テキスト(FF16)
よくある好きと愛するという違いをクライヴとジルヴァージョンにて。
※
タルヤに石化の進行が緩やかになったと身体の調子を共に診てもらって。クライヴが強敵の依頼をネクタールから受けているから一緒に行けるわよと後押しもしてくれて。次は若様ねとジョシュアと交代する形で医務室を出ていく。ジョシュアは抑えきってみせる決着をつける時はすぐそこだとジルに対して目線で語り。ヨーテが付き添いとして医務室の奥へと共に入って行った。クライヴとジョシュアのロズフィールド兄弟、そして力は吸収されたが身体に宿る残りのエーテルでバハムートに顕現してみせようと決意したディオンがこのインビンシブルの拠点からあの空に浮かぶマザークリスタルを模った理のもとへ行く日は刻一刻と迫って来ている。
メティアに毎日のように祈っている。どうか、皆無事に帰って来て、と。
相当数のアカシア群とウォールード王国やザンブレク皇国に姿を現してきた伝説と呼称される魔物たちに立ち向かうことは出来てもジルは彼らと共にあそこには行けない。
少女時代と同じだ。ごく普通の少女であり人であったあの時も無力な自分が守る為の戦いへ向かう彼と共に行けずに悲しかった。
メティアに向かって涙を流しながら祈ることしか出来なかった。
彼があの丘に連れ出してくれて。そうして“私”を見つけてくれた。今だってそうだ。彼の傍にいるから…傍にいられるから“私”でいられる。あの腕の中に強く抱きしめられる度に愛おしさで胸が一杯になる。同時に失いたくない想いが溢れてくる。
インビンシブルの屋上に出て気持ちを落ち着かせようと階段を上り踊り場に出ると服装がまた変わったアスタと目が合った。
「シドに告白したわ」
間髪入れずにそう話して来た。
「…そう」
「驚かないのね」
「ついこないだはジョシュアだったもの」
クライヴを入れてこれで10人目だ。目移りが早い。
「シドが一番だって気づいたの」
「皆そうよ」
「ジル、あなたは昔からでしょう」
うらやましいとも言えるし、そうした恋をしたいの、とアスタはうっとりと恋を語る。
「どうかしら」
「あら、怒っている?」
「まさか」
お互いに怒りや嫉妬でもない、また微妙な空気とも言い難い雰囲気で会話を淡々と進めていく。
―クライヴはジルのことが好きなんだよね!
シャーリーが開いている教室から子供たち―ジョスランだろうか、元気な声が聞こえて来た。
アスタが小走りに教室の入り口まで寄って行って。気づかれない程度にクライヴの様子を眺めている。ジルも後を付いて行き一二歩離れた場所で彼らのやり取りに耳を傾けた。
ジル自身はあまり子どもたちに近寄らない―それはもしかしたら目の前で少女たちが痛めつけられて来たことから来る反動なのかもしれない―のに対し、クライヴはよく話しかけていて少し前にばらばらに解体した部品を子どもたちが自分で考えられるようにヒントを与えながら組み立てたんだと話してくれたことがあった。ひとつ残った部品はミドが探していたので彼女も喜んでいた。
―お姉ちゃん、お兄ちゃんのコイビト?
ロストウィングのあの子の声がジルの頭に響く。
クライヴが子どもたちに明るく答える。
“ああ。皆のことも好きさ”
“知ってるよ。でも、クライヴはジルだけは違う”
“すっかり見抜かれていますよ。教えて上げたらどうですか。この子たちにごまかしは通用しない”
作家を目指している彼女がおとぎ話や物語は誇張や本当でないことを含めて良くても。今私たちが行なっていることを正直に子どもたちに伝えるのも大人の責任ですからねと促している。
“そうだな―…。”
―…いいえ、違うわ。
―だと思った。だってお姉ちゃんは冷たい感じがするし。
お兄ちゃんは泣いている私の目の前でしゃがんでくれて優しく話しかけてくれた、ザンブレクの兵士だって。その時はそう言うしかなかった、本当はそうじゃないってカンタンが教えてくれた。私が安心できるようにそう言ったんだって。
―お兄ちゃんにはもっと優しいひとが似合うもの―。
クライヴがシドと共にロストウィングを訪れ―最初に出会った協力者のひとりカンタンと村の人たちを助ける際に隠れていて出会った少女。
潜伏を余儀なくさせられてまだ間もない頃―カンタンの所へ訪れると少女はジルを見てはっきりとそう告げて来た。そう、子どもは見抜くのだ。
だから、近づけなかった。
あの子の言う通り、心が動いていなかった。動いている時には彼にさえ知られようとはさせなかった。
“ジルは、俺に欠けているものを補ってくれているんだ”
“おぎなう?”
“足りないものを足してくれる”
“そこにあるチョコボとアダマンの足の計算みたいに?”
