テキスト(他CSゲーム)




疑うことを知らず眠っているヴァルとヒナを見守るオーリン。


・この世界



焚き火に照らし出されて健やかに仲良く眠っているふたりを眺めているとやるせない想いがライザと引き離されたことによって根付いた悲しみと痛み。そしてこの世界は何なのかと疑いの気持ちが根を張って茨の様に絡みつきオーリンは呼吸を整える意味も含めて小さく息を吐いた。

“お前たちこの世界が好きなんだな”

“オーリンさんは違うんですか”

ふたりは火の村ティアナからほとんど出たことがないと噴火による落石をやり過ごす為にも大岩の陰で共に休み。ティアナは人ともに生きてきた村だからと危険だと分かったらうまくやり過ごすのもひとつの手だと伝えた俺の助言に素直に頷きそして故郷が大好きなのだろうそう笑顔で教えてくれた。
何も知らないからこそ、そう言えるのだろうな。
そう思う。
そしてふたりの仲の良さを見ていると故郷で楽しく村人たちと毎日語り合いしながら過ごして来たのだろうなとそう分かる。

“俺か?俺は…どうなんだろうな”

ヒナはこれから向かう風の山脈へ父親と共に行ったことがあるとそう言った。
せいぜいそれくらいの付き合いなのだ。村と村が違えば交流や誰かと誰かが結ばれるということもこの世界ではほとんど起きない。

ライザをひとめ目にしたとき、心が動くのって―…世界が変わるのはこういうことなのかとそう感じたんだ。
最初はギドの皆も遠巻きに見ていた。きっかけがあったとすればライザが守り人だったから。
それは間違いない。魂を捧げる御子と守り人はこの世界にとって欠かせない存在であり、誇りである。彼女が話すことから皆興味を惹かれて。
ギドでの暮らしをここがこれからの私の故郷なんだねオーリンとライザは一度だって嫌な顔をせずに尊重してくれて。
ギドの皆もだんだんと近づいてきて彼女と何かをしたりライザがいるのはもう当たり前、そうなって来た。その頃までは俺は確かにこの世界が好きだったはずだ。

ふたりの頭を起こさない程度に優しく撫でてやる。
あの問いかけとヴァル、お前の答えは確かにあの頃までの俺とライザだった。
ヒナの手にそっとまんまるドロップを握らせてやる。ヴァルが前に出てくれているから私は少し離れたところからヴァルが思いっきり剣を振れるようにマナを癒やしに変えて支えているんですと彼女がそう話してくれたから。

“樹まで行っちまったらお別れだぞ”

何も知らないふたりは必要なことだからとそう揃って答えてきた。
マナの循環がこの世界には不可欠なのだと。
御子と守り人は別れが必ず来る、そうしたものなのだと。


ふたりに尋ねてみたかった。

マナなんて世界中どこにでも溢れている。お前達も故郷でもここまでの旅路でも感じて来たんじゃなかったのか、と。


俺はまだ別れなど告げていない。引き離されたとしても、必ずライザを取り戻してみせる。

けど、それが果たして正しい事なのか分からない。
ギドの皆だって本当はライザを失いたくないって分かっていた。村の為には仕方ない、仕方ないんだオーリンとそうした嘆きが嫌というほど伝わって来た。
分かっているのはもうひとつ。俺はまだ真実には辿り着いていない。

“お別れだぞ”

お前たちは…どうなるんだろうな。
今日のこの日の問いをまた出会えた時にはしてみたい。
お前たちがこれから見ていくもの、そして知ったことからどのような答えを導きだすのか。


彼と御子になるはずだった彼女。
その存在が人を疑うことさえ知らなかったふたりにとってのある萌動となる。
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