名称と考察メモ

・感情表現

クライヴの愛情表現はジョシュアとジルでは大きく異なりますね。

もちろん自身の根底となっている血の繋がった弟と、成長期に出会い家族(きょうだい)の間柄となって後にひとりの女性として特別な人となった相手では向ける感情が違うのはもっともなことです。

ジョシュアに対しては率直に言葉にし名を叫んだり再会出来た時はこんなに嬉しいことはないと感情豊かに見せるのに対し、ジルに対しては気を遣っているというか“好き”と終盤で言葉にする彼女に対しクライヴは最終盤の愛しているよのみで途中まで好きと言葉にはしていない。

これはジルが本来の優しく愛情深い人物だったのを知っていて彼女が心を凍らせるほどの劣悪な状況にいた為、そうそう軽々しく口にするものではないと判断しているからなのだと(その反動なのか結構行動では示しています)だからこそ、影の海岸での彼の彼女への誓いが生きてくる。

ジョシュアの方では自分の為に動いてくれていたと青年期に判明したので、拠点のリーダーとして動きながら自分と弟の絆と誓いを事あるごとに思い起こし。

円を描くように誓いに忠実であろうと彼の生き方そのもので貫こうとしていた。これもまた、最終盤での炎の民に繋がる描き方です。

※もうひとつ、ジルに対して好意を言葉にしない理由。

彼自身きちんと誓って行動にも示さないと意味がないとそう考えているのですよね。

最終盤でジルにはっきりと愛していると伝えた彼は戻ってくるというーそれがふたりが誓い合った影の海岸でのあの日の夜、月が見ていたのテーマソングと繋がるものでもあるー誓いそのものから来る想いを伝えているわけなのですが。
人らしくなり、人に先に戻ったジルは因縁を断つまでは頭の片隅に追いやっていたバイロンのクライヴが嘘をつく癖がこれなのだと、もう戻ってこないのではと感じ取り泣きながら私もあなたを愛していると答えるのです。
普段からクライヴが言葉にしていたら反応は違っていたかもしれませんが、それでは心を凍らせて本心を見せようとしないジルには響かないわけで。

フェニックス・ゲートにて彼女自身私は変わったわと述べてからクライヴ自身もジルが傷ついて心を閉ざしたまま接している(それは5年後の拠点にてふたりっきりになって誓いを立てた後オットーが入り込んで邪魔をしたのではと話すのに対し彼女のどこか冷めた反応からも分かる)のには気づいていたんですよね。
彼女は彼を支えることがそれまで生きてきた意味だと離れることはないのですが。ジルは因縁を断った後もフーゴに捕らえられてからまた引っ込める姿勢に戻り。見せようとしない以上、言葉で何か伝えてもかわされる。罪悪感ー罪への意識は残っているので、シヴァの力がある以上そこから切り離せない。
ジルはそれを彼を守る力に変えて自分の存在意義を保とうとしていました、それでは彼女は人らしく生きていけない。

弟に殴られるー怒るだろうというのも分かっていた上で、すべてを、彼女の罪を背負うという決意の元。
そうした彼でないと踏み込めない彼女の心そのものを視たのだと。
流れ込んでくる全てを受け入れた後、満たしてくれる(君の笑顔がこれほどまでに俺を満たしてくれるとは考えたことはなかったと英語版の台詞にて)と言葉にしたのだと。

他の誰にも出来ないことでした。



・クライヴ・ロズフィールドの本質


ジルがクライヴに本心をなかなか見せようと(小さい頃の純粋なままではいられない、因縁を断つ必要があると考えている、傷ついた心ではかつての愛情や優しさを表に出しにくい・それでいて言葉に出さず我慢している)しないのは本編から描かれていて。

クライヴもまたジルには見せていない面がありまして。

それはシドを助けた時に自分の手をじっと眺める場面がありますよね。ガブを助けようとした時にジョシュアの声が頭に響いたのを思い出したとも言えるし、今まで命に手に掛け続けながらも今度(こそ)は誓いに忠実であろうとしていたともいえるーこの時シドとジルは先にドレイクヘッドを目指して奥へと進んでいたので彼のこの表情には気づいていません。

ジルは日本語版でも英語版でもだれかを助けようとしていたクライヴの本質に目を留めていましたが、その核となっているものについては彼の精神世界での出来事がはっきりしていて。少女姿のジルとシドには否定(自己否定)され、幼い弟だけが何も言わず、少年姿で兄の名を叫び青年姿で名を呼ぶ。