“数の計算とは違うさ。俺はひとりじゃ誰かの為に何も出来なかった。ひとりの時は自分のことばかり考えていたんだ”
“クライヴが?想像つかないなあ”
“皆と出会った時にはジルが傍にいてくれたからな”
誰かの為に従うしかなかったとそう思っていた。けど現実は何も変わらなかった。
それでも彼だと分からなかった時も、ここで倒れたらあの子たちが今度は―。心はもう動かなくてもいい。頭の考えでレイピアを握り、痛みがあっても氷の魔法を唱えた。
“俺はジルとまた出会えて、自分のことばかり考えていたんだと思い知らされた。生きている意味について真剣に考えるようになった”
何故まだ生きているのか嘆く彼に死ぬつもりだったと告げた。彼が生きていて願いが叶い私が生きている意味を知った。だからこそあなたが生きている意味はあるのよとそう伝えたのだ。今にして思えばそこからだったのかも知れない。
“ミド先生みたいになりたいっていう感じ?”
“こうなりたいとはちょっと違うな。
心の底から生きていると感じられる、皆が当たり前にそう思えるような生き方をして欲しいんだ”
「生きていると感じる、か。私は誰かに恋をしているときがそうね」
アスタが熱い視線を送って高らかに宣言をする。
それがアスタの恋のカタチでありひとつの生き方なのだろう。そのことを否定するつもりはさらさらない。
“ジルがクライヴにそう教えてくれたの”
“…一緒にいる内に考えるようになったんだ。俺のことをまっすぐに見つめてくれるジルは…自分のことは話さなかったからな。だからずっと考えていた。
どうしたら話してくれるんだろう、喜んでもらえるのかなと”
彼の想いをずっと傍で感じていた。その優しさにつけこみたくなかった。自らの手で決着をつけなければ縋りついてしまう。だから話したくなかった。隠し事をしているこの態度があの子にとって冷たいように思えたのは当然だ。
私も受け止めるからと伝えても、彼の想いを受け入れる訳ではなかったのだから。
“ジルはクライヴが何かすれば喜ぶんじゃないの”
ずっと傍にいて、最後まで見届けるつもりだった。
“…そうとも限らないさ。泣かせてしまうことの方が多い”
“えー、それはひどい”
“ああ、そうだよな。だからそのことも真剣に受け入れて考えるんだ”
「…シドは、本当にあなたに真剣なのね…」
先ほどまでうっとりとした恋を語る姿勢を全身から滲ませていたアスタがすっと声色と態度を変えた。
守る為に生きていくと誓った次の瞬間―彼によって力を失った。
吸収する際苦痛がもたらされるはずなのに彼は真剣に彼女を見つめていた。過去も罪も背負う、と。
一緒にいたい、人でいたいと―それ以外のことは話さなかったからこその罰だったのかもしれない。
彼の想いに気づいていたのに、彼が全てを背負うことになったのだ。
“そしてジルが俺の為にしてくれていることに目を向けて。素直に気持ちを伝えるんだ。ありがとうとか、嬉しいよと”
―私に出来ることはもうこれくらいしかないけれど―‥‥。
―俺には出来ないことさ。
(…大好きよ)
“それで笑顔になってくれたら満たされる。足りないものを見つけて…時には恐いと思う事があっても勇気を抱いて前に進める。それが皆の為にもなるんだ”
“手と足では出来ることが違うでしょう。クライヴとジルも同じなの。出来ないことがあってもお互いの為に何が出来るか考えて。そうしてちゃんと行動に起こすの。皆はまだ勉強中でも大きくなっていくにつれ、出来るわよ”
“まだまだ、ジルにはかなわないなあ”
「…確かに、敵わないわね。これまで幾人もの人に惹かれて。素敵なところを見出してきたわ」
アスタがゆっくりとジルに向き合う。
「でも、私は見つけただけ。目移りしながら行動にまで起こせていない。
けど、あなたはもうとっくに―」
「出来なかったこともたくさんある。ずっと失い続けてきた。多くの命を手に掛けたことも事実だから。それでもこれからも生きてくとふたりで決めたの」
涙を流しながら、彼の決意と想いをようやく受け取れた。その為に我慢した。彼は気づいていた。満たしてくれると語ってくれた。箱庭の中でしか知らなかった幸せとは違う、目を背けたくなる現実を知ったとしても幸せだと心が奮えていた。出会えて、離れ離れになって、また出会って。
憎んだり迷ったり苦しんだり悲しんだりしながらそれでもその度に精一杯抗って―ジョシュアとやっと…やっと再会出来た時は嬉しくて彼と共に想いが重なり涙が溢れ―たくさんのことを自分の心で感じながら共に生きてきた―これからも人として共に生きていくためにこの運命と最後まで戦うと彼が誓ってくれた。
―綺麗な月だな、ジル。
―ええ。今度は…青空をあなたと一緒に見上げるの。
「そうして…愛するようになったの」
「…やっぱり、