テキスト(他CSゲーム)



今日は珍しくバブロもオフだし、他のフォームスターメンバーも全員オフという…そういやあいつらマリーナ地区で開かれたボンバヘッドの祭りとやらには行ったのだろうか?見るからにパリピ全開のそれでいてすぐに泣くわ喚くわうるさいあのアフロに付き合わされるパーティーなんて(ああパーティーという単語自体がNGだ!)オレは願い下げだがな!
イベントがなければああヒマだ!などとパリピ共のようにわめいている場合ではない、起きたら起きたでバブロが捨てた空き缶がオークションでとんでもない値段が付けられた事案があったがそれがわざわざニュースになったくらいだ。
すぐにSNSをチェックしてあの男の動向を探らんと。
研究にヒマなどない。そう気合を入れて研究成果が綴られたミニノートを片手に利き手でケイオスがスマートフォンをいじりはじめると。
バアンと急に部屋のドアが開いた。
「母さん、せめて部屋に入る前はノックぐらいしてくれ…」
「ケイオス、今すぐ着替えて出かけなさい。ソアちゃんが来ているのよ!」
ああさっきインターフォンが鳴っていたな、まあめんどくさいしそういう相手ならいつも母さんがやってくれて―‥‥
「ん?ソア?」
どうしたんだ、フォームスターとして緊急の用だろうか?
窓から外をのぞくとこっちに気づいて。エンダーくん、おはよー!と明るく手を振っている。
「い・ま・す・ぐ・よ。女の子を待たすんじゃないよ!」
こういう時に逆らうとどういう目に遭うのかは小さい頃から叩き込まれている。
急いで支度を整えようとしている最中に。
あんたはスタイル悪くないんだからちゃんとしなさい!と追い立てられ。シャツが曲がっているとかポッケが出ているとかにおごらすようなバカな真似はしないようにと怒りのお小言3連打。デービッドカードを持たされ家から放り出されるようにすごすごと出ていく。
“バブロさんやソアちゃんたちがいてくれて良かったわ、そうでなきゃ今ごろあんたは引きこもりのまま詰んでた”としみじみと語る極めつけを背中に投げられながら。


並んで歩きながら近くの公園までたどり着いた。
「オフの日にありがとうね、エンダーくん」
ソアは以前に通信で繋がった(ソア・マイボイスというものだ。ボンバヘッドとやらを押しのけて質問したいことがあったからな。ちょっと軽くやってみた)時と変わらず明るい調子であいさつをしてきた。
「フォームスターとして緊急…という訳ではないのか」
アイドルでもあるソアの衣装は動きやすいものが多いが今日はさらにカジュアルだ。白と水色のカラーが暑いこの時期には良く似合っている。ケイオスも白を好む…もとよりそれはフォームスターズチャンピオンその人のカラーでもある。

すれ違う人々は。
あ、ソアちゃんだ!
あの男はだれだ?
彼のフォームスマッシュリアルタイムで観た事あるわよ、なんかワケわかんないことわめいてた気がするけど。今日は打ち合わせかもね~
などと状況をすぐに察し。
SNSで晒すようなマネをするファンはソアにはいないのだなとケイオスは実感した。

「エンダーくんマジメだなあ、皆オフの日ってなかなかないもんね」
ソアはにこにこしながら楽しそうに何か予定を決めて来た様子だった。
「まさか、今からオマエの所でパー…」
くるりと180℃方向転換して逃げ出そうとしたケイオスのシャツをちがうちがうとソアは引っ張って引き止める。
「エンダーくんがパーティーに苦手意識あるのは分かったから。ほら、前にみんなでメルティちゃんのお店でアイス食べに行ったとき!エンダーくん落っとこしちゃってずいぶん落ち込んでいたでしょ」
それも正直思い出したくない微妙にトラウマな事案ではある。
パリピ代表とも言えるジェッターとトニックはアイスを買う前から仲良く元気で食べ終わってからもジェッターのチャージショット発明に関して終始盛り上がりこいつら既にデキてるのかとこちらにいちゃつきを見せつけてきた。
「エンダーくんのワックス、トニックのスカッシュと一緒に心配してたし。今日は私が奢るよ」
エンダーくん甘いの好きでしょ、と明るく微笑んで。
「まあ…頂こう」
好きなものを好きとは素直には言えない性格だ。
「じゃあ、行こう。その前に確かめたいことあるからついて来てね」
「この辺にもメルティーズは…お、おい。ちょっと待て…」
さすがアイドルだけあって歩き方も様になっている。颯爽と進んで行く彼女の後に今度は慌てて付いていくハメとなった。


