2020(03)
■やさしくほどける
++++
「つ、疲れたあ~……」
「本当にお疲れって感じだね。そんなに凄かった?」
「もう、怒涛だよ! 疲れたぁ~」
青女さんは俺たちより1週間早く大学祭があって、ユキちゃんたちはステージと模擬店のカフェを回すのに3日間走り回っていたそうだ。家に帰る気にもならなくて、家とは逆方向の俺の部屋に転がり込んで来たんだって。
ステージの方は、Kちゃん先輩のアシスタントとして台本を書いたり演出をしたりしてて、来年はユキちゃんが台本を書くことになりそうだって。カフェの方では途切れることのない人を捌くのにフロアをそれこそ文字通りに駆け回ってたそうだ。
俺はそんなユキちゃんにあったかいミルクティーを出して、怒涛の3日間を労う。金曜日は普通に授業で土曜日はバイトだったし、日曜日は予定が空いてたけど1人で女子大に行く勇気もなかったから見に行けなかったんだよね。だから話でしか様子がわかんないんだけど、学祭前から大変そうではあったから。
「ん~、おいし~。ミドリのミルクティーってホントにおいしい」
「バイト先でも淹れてるからね」
「ホント上手。相当手慣れてるよね」
「まあ、ティーバッグなんだけどね」
「は~……ほどける~、ってこういうことを言うのかも~」
両手をカップに添えてくたーっとしてるユキちゃんが本当にかわいいと思う。思えば、俺の部屋にユキちゃんの物も増えて来たなあと思う。例えば、今使ってるマグカップにしてもそう。部屋にも、台所にも、洗面台にもユキちゃんの物がある。
「ユキちゃん、ごはんはどうする? 良ければ作るけど。食べに行く気分でもないよね?」
「えっ、作ってくれるの!?」
「俺が作る物だから、レベルの方は察していただけるとありがたいけど」
「何でも食べる! えー、ミドリの手料理かー、嬉しいなー」
「えっと、手料理って言えるほどの物でもないからね」
「ううん、ミドリは自分が思ってるより料理上手だよ」
「え、そうかなあ。それじゃあ作って来るよ」
台所に立って、何が出来るかなと考える。うちに必ずあるのはサバ缶。ユキちゃんは疲れてるだろうから食べやすそうな……麺類がいいかな。ちょうど冷凍うどんもあるし。ちょっとスマホでサバ缶とうどんでレシピを検索して、良さそうな物を採用。
冷凍庫には冷凍食品の野菜がいくらかある。ごぼうとかサトイモとか、俺が扱うにはちょっと難しいものを。下拵えがされてるから使いやすいんだよね。ちょっとつまんで入れればいいから簡単にたくさんの品目を取れる気になっちゃうよね。
「出来たよー」
「わー、なになにー?」
「サバ缶の豆乳スープうどんでーす」
「おいしそー! いいにおーい!」
あるものを鍋に入れてちょっと茹でただけ。あ、ちょっと味噌で味付けはしてるけど、そんな凄いことは全然してない。だけど汁物や煮物はサバ缶を汁ごと入れればそれだけである程度味が整っちゃうから凄いよね。
「それじゃ、食べよっか。いただきます」
「いただきまーす。……ん!」
「あ、おいしい。俺的には成功だ。ユキちゃん、どうかな?」
「すっごいおいしい! 食べやすいし。はー、優しい~」
「よかった。ある物で何が出来るかなって検索して、簡単そうなのがあったから作ってみたんだけど。これ、今度からレパートリーに入れてもいいかな」
「ゴマをふりかけても美味しそうだね」
「あ、いいね」
凝った料理は全然出来ないけど、冷凍食品や缶詰だけでも美味しい物が作れちゃうから自炊も結構楽しかったりする。家料理のハードルを下げてくれて食品加工会社の人には本当に感謝しかない。楽だし、時短にもなるしね。
食べ終わった物を片付けて、改めて部屋に戻る。ユキちゃんはベッドに寄り掛かってくたりと首をもたれている。本当にお疲れだねと言えば、あったかいしお腹いっぱいで~と。気持ちはよくわかる。眠くなっちゃうんだよね。
「ユキちゃん、もう寝る?」
「もうちょっと起きてる。食べてすぐ寝たら太っちゃうし」
「あはは、確かに食べてすぐ寝るのは良くないかもね。それに、まだ8時過ぎだし」
「あ、まだそんな時間だったんだ。もう9時半くらいの気持ちだった」
「まだ8時過ぎだよ」
「そっかー」
「もう少ししたらお風呂に入る? お疲れだしお湯でも張ろうか」
「えー、何か今日至れり尽くせりー。本当にいいのって感じ」
「いいよ。ユキちゃんがずっと頑張ってたの、見てたもん。俺に出来るのはこれくらいだし」
「それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
お風呂を掃除して、お湯を張る。もしかしたらこの間にユキちゃんが寝てるんじゃないかと思ったけど、起きてたことに逆に驚いたりもして。明日はお互い授業があるからあんまり遅くまでは起きてられないけど、この感じならその心配は要らないかな。
「ミドリ、今日は甘えるけど今度はあたしがお茶淹れるし、ごはんも作るからね」
「うん、楽しみにしてるよ」
end.
