかかけられないと思うから、相談もしにくい(奈々から見た4年は俺たちだからともかく、俺の1コ上は菜月先輩と圭斗先輩なワケで……)。奏多は実際デキる奴だし、奈々から見れば学年の上では後輩であっても実年齢は年上だ。他の2年生よりはちょっとしたことを相談しやすいのかもしれない。
カノン、春風、奏多の3人で奈々をしっかり支えていこうという話はしたそうだけど、それをさらに違う角度から見て、感じたことを奏多なりに実行したのが今の形なんだろう。2年生に対しては友達として、1年生に対しては兄貴分として、奈々に対してはデキる後輩、時には“先輩”として。口では自分が一番と言いつつも、実際は一歩下がって誰かを立てて、その相手を支えている。
「奏多は自分の力量をちゃんと把握してるだろうけど、くれぐれも無理はすんなよ。話を聞いてると凄く忙しそうだ」
「ええ、ご忠告どーも。痛み入ります。それよりアンタはどーなんです? ロボコン詰めなんでしょ?」
「春風から聞いてるか?」
「そりゃあもう。アンタが馬鹿強くてどう対策を取ろうかって人をサンドバッグ代わりに殴る蹴るの応酬ですよ。大体お前の突きだの蹴りだのをロボットで再現出来るかっつーの」
「そういや春風って格闘技の経験者だったな」
「ま、春風は“クレバー”って単語を知らないんでね、実際結構性格悪いっぽいアンタには何回やっても勝てないとは思います」
「言ってくれるな、クズなのは否定しないけど」
「ああ、そーいやアンタどっか行こうとしてるトコでしたね。引き留めてスイマセン」
「何しに外出るつもりだったかマジで忘れた。元々気分転換のつもりだったしゼミ室帰るかー。……いや、腹減ってたんだった。食うモン買いに出ないと」
end.
++++
同じ4年生でも佑人は友達でノサカはちょっと先輩みたいな感じで微妙な距離感が見て取れる。
奈々は愚民たちを愚民の先輩たちって表現するからある程度は砕けて見てはいるんだろうけど頼るとなるとまた違うのかな
(phase3)
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「あー野坂さんちょーどいいところに! ちょっとお時間いいです?」
「よう奏多。どうした?」
最近は大学祭と同時開催されるロボット大戦のために情報棟に籠もりっきりだ。大会まであとひと月を切り、詰めの作業が忙しい。気分転換ついでに何か食べる物でも買いに行こうとすると、エントランス脇のロビーに奏多が陣取っている。何か俺に用事があるっぽいし、これもいい気分転換になるだろうと足を止める。
「いやーちょっと学祭のことでいろいろ相談したいことがありまして。ほら、俺MMPでの大祭って初めてなんで、わかんないことだらけなんすよ」
「内容にもよるけど、分かる範囲でなら相談に乗るよ」
「あざーっす。まず、番組のタイムテーブルのことなんすけど――」
そう言って奏多はずらずらと文字や表が描かれたルーズリーフを広げて話し始めた。春風からも断片的に聞いていたけど、今年のMMPではDJブースと食品ブースの2ブースを同時に出すことにしたそうだ。カノンがすがやんから聞いた緑ヶ丘の話から着想を得て提案したらしい。今年の人数ならまあ出来るだろうと。
去年は奈々とカノンの2人で迎えることになる来期に向けた資金を稼ぐために、放送サークルのアイデンティティとも言えるラジオの部分を取っ払って商売一本で行くことにした。だから大学祭で出すDJブースのことを知っているのは現役では奈々1人。今年は絶対にDJブースをやって、歴史や技術の継承をしたいのだと。
ただ、如何せんカノンの張り切り方であったり、裏で思いついていた企画のおかげでやることの規模がデカくなる一方。カノンが企画するだけしてとっ散らかしている部分を奈々と奏多でどうにか後始末をしながら体裁を保っているという状態なんだそうだ。とは言え奏多もMMPでの大学祭は初めてなので、せめて自分は地に足をつけておかなくては、とのこと。
「食品ブースとの兼ね合いも見ながらシフトをテキトーに決めて、かっすーが言ってる余所との中継の都合も見つつ、春風のロボコンも撮りに行かなきゃいけないっしょ? まーまーやることが多くてですね」
「奈々は何をやってるんだ?」
「あの人は大祭実行委員関係の手続きだったり、食品関係と金のことを詰めてもらってますね。あと、俺の立てたタイムテーブルが破綻してないかとかを見てもらってます。機材管理だとか、技術的なことは俺に一任されてるっつー感じで」
「そうか。……と言うか、言い方は悪いかもだけど、派手でオイシイことをカノンがやってて、一見地味な雑務を奈々と奏多でやってるってことか」
「ま、傍から見りゃそーなりますかね」
「カノンはああだからカノンなんだけど、あまり行き過ぎるようなら問題だぞ」
「わかってます。ま、せめて内々では好きにやってもらって。定例会では俺の目が黒いうちは好き勝手させませんし」
最初は随分軽い感じのイケメンが来たなあと思ったけど、ここに来て奏多の存在がデカすぎる。元々のスペックが高いから機材の扱いもすぐマスターしたし、インターフェイスの音源管理システムも今じゃ中心となって構築してる。
基本的に天才肌の軽い奴という雰囲気を纏いつつも、春風が言うにはかなり真面目な努力家とのこと。それを表に出すことを嫌いつつも、その面を強く出すべき部分もちゃんとわかってんだよなコイツは。ホントにタメかよ。実はもう1コ2コ上なんじゃねーのか?