辿り着いた場所はバスベガスの中でも上位に入る大きなドーム型のコンサート会場だった。
もっとも今日は何のイベントも行われておらずがらんどうとしている。
ディスプレイには来月行われるソアたちアイドルグループのコンサート内容と夏休み中の子どもたちに向けてミュージアムイベント、メルティーズとあきんどのCM、ブランドものや化粧品、そしてバブロ・エスプーマのここ最近の実績がニュースとして流されていた。
警備係の男に片手であいさつをしてあっさり会場内へと進む。

許可もらって中に入れるようにしてもらったんだ。
意味があるのか、それは…。
そういうのは最初から決めつけるんじゃなくて、最後に決めればいいんだよ。

何か狙いがあるのかと訝しげになりながらも人込みが苦手な身としては人ひとりとしていない場所は非常に気がラクだ。
ソアがすり鉢状のコンサート会場の階段を迷うことなく降りていく。
アリーナ席として用意されるのであろう場所へと立ち、やあソアちゃんと無精ひげを生やした中年の男が向こうから手を振ったかと思うと近づいて来る。一応、いるのか。
「わざわざ見に来てくれたのか」
「ここを管理している人の助けもあってコンサート出来るんだから。ありがとうって伝えたくて」
ふたりから少し距離を置いているケイオスにはぼさぼさ頭の男が笑みを浮かべている以外はソアの背中姿しか見えない。彼女はいつも通りの態度で接しているのだとは思う。
ケイオスがソアに持っている印象は明るい人気アイドルでありそこら辺のパリピ共とは違いそれほど騒がしくないすっきりとしたものだ。グループの他メンバーもバブロ・エスプーマの情報を集めているSNS上でも悪くいうようなファンを見た事はない。まあそれは自分がバブロの情報を優先的にかき集めているからで預かり知らない所では色々あるのだろうか。バブロもスタープレイヤーである彼のことを悪く言うような出来事に出くわしたことはない。ただ一点引っかかっていることがある。バスベガスNo.1のフォームスターである男の特集や過去についてほとんど報道がされていないのだ。
今もディスプレイに流されているのは彼の輝かしい実績のみ。

フォームスマッシュに参加しながらマイボイスという番組を続けているソアはというと毎日忙しそうだが番組自体が好評で研究中にラジオをつけっぱなしにしているケイオスも本格的に活動するまで見聴きしてきたのはパブロを除けばソアだ。
だからこそパリピ共は何故群れたがるんだと彼女に訊いてみた。
―エンダーくん、パリピが嫌いなんだ。
否定せずごく自然にエンダーくんはそうなんだと受け取って。どうしてそうなのか今度は向こうから尋ねてきた。
今もすらっと姿勢よく立ち会場を管理している男と話し合っている彼女と何ら変わらない。ソアは誰に対してもこうなのだろう。

ふと彼女が視線を2階席北側端の方へ向ける。
「あそこなら通れるようにしてある。行っておいで」
“うん”―そう頷いて踵を返した彼女にエンダーくんも来てと腕を引っ張られた。
「またか…」
「エンダーくんの意見も聞きたいから」
コンサートなど生涯縁がないオレが何か言ったとして役に立つのかとぼやきたかったがソアのまっすぐで真剣な瞳を見て引っ込めることにした。


