メモと小ネタ帳

大地と風(フーゴとベネディクタ)

2024/09/06 21:32
FF16
ベネディクタに懐柔されているフーゴの小話。



その巨体は大地の怒りを轟かせる。
土の属性を授かり。それ自体が強大な要塞のようである。
マザークリスタルドレイクファングは山脈と一体と化しており。
5つの協議会から成るダルメキア共和国は実質権力者としてクプカ卿に逆らえるものは存在しない。
後に売国奴を皇后として据えたザンブレク皇国もまた。賢人たちが権力に呑み込まれ神皇が彼女の言いなりとなり現人神のように誇り高ぶっていったように。
「フーゴ」
同盟国ではあるがその条約は骸と化している。最もマザークリスタル以外に資源が望めないこのヴァリスゼアでは現状として破棄も出来ない。
ダルメキア・ウォールード同盟国同士の会談は黄昏の時を迎えているヴァリスゼアと同じくよどんだ空気を纏ったまま、打ち切られた。
巨漢であるその男―タイタンと呼ばれる圧巻な巨人をその身に降ろすドミナント、フーゴに金髪でどこか冷淡な色気を放つウォールードの女騎士が近づいた。彼女もまた風の属性を抱くガルーダのドミナントなのだ。残虐であらゆるものを切り刻んでいく。
「ベネディクタ、もういいのか」
「残念ながら。こっちのお偉い様、随分と煩いのよね。蠅みたいな内紛じゃうちの隊ももったいないから。ちょっと雑兵の訓練としてそれ相当の人数を送ると伝えたわ。あとベアラーたちも十数人。そっちは終わったら捨てるなり売りに出すなりお好きにどうぞ。
スレイプニルが指揮を。まあ彼も別に再訪する気はなくて、あくまで指示だけだけど」
「そうか、残念だ。久し振りに会えたのにな…」
意味ありげな含みを入れた笑みはこの男によく似合っているものだ。
「王になるのでしょう。その為の準備はあなたのことだもの、虎視眈々と進めている…」
「すべてが整ったのならベネディクタ。お前が俺の隣に…」
両肩を力強く握り。男は女を自らにまるで取り込むような、貪るように距離を詰める。
「あら、いけないわよ。今はまだ、ね」
ベネディクタは優しくそれでいて誘い込むようにフーゴの頬に触れた。
意外にもフーゴはすっとベネディクタから離れた。
「…確かにな。王座に就くのは全てを手に入れてからだ」
「フーゴ。知ってる?タイタンは岩のような巨体。風は全くそれには敵わない。でもね、切り刻むような凶悪な風は岩を削り。狂暴だからこそ手は緩めない。
そうして長い時を経て風化させていくの、さらさらとね」
フーゴがすっと目を細めた。ベネディクタも上目遣いと唇で弧を描き挑発する。
「俺とお前のことを言っているのか。タイタンは大地とも直結する怒りの力だ。
地上だけでない、地下まで追いかけて追い詰めるさ。溶岩より熱いものを注いでやろう」
「あら、そこまでして欲しがってくれるなんて嬉しいわね」
頬をすりすりと色っぽく撫でながら。楽しみにしているわよ、とベネディクタはフーゴがこの場の別れを惜しむように印象づけていく。
彼が彼女を欲するように。情欲を抱くように。

後に、ひとりの男はドミナントの力と、マザークリスタルの吸収から与えられたエーテルごと。全身が石化に至り。半身残ったその身も、ドレイクファング消滅と共に風化し滅んで行った。

大地はそれを受け入れない。風がすべて攫って行ってしまったから。
ひとりの王と彼の忠臣も傍観者のようにその終わりを語っていた。

彼らの主である理が求める存在ではなかったからだ。

その日から程なくしてある小さな集落が廃墟と化した。村人たちはひとりまたひとりと姿を消していったからだ。
日ごとに風化し壁も崩れ落ちた岩壁は風によって運ばれてダルメキアの赤い土へと同化していった。
土の民も、また。
神話の時代が終わると共にその名称は歴史から姿を消していった。

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