「野坂さんのおかげでかっすーもちょーっとだけ反省したのか奈々さんへの報告っつーことを覚えたみたいなんすけどね? アイツの動く規模に対してまだまだ足りないんすよね」
「まあそうだよなあ。カノンはここっていう一点に集中したらそんなことすぐ忘れそうだし」
「なんでね、俺はかっすーのやりたいことを実現出来るように動きはしますけど、奈々さんの手となり足となるっつーのが基本で。俺の動き方の指針は奈々さんっす。あの人がサークルのトップなんでね」
「奏多って意外に献身的なんだな」
「献身的っつーかねえ。かっすーが自分のやりたいことに一直線で周りが見えなくなりつつあって、春風もロボコンで忙しい。いろははまだサークルに入って日が浅い。現役であの人の話をちゃんと聞いてやれるのは、俺しかいないっしょ。ま、それでなくても歳は上なんでね、あの人がおかしいこと言ってりゃ俺はちゃんと突っ込みますし。可愛い可愛い先輩なんでね」
実際、奈々に必要だったのは対等な立場で話せる相手なのかもしれないとは思った。急に規模が大きくなったサークルを、最高学年として1人で支えなければならないんだ。しんどいだとか、どうしたらいいかわからないと思ったことは一度や二度ではないだろう。これまでのサークルのことを知っているのは自分だけ。繋いで、支えなければという気持ちも強かったはずだ。
で、俺が奈々の立場だったらサークルを引退した4年生の先輩に心配や迷惑なんかかけられないと思うから、相談もしにくい(奈々から見た4年は俺たちだからともかく、俺の1コ上は菜月先輩と圭斗先輩なワケで……)。奏多は実際デキる奴だし、奈々から見れば学年の上では後輩であっても実年齢は年上だ。他の2年生よりはちょっとしたことを相談しやすいのかもしれない。
カノン、春風、奏多の3人で奈々をしっかり支えていこうという話はしたそうだけど、それをさらに違う角度から見て、感じたことを奏多なりに実行したのが今の形なんだろう。2年生に対しては友達として、1年生に対しては兄貴分として、奈々に対してはデキる後輩、時には“先輩”として。口では自分が一番と言いつつも、実際は一歩下がって誰かを立てて、その相手を支えている。
「奏多は自分の力量をちゃんと把握してるだろうけど、くれぐれも無理はすんなよ。話を聞いてると凄く忙しそうだ」
「ええ、ご忠告どーも。痛み入ります。それよりアンタはどーなんです? ロボコン詰めなんでしょ?」
「春風から聞いてるか?」
「そりゃあもう。アンタが馬鹿強くてどう対策を取ろうかって人をサンドバッグ代わりに殴る蹴るの応酬ですよ。大体お前の突きだの蹴りだのをロボットで再現出来るかっつーの」
「そういや春風って格闘技の経験者だったな」
「ま、春風は“クレバー”って単語を知らないんでね、実際結構性格悪いっぽいアンタには何回やっても勝てないとは思います」
「言ってくれるな、クズなのは否定しないけど」
「ああ、そーいやアンタどっか行こうとしてるトコでしたね。引き留めてスイマセン」
「何しに外出るつもりだったかマジで忘れた。元々気分転換のつもりだったしゼミ室帰るかー。……いや、腹減ってたんだった。食うモン買いに出ないと」
end.
++++
同じ4年生でも佑人は友達でノサカはちょっと先輩みたいな感じで微妙な距離感が見て取れる。
奈々は愚民たちを愚民の先輩たちって表現するからある程度は砕けて見てはいるんだろうけど頼るとなるとまた違うのかな
(phase3)
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