ふたりで並びながら端も端である席に座り込んでみた。
「見づらくないか」
「そうだね」
モニターがこの辺りにあって…とソアが身振り手振りで様子を確認している。
これがフォームスマッシュであるならむしろ好都合な立ち振る舞いが出来るんだがとつぶやくケイオスにエンダーくんは本当に真面目だねとソアが明るく語りかける。
「先週ね、マイボイスに初めて私たちのコンサートに行けるって喜んでくれたファンの子が声を寄せてくれて。リセールだったけど本当に嬉しいって涙流しながら話してくれたの」
「…この席なのか」
「フォームスマッシュ大会も盛り上がれば盛り上がるほどその一体感を目にしたいとたくさんの人が集まる」
(殺菌にはちょうど良いけどな)
コンサート会場の準備とかは1年も場合によってはそれ以上前から始まるけれど―…と詳しくない彼の為に沢山の人が支えてくれるから出来るんだよと彼女は続ける。
「その子にとって私たちのコンサートの一瞬も大事なんだってそう思った。バスベガスはマスターの言う通り眠らない街。メーネルを通してそれがはっきりと分かった。
フォームスマッシュもアイドル活動も私は頑張りたいって思っているから私自身が嬉しかった。その子にこの席で最高のステージを届けて上げたいってね…」
ソアのその想いはマイボイスからも聞いたことはある。
「何でオレなんだ…」
「私では気づけないものがある。エンダーくんが私たちのことを良く見てくれて。研究熱心だって知っているよ。この会場はバブロがフォームスマッシュで勝利を幾度も勝ち取って来た。エンダーくんが知っていることを教えて欲しいんだ」
「…オレが話せるのはバブロ研究のことだけだぞ…」
「それがいいの。お願いできるかな」
「仕方ない…」


ここに来て、エンダーくんのアドバイスも聞いて。ちゃんと向き合いたかった。
そうソアは語ってくれた。

彼女はどこまでも真剣で、真っ直ぐだった。最初はぼそぼそ話していたケイオスも相手がふんふんなるほどさすがエンダーくんとしっかりと聞いてくれる姿にだんだんとテンションが上がっていった。
ぼさぼさ頭で無精ひげを生やしていた会場管理の男が途中でハンバーガーセットの差し入れをふたり分買って来てくれて。
昼休憩を挟んだ後はまた長く続けて来た研究の成果も合わせてバブロの立ち振る舞い含めてこの会場での出来事をすでに飛び越えてたっぷりと講釈を垂れることとなった。
途中バブロはどうしたこうした、パリピ共がああだこうだと垂れることも多いケイオスだったがソアは嫌な顔ひとつせず笑顔を浮かべながらずっと聞いていて。時にはじゃあエンダーくんこうしてみたらと顔を覗き込みながら提案してきて。
いや、いいと突っ返すのを日が暮れるまで幾度か続けたとある休日午後日和となった。

(偶には…こういうのも悪くはないな…)


「すっかり遅くなっちゃったね」
「母さんから連絡は…別に来ていないな」
日が沈んでもバスベガスの街はネオンと行き交う人々が次のフォームスマッシュパーティーを楽しみにしているおかげで明るい。
「約束遅くなってごめんね、この近くにメルティーズあるから奢るよ」
「…いや、オレが奢る」
「…え?」
「母さんに…いや、今日の礼だ」
礼を言うのは私の方だよとソアはそう語るがケイオスはいいからそうさせてくれと勇み足を踏み込み、
「…場所はどこだ」
困ったようにソアの方へ向き合う。
くすくすとソアは笑って。じゃあ私が案内してエンダーくんに奢ってもらう。
晩御飯も美味しいところあるの知っているから行ってみる?と招いてみた。
普段の彼なら断るとすべからず蹴っていたかもしれない。
「まあ、良いだろう」
この日は本当に久しぶりに機嫌が良かった。今度は私の家に皆来るからおいでよと続けるソアにパーティーでなければ考えてやっても良いと答えるケイオス。

―フォームスマッシュの研究会しようか。
―パリピ共はともかくグウィンは来るのか?
―エンダーくん優しいね。彼女なら大丈夫。ひとりではだめだとトド師匠に教えてもらったってトニックが話してくれたから。
―会話できるのか、あれと…。



ああ、エンダーくんひとつだけ良いかな。
なんだ。
私たち、バブロのことできっとまだまだ知らないことあるんだよね。
‥‥。
噂は噂でしかない。本当の意味で彼と向き合えるのは―。
フォームスマッシュでだな。オレはバブロと戦う為にフォームスターになったんだ。
おおっ、カッコイイね!私も負けないから。
パリピ共含め覚悟しておけよ。

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