テキスト(FF16)
・トルバドゥール(望郷組)
ノースリーチをザンブレク皇国において皇都であったオリフレムに代わり新たな中心街とすると首の賢人とその娘であるサビーナの衝突―イサベラ曰く親子喧嘩でしかない緊張はアカシア退治と彼女と街を守ると決めたひとりの男。
そしてクライヴたちの助力、イサベラの助言によりようやく解けて街全体がひとつになることが出来た。
彼女は語ってくれた。かつて愛した男がベアラーであり、彼と共に過ごした日々。
そして夜のとばりでどれほど世話になっていたのかも。
ノースリーチはかつて要塞であった役割も残っており、街の外と街の中では商か生活かで大きく分かれる。
何かと話好きな街人が宿の1階にてまた集い合い始めた。軽い食事を済ませた後少しだけ街の様子を目に焼き付けておこうと2階からクライヴとジルは眺めることにした。先の方へ向くと兵士たちの訓練所がある。そこで流れ者のマダムの目に適ったベアラーかと考えた彼らと剣を交えた。その強さに兵士たちの隊長もうかうかしていられないと実感しムーアへ出て行くまでさほど苦労はしなかった。
役人ともここで出会い、ザンブレク皇国内で法とはいえベアラーたちの扱いに疑問を持っている者も少なくないと知った。ベアラー兵として扱われている間はその彼らの立場や考えを己の中に浮かばせることはなかった。トルガルと小麦畑へ出て行きしっかりと眺めたりしたことなかったなと思わずそうこぼした。マザークリスタルの破壊と共に収穫は厳しくなった。その事実も混沌とした情勢になったー罪には問われる現実も…一度は壊された自我を再び弟への誓いと共に呼び起こし、受け入れた。隣に寄り添っている彼女の過去と罪をシヴァの力そのものを吸収したのと同じ様に。
彼女の右肩に手を置き引き寄せると向こうもさらに距離を縮めて寄り掛かってくれた。
シドルファスと過ごせたのはこの地が最後になった。シドに託されたもの。あいつが伝えてくれた通りこのヴァリスゼアはマザークリスタルの加護を断てたとしても未熟なまま歩み出さなければならない。歩み出し決意を持って進み続ける。それは何かを捨て、何かを諦めなければならない。ついこないだ既にエーテル溜まりに沈んだオリフレムにて決闘を挑んできた竜騎士からも感じた。オリフレムの民にとってディオンは拠り所だったからだ。
弟との約束を胸に律義に果たそうと彼は来てくれたのだがそれは皇国民や聖竜騎士団の彼らから見れば奪われたと同然だったのだろう。これから先のヴァリスゼア大陸全体と人そのものでいられる世界へ踏み出す戦いであるなら彼の力も必要不可欠である。真実が分からないまま未熟な世界は歩み出す度に進もうとする度に誰かが傷つき痛みを与える。
理が語る理想の姿とは真逆の不完全な人はその中で抗い続けなければならない。
ジルが顔を見上げまっすぐクライヴを見つめた。彼も彼女を見つめ、少年時代には出来なかったがそっと微笑んだ。そうした世界であってもお互いに共にいる意味。生きていくと誓ったその意味。それはなくならない。
ジルも優しく微笑み返す。氷の魔法―ブリザド系はまだ使えるが先に自分は“人”へと戻った。
彼とあの丘で見つけた花があった場所を眺める。青空を一緒に見上げるとクライヴはまた約束してくれた。
イサベラがかつて愛した男性もクライヴに似ていたとつい先ほど知った。彼とイサベラも青空の下で辛い日々が続いていてもこうして微笑み合っていたのだろうか。
会ってみたかったとは思う。
(でもクライヴに色目を使うのはだめ)
似ていたという以外に贈り物を届けた彼女は明らかにクライヴに気があるようなそぶりを見せたこともある。
ごほん、と咳払いを大きくしてその雰囲気は遮らせてもらったけど。
(最後まで見守ることは出来なくても…青空の下で、いっしょに見守っていくの)