++++
久々のミドユキ。ここはあれね。ユキちゃんがバリバリ働いてミドリがそれを癒してる印象がなかなか強い。
TKGと比較すると顕著なんだけど、ミドリは自分でもそこそこ料理してる感じ。部屋にサバ缶は欠かさないし。今は検索すれば何でも出て来るからすごい
恐らく今後のABCはユキちゃんが先頭に立っていくのでしょう。もっと苦労が増えるかもだけど、サークルの外に駆け込める場所があるのはいいですね
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「つ、疲れたあ~……」
「本当にお疲れって感じだね。そんなに凄かった?」
「もう、怒涛だよ! 疲れたぁ~」
青女さんは俺たちより1週間早く大学祭があって、ユキちゃんたちはステージと模擬店のカフェを回すのに3日間走り回っていたそうだ。家に帰る気にもならなくて、家とは逆方向の俺の部屋に転がり込んで来たんだって。
ステージの方は、Kちゃん先輩のアシスタントとして台本を書いたり演出をしたりしてて、来年はユキちゃんが台本を書くことになりそうだって。カフェの方では途切れることのない人を捌くのにフロアをそれこそ文字通りに駆け回ってたそうだ。
俺はそんなユキちゃんにあったかいミルクティーを出して、怒涛の3日間を労う。金曜日は普通に授業で土曜日はバイトだったし、日曜日は予定が空いてたけど1人で女子大に行く勇気もなかったから見に行けなかったんだよね。だから話でしか様子がわかんないんだけど、学祭前から大変そうではあったから。
「ん~、おいし~。ミドリのミルクティーってホントにおいしい」
「バイト先でも淹れてるからね」
「ホント上手。相当手慣れてるよね」
「まあ、ティーバッグなんだけどね」
「は~……ほどける~、ってこういうことを言うのかも~」
両手をカップに添えてくたーっとしてるユキちゃんが本当にかわいいと思う。思えば、俺の部屋にユキちゃんの物も増えて来たなあと思う。例えば、今使ってるマグカップにしてもそう。部屋にも、台所にも、洗面台にもユキちゃんの物がある。
「ユキちゃん、ごはんはどうする? 良ければ作るけど。食べに行く気分でもないよね?」
「えっ、作ってくれるの!?」
「俺が作る物だから、レベルの方は察していただけるとありがたいけど」
「何でも食べる! えー、ミドリの手料理かー、嬉しいなー」
「えっと、手料理って言えるほどの物でもないからね」
「ううん、ミドリは自分が思ってるより料理上手だよ」
「え、そうかなあ。それじゃあ作って来るよ」
台所に立って、何が出来るかなと考える。うちに必ずあるのはサバ缶。ユキちゃんは疲れてるだろうから食べやすそうな……麺類がいいかな。ちょうど冷凍うどんもあるし。ちょっとスマホでサバ缶とうどんでレシピを検索して、良さそうな物を採用。
冷凍庫には冷凍食品の野菜がいくらかある。ごぼうとかサトイモとか、俺が扱うにはちょっと難しいものを。下拵えがされてるから使いやすいんだよね。ちょっとつまんで入れればいいから簡単にたくさんの品目を取れる気になっちゃうよね。
「出来たよー」
「わー、なになにー?」
「サバ缶の豆乳スープうどんでーす」
「おいしそー! いいにおーい!」
あるものを鍋に入れてちょっと茹でただけ。あ、ちょっと味噌で味付けはしてるけど、そんな凄いことは全然してない。だけど汁物や煮物はサバ缶を汁ごと入れればそれだけである程度味が整っちゃうから凄いよね。
「それじゃ、食べよっか。いただきます」
「いただきまーす。……ん!」
「あ、おいしい。俺的には成功だ。ユキちゃん、どうかな?」
「すっごいおいしい! 食べやすいし。はー、優しい~」
「よかった。ある物で何が出来るかなって検索して、簡単そうなのがあったから作ってみたんだけど。これ、今度からレパートリーに入れてもいいかな」
「ゴマをふりかけても美味しそうだね」
「あ、いいね」
凝った料理は全然出来ないけど、冷凍食品や缶詰だけでも美味しい物が作れちゃうから自炊も結構楽しかったりする。家料理のハードルを下げてくれて食品加工会社の人には本当に感謝しかない。楽だし、時短にもなるしね。
食べ終わった物を片付けて、改めて部屋に戻る。ユキちゃんはベッドに寄り掛かってくたりと首をもたれている。本当にお疲れだねと言えば、あったかいしお腹いっぱいで~と。気持ちはよくわかる。眠くなっちゃうんだよね。
「ユキちゃん、もう寝る?」
「もうちょっと起きてる。食べてすぐ寝たら太っちゃうし」
「あはは、確かに食べてすぐ寝るのは良くないかもね。それに、まだ8時過ぎだし」
「あ、まだそんな時間だったんだ。もう9時半くらいの気持ちだった」
「まだ8時過ぎだよ」
「そっかー」
「もう少ししたらお風呂に入る? お疲れだしお湯でも張ろうか」
「えー、何か今日至れり尽くせりー。本当にいいのって感じ」
「いいよ。ユキちゃんがずっと頑張ってたの、見てたもん。俺に出来るのはこれくらいだし」
「それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
お風呂を掃除して、お湯を張る。もしかしたらこの間にユキちゃんが寝てるんじゃないかと思ったけど、起きてたことに逆に驚いたりもして。明日はお互い授業があるからあんまり遅くまでは起きてられないけど、この感じならその心配は要らないかな。
「ミドリ、今日は甘えるけど今度はあたしがお茶淹れるし、ごはんも作るからね」
「うん、楽しみにしてるよ」
end.
++++
久々のミドユキ。ここはあれね。ユキちゃんがバリバリ働いてミドリがそれを癒してる印象がなかなか強い。
TKGと比較すると顕著なんだけど、ミドリは自分でもそこそこ料理してる感じ。部屋にサバ缶は欠かさないし。今は検索すれば何でも出て来るからすごい
恐らく今後のABCはユキちゃんが先頭に立っていくのでしょう。もっと苦労が増えるかもだけど、サークルの外に駆け込める場所があるのはいいですね
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