メモと小ネタ帳

綺麗(アンブロシアとジル)

2024/10/20 11:29
FF16
※テキストにある覚えているのクライヴとジルのその後。
ちょっとした補足的な小話ですが単体でも読めます。

それはふと視線を向ければ目に入ってくるので迷うことなく言葉にする。
「毛艶が良いな、綺麗だ。今日も頼むぞアンブロシア」
空が覆われて透き通った青空が見えなくなり少し日にちが経った。ようやくジョシュアも目を覚まして、実に18年振りに3人でいられるようになったのだ。
フェニックスを降ろして苦しんでいるお前が目の前にいるのにナイトとして誓っておきながら。
何も出来ない自分が嫌で飛び出そうと炎と崩れていく瓦礫からアンブロシアが俺を守ってくれたのだとそう伝えると。
ジョシュアも両手で彼女の顔を優しく包み込み、じっとその傷ついた瞳を見つめる。


気高くそれでいて兄さんの為に自分の瞳が傷ついても構わなかったのか…。
忘れないでいてくれて…感謝している。トルガルにも、な。
ロザリアの宝と呼ばれていたんだね。アンブロシアに相応しいね。
白い馬(チョコボ)はひときわ目を引く。群れを率いて彼らを守っていたからなおさらその生き様が目に焼き付いたんだろう。


狩りに出ていく兄をジルと共に見送っていた少年時代を思い出した。
気性の激しさは兄がまたがり森や荒野であっても大地をしっかりと踏みしめそして相手が魔物であっても強烈な蹴りをお見舞いする姿から変わっていないのだとよく分かる。
荒々しくも気高い。アンブロシアはそうした気質であり、兄も弟も綺麗だとそう語る。

2,3歩ほど離れたところでジルが兄弟のそのやり取りを眺めていた。少女だった時は厳しくも稽古を欠かさないクライヴをひとりで、そしてジョシュアが屋敷の外に出られるようになってからふたりでよく見届けていた。アンブロシアにまたがり狩りに出て行くその姿も。
その時は自身も馬(チョコボ)にまたがって彼に付いていくなどとは思ってもいなかったがすっかりと慣れた。
「さて、のんびりしている時間はあまりない。急ぐぞ」
狩りに出ていた時と同じく颯爽とクライヴが乗り込み。
「クレシダだったね」
ジョシュアが借りて来た1頭に。
「バーナードの家族の墓がある。奥で徘徊している遺物に壊されてしまう前に退治しておこう」
「かつて戦った遺物たちは妙な剣を持っていたわ。範囲は広いでしょう、私は外から魔法で援護するわね」
「ああ、頼む」
ジルももう1頭に乗り込んで目的地へと向かう。



「助かったよ。バーナードにはふたりがここに来たばかりの頃に橋を直してもらった礼もあったからね」
空の異変が起きたままとはいえ、夜は闇に包まれる。
そうした中で月だけははっきり明るく見えヴァリスゼアの人々は隣に赤く輝くメティアと共に見上げるのだ。世話代としてギルを支払った宿の外にて馬(チョコボ)を世話している男はこれがそうなのかとまじまじとアンブロシアを見つめている。隣にはおやつをもらって丸まったトルガルの姿も。クライヴが少し待っていてくれるかとトルガルの頭とアンブロシアの首をぽんぽんと優しく撫でたので大人しくなっているのだが、実際に彼らが駆けていく姿を目にしたらさらに度肝を抜かれるであろう。
マーサの宿にても報告を終え、せっかくなので豆と野菜の入ったスープくらいは作り立てだし食べていきなよとカウンター席で招かれたのでありがたく頂くことにした。ニンジンをさりげなく残そうとしている弟の様子に子どもの頃からこうだったんだとクライヴが語るものだから。
ジョシュア様もお変わりないようでとマーサもからかうのではなくほっとした様子でああエルウィン様の魂はやはり残っているのだとそうじんわりと実感した。
パンの方はほんのり酸っぱい味わいがした。
ジルがそのことについて尋ねると、ドレイクヘッド破壊後のことはカンタンから聞いていますよね、小麦の収穫が厳しくなったので向こうから売りに出せないワインを分けてもらって長持ちさせるために入れているんですよと彼女は周囲に聞こえないようにそっと告げてくれた。
ジルがモリーにも話しておくわねとほほ笑んだので宜しく伝えてやってとマーサもインビジブルにいつか顔を出すような含みで元気に答えた。
食事が終わり次の作戦について打ち合わせをしようと2階で空いている部屋はあるかと立ち上がった兄弟に対しジルは針と糸を借れないかとマーサに持ち掛けた。先ほどのアトモスとの激闘でほつれてしまった箇所を話し込んでいる間に直そうとそう思ったのだ。
すぐに持っていくから2階の一番奥の部屋へどうぞと案内され、3人で足を早める。
大人が3人上ると若干狭くはある宿内、先に進んでいたクライヴが扉を開きジョシュアとジルに中に入るように促す。
ジョシュアが入り、そしてジルが進もうとするとクライヴがそっと耳元で今日も助かった、ジル。帰りにノースリーチに寄ろうと思うとそうささやいた。彼女が振り返ると。いつも丁寧にそのリボンで髪を纏めているだろう。市場ではまだ布を取り扱っている商人がいるから新しいのを君に贈りたいとそう優しい瞳と共にそう語ってくれた。

“綺麗だ”
彼は特段彼女に対してはそう言葉にはしない。ずっと会いたくてもう会えないのだろうと思っていた彼女は戦いを覚え兵器としてずっと過ごしていた。望まないまま剣と魔法を扱い。変わったのだと自ら彼に告げて。
人でいたいと、涙を流しながらただ傍にいるだけでない、本当の意味で彼と居たいとようやく告げたのはついこないだのことだ。
彼女の容姿だけ見ればあまりもう思い出したくはないのだがフーゴたちの部下が下品な品定めしていたように男にとってはそうした意味でも価値があるのだろう。

彼にとって彼女はそうした人でない。もっとずっと中にあるもの。
彼女が大切にしたいと願っている心の奥底にあるもの。
凛として毅然とした姿も、本当は心の奥にしまいこんだ大切なものを動かしたいという必死で抗うその歩み方そのものが。
彼を強烈に惹きつけているのだ。だからこそ彼は彼女を尊び敬愛する。言葉ではなく行ないでそれを示す。そうでなければ彼女に伝わらない。彼自ら進み出ていくのだ。前に進むと決めたあの時から。その中に君も共に含まれているのだと優しい瞳でそう訴えてくる。
瞬き程のほんの数秒。それでいて彼の想いを彼女は受け取り。
「ええ、行きましょう」
ゆっくりとほんのり微笑んだ。少し頬が上記しているのは気のせいではない、確かに暖かくなったと感じて。
「良かった」
さあ次だな、と彼も部屋へ入って行く。
「兄さん。その前に相談したいことがある」
弟が持ち掛けた内容から再び抗なければならない事態に3人で意識を向けた。

人から離れながらも人であることを貫こうとした彼と。
人に戻りたいと願いながら彼への想いをずっと募らせつづけた彼女の。
これは想いの繋がりを重ねてきた中でのある一瞬のやり取り。

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