ジルのその視線が意味するものに気が付いた彼は流れるように音を大きく立てることもなく。
ふたりがまた誓い合った場所と同じくまっすぐにぎゅっと彼女を抱きしめた。
ジョシュアはトルガルを連れ、吟遊詩人―フェニックス教団のひとりだ―に会いに出ていた。
「ジョシュア様。閣下とも先ほどご挨拶を」
「ここでの出来事を歌にしていたのだろう。教えて欲しい」
「仰せのままに」
兄から火のドミナント―自分ではなく理を追っていた時にルサージュ卿のことを歌っていたと聞いた。
かつての拠点とインビンシブル内には吟遊詩人のルカ―ンがいる。彼の歌は何も宮廷風恋愛や騎士道だけではない。
詩人は社会、政治、宗教などさまざまな情勢を国から国に渡り歩く以上深く関与するものだ。時にそれは風刺も混ぜ合わせる。
ルカーンの歌は僕らがクリスタル破壊と共に伴うように起きた痛みそのものだった。彼は哀愁と共に歌う。
それは理と最後のマザークリスタル・オリジンの破壊と共に新しい舞台へと移ると遺産となるであろう。
吟遊詩人たちがザンブレク皇国内でルサージュ卿のことを歌にしていたのですよとルカーンが語ると。
…民を守る為だと自分に言い聞かせて来た。今は、そう。これが私だと証しするためにも向かう。ザンブレク皇国だけでなくこのヴァリスゼアを変えるためにも。
抑止の為ではない。バハムートの姿で破壊ではなく、共に最後まで抗って欲しい。
適正は余もフェニックスの者も十分だ。後はイフリートにかかっている。
…はい。
この戦いで起きたことがすぐには語られないだろう。混沌と悲しみがしばらくは止まない。
吟遊詩人の歌もピリオドは打たれる。けれどもそれはベアラー制定の真実の様に闇には葬らない。
クリスタルに代わる遺産として、僕が記して残すのだ。
美しい引き語りと共に紡がれている歴史に静かに耳を傾けながらジョシュアはある決意を固めていた。
ノースリーチをザンブレク皇国において皇都であったオリフレムに代わり新たな中心街とすると首の賢人とその娘であるサビーナの衝突―イサベラ曰く親子喧嘩でしかない緊張はアカシア退治と彼女と街を守ると決めたひとりの男。
そしてクライヴたちの助力、イサベラの助言によりようやく解けて街全体がひとつになることが出来た。
彼女は語ってくれた。かつて愛した男がベアラーであり、彼と共に過ごした日々。
そして夜のとばりでどれほど世話になっていたのかも。
ノースリーチはかつて要塞であった役割も残っており、街の外と街の中では商か生活かで大きく分かれる。
何かと話好きな街人が宿の1階にてまた集い合い始めた。軽い食事を済ませた後少しだけ街の様子を目に焼き付けておこうと2階からクライヴとジルは眺めることにした。先の方へ向くと兵士たちの訓練所がある。そこで流れ者のマダムの目に適ったベアラーかと考えた彼らと剣を交えた。その強さに兵士たちの隊長もうかうかしていられないと実感しムーアへ出て行くまでさほど苦労はしなかった。
役人ともここで出会い、ザンブレク皇国内で法とはいえベアラーたちの扱いに疑問を持っている者も少なくないと知った。ベアラー兵として扱われている間はその彼らの立場や考えを己の中に浮かばせることはなかった。トルガルと小麦畑へ出て行きしっかりと眺めたりしたことなかったなと思わずそうこぼした。マザークリスタルの破壊と共に収穫は厳しくなった。その事実も混沌とした情勢になったー罪には問われる現実も…一度は壊された自我を再び弟への誓いと共に呼び起こし、受け入れた。隣に寄り添っている彼女の過去と罪をシヴァの力そのものを吸収したのと同じ様に。
彼女の右肩に手を置き引き寄せると向こうもさらに距離を縮めて寄り掛かってくれた。