本質に踏み込めるのも、それを確立できるのもジョシュアだけなのですよね。同じ様に政について上に立つ人物像の故にそうした兄弟だけの話が出来るのも。

兄弟の絆と誓いはヴァリスゼアの舞台がリセットされるほどの逸脱に必要不可欠な象徴であり。

(シドとの誓いもそうなのですが、受け継いだクライヴは人らしい死に方よりも人らしい生き方そのものを選び取って終盤は動いています。大きく変わったのは影の海岸後であります)

ジルはクライヴと対等ではあり(ありましたが)それでいて彼と彼女の愛はあくまで個人的な人と人の関係のみであった。これが少年少女の冒険活劇なら最後まで好きになった女の子の為に世界を救うとかそうした感じになるのですが(笑)

ジルは核ともなれず、この本質に踏み込むことも出来ないからこそ、彼を守ろうと必死であり。

それが失われてからはひとりの女性として、人として好きだった彼の本質だけでなくクライヴ個人から向けられる愛を受け入れてそうして愛するようになったのでしょうね。


・FF16は目線や表情から語りそしてプレイヤーのゲーム体感として心の内から感動を呼び起こすことに重きを置いています。


ここからはジルの例を挙げていきます。



少年期に大公の元へ行こうと扉の前で別れる時にトルガルのおててを持って振りながら“頑張って”と励ましてくれる笑顔は。
影の海岸で“君に誓うよ”と語るクライヴの決意を涙流しながらも微笑んで受け入れた時と、エピローグにてメティアへの願いは叶わなかったと泣き崩れた後トルガルが彼を呼ぶ為にここにいるのだと狼の習性から吠えてクライヴが自ら誓いを果たしてくれたと気づきそして青空を見上げ喜びの涙を流した時へと繋がっています。

オリフレム突入時に歓楽街でベアラーとドミナントの現状と大罪人として名を残すことになると語るシドがその重さを受け止めるジルに対し、彼らしいジョークで“美人が睨むと迫力があるな”と返します。
彼女のこの鋭い表情は壮年期初期、クライヴの拠点にてマザークリスタルは人を幸せにしないとはっきりと告げてクライヴ自身はまだ訪れていない鉄王国のことも頭にあったので(シドに話された時も同じかと)オットーが入って来てふたりきりの時に邪魔をしたようですまないと伝えた時そうした意味合いに対して反応が鈍いのと繋がっているのでしょう。

バイロン叔父さんの屋敷を訪れ本当に久しぶりの再会となった際に叔父さんが“お前は嘘をつく時の癖がある”とクライヴに話す場面、プレイヤーには叔父さんなりの照れ隠しでありからかっている冗談だと分かりますね。
真面目なクライヴとジルにはこれが冗談だと分からず、クライヴは咄嗟にジルの方を向いてそうなのかと彼女に確かめます。
それだけ彼女が傍にいてくれる人だと信頼感を持っていて彼女が自分を良く見てくれていると認識している。
ジルは戸惑った顔をしており“叔父様は私が知らないクライヴの癖をご存知なのね”と頭の隅に置くようになります。
アナベラがまるで獣のようだとバイロンが語り再び鉄王国への因縁へと目を向ける為、クライヴの傍にいたいと心情を吐露します。
プレイヤーにとってもジルが心境を吐露する場面が印象に残り、バイロンがからかった内容は隅っこに置かれることになる。

オリジンへ最終決戦に向かう時に泣きだしたジルはクライヴの嘘をつく時の癖はこれではないのかと(彼はそれまで好きだと言葉にはせずどちらかと言えば行ないで好意を示してきたのに対しここではっきりと“愛しているよ”と告げ。彼女ははぐらかしている、トルガルにジルを頼むよと告げて別れを告げているように受け取ってしまった)思い込み、結果として少女時代と変わらずメティアに祈りを捧げながら待つようになります。
EDでメティアが曇り無事でいて欲しいという願いが叶わなかったと泣き崩れた彼女からジルは祈ることを変わらず続けていたと分かります。
メティアに拘っていたことは少女時代の祈りの内容が彼の無事を祈っており。
引き離され自分は獣なのだと自嘲する程むごい兵器扱いされた13年間、心も限界を迎えた頃にクライヴと再会し彼が生きていて願いが叶ったのだと青年期にノースリーチで語ったことからも分かります。
離れ離れの間も忘れられないひとときであったのだと。



神話の舞台が終わり人の時代が始まってからはジルがメティアに祈ることはヴァリスゼアの人々と共になくなったのでしょう。
人でいたいと語ったジルは人へと完全に戻り。
そうして新たにまた生きていく意味をクライヴに最終盤で話した想いと同じ―彼とまた新たな世界で踏み出して最後まで生き抜いていったのでしょうね。
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