他CSゲーム小ネタ集①


・キャラクタークリエイトで選ばなかった片割れが話しかけてくれるので、そこから少し。


・米


「ほら」
差し出された炊き立ての飯はここどころか江戸以外では貴重だ。
高級だと言っても差支えはない。
どうしたんだと尋ねると里の衆がな、蓄えていた小判はたいて米俵1俵分運んでくれたんだとそう教えてくれた。
「ここで拾ってもらって…何度目だったか」
「数えてはいない。けど、まあ片手は超えるだろう」
里…集落は竹藪に囲まれて日差しの入りはまばらであり。隠れ里のような訓練所にて苔の生えた大きなふたつの岩にそれぞれ座り込んだ。

お互いの手は最初は木刀を。
それが小さい時にはもう豆だらけだった手に馴染むようになると様々な形状のものを手に取るようになった。縄の扱いも慣れたものだ。
そうしたものだから炊いたばかりの飯の熱さは気にならない。

竹筒に入った水で喉を潤してから思いっきり被りついた。
「うめえ」
「うめえな」
ふっ、とお互いに顔を見合わせて浮かぶ笑顔。まだ父上と母上が生きていた頃はよくでかい握りを近くの小川で呑気に魚釣りでもしながらほおばってこうしていたものだ。

あの日ーあれは見間違うことなどない。忘れることも出来ない。
火の粉がはぜる、牛の刻。
幕府の使いだった。目の前で守ってくれていた大人たちが。
そして、父も、母も。刀により一太刀だった。
投げ捨てられてばしゃん、と川に響く水の音が嫌だった。
怖かった。息を止めて身を震わせていた。これが夢なら覚めてくれと…いや生々しい痛みと恐怖が自分達の身体を支配していた。

見つかった、殺されると覚悟した時に幕府の者が倒れたのもやはり一太刀だった。

行きな。そうおばばは語り。
行く当てなどありもしない。何も分からず手と手を固く握りしめながらひたすら火の粉が舞う中を走った。
走って走って…力尽きるように廃屋で眠りに着いた。寒かったからお互いに引っ付きながら。
そうして、ここに拾われた。
辿り着いたというより、他に行くところも帰るところも無かったのだ。
もう、ここで生きていくしかなかった。

「もうすぐ、ここを旅立つ時だ」
片割れが立ち上がり固い決意と共に大地をじゃり、と踏みしめ2,3歩前に進み出る。
同じく己を膝に力を込め立ち上がった。
「横浜へ、な」
向こうも身体ごと振り向いて大きく頷いた。
お互いに眉間にしわを寄せるかのように鋭い視線を絡めてやり取りをする。

集落の何人かが近づいてきた。
妙な噂があるぞ、と。

大きな船が海の向こうから来ているとか。
実際に目にした奴は居ねえ。
そうだけどよ、おめえらも気をつけろ。

同時に頷いた。

時代のうねりを感じる。
何かが終わり、何かが起きようとしているのだと。


後に紅毛人による黒船の出現により、この片割れと運命の別れが訪れる。



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