シドルファスと過ごせたのはこの地が最後になった。シドに託されたもの。あいつが伝えてくれた通りこのヴァリスゼアはマザークリスタルの加護を断てたとしても未熟なまま歩み出さなければならない。歩み出し決意を持って進み続ける。それは何かを捨て、何かを諦めなければならない。ついこないだ既にエーテル溜まりに沈んだオリフレムにて決闘を挑んできた竜騎士からも感じた。オリフレムの民にとってディオンは拠り所だったからだ。
弟との約束を胸に律義に果たそうと彼は来てくれたのだがそれは皇国民や聖竜騎士団の彼らから見れば奪われたと同然だったのだろう。これから先のヴァリスゼア大陸全体と人そのものでいられる世界へ踏み出す戦いであるなら彼の力も必要不可欠である。真実が分からないまま未熟な世界は歩み出す度に進もうとする度に誰かが傷つき痛みを与える。
理が語る理想の姿とは真逆の不完全な人はその中で抗い続けなければならない。
ジルが顔を見上げまっすぐクライヴを見つめた。彼も彼女を見つめ、少年時代には出来なかったがそっと微笑んだ。そうした世界であってもお互いに共にいる意味。生きていくと誓ったその意味。それはなくならない。
ジルも優しく微笑み返す。氷の魔法―ブリザド系はまだ使えるが先に自分は“人”へと戻った。
彼とあの丘で見つけた花があった場所を眺める。青空を一緒に見上げるとクライヴはまた約束してくれた。
イサベラがかつて愛した男性もクライヴに似ていたとつい先ほど知った。彼とイサベラも青空の下で辛い日々が続いていてもこうして微笑み合っていたのだろうか。
会ってみたかったとは思う。
(でもクライヴに色目を使うのはだめ)
似ていたという以外に贈り物を届けた彼女は明らかにクライヴに気があるようなそぶりを見せたこともある。
ごほん、と咳払いを大きくしてその雰囲気は遮らせてもらったけど。
(最後まで見守ることは出来なくても…青空の下で、いっしょに見守っていくの)
ジルのその視線が意味するものに気が付いた彼は流れるように音を大きく立てることもなく。
ふたりがまた誓い合った場所と同じくまっすぐにぎゅっと彼女を抱きしめた。
ジョシュアはトルガルを連れ、吟遊詩人―フェニックス教団のひとりだ―に会いに出ていた。
「ジョシュア様。閣下とも先ほどご挨拶を」
「ここでの出来事を歌にしていたのだろう。教えて欲しい」
「仰せのままに」
兄から火のドミナント―自分ではなく理を追っていた時にルサージュ卿のことを歌っていたと聞いた。
かつての拠点とインビンシブル内には吟遊詩人のルカ―ンがいる。彼の歌は何も宮廷風恋愛や騎士道だけではない。
詩人は社会、政治、宗教などさまざまな情勢を国から国に渡り歩く以上深く関与するものだ。時にそれは風刺も混ぜ合わせる。
ルカーンの歌は僕らがクリスタル破壊と共に伴うように起きた痛みそのものだった。彼は哀愁と共に歌う。
それは理と最後のマザークリスタル・オリジンの破壊と共に新しい舞台へと移ると遺産となるであろう。
吟遊詩人たちがザンブレク皇国内でルサージュ卿のことを歌にしていたのですよとルカーンが語ると。
…民を守る為だと自分に言い聞かせて来た。今は、そう。これが私だと証しするためにも向かう。ザンブレク皇国だけでなくこのヴァリスゼアを変えるためにも。
抑止の為ではない。バハムートの姿で破壊ではなく、共に最後まで抗って欲しい。
適正は余もフェニックスの者も十分だ。後はイフリートにかかっている。
…はい。
この戦いで起きたことがすぐには語られないだろう。混沌と悲しみがしばらくは止まない。
吟遊詩人の歌もピリオドは打たれる。けれどもそれはベアラー制定の真実の様に闇には葬らない。
クリスタルに代わる遺産として、僕が記して残すのだ。
美しい引き語りと共に紡がれている歴史に静かに耳を傾けながらジョシュアはある決意を固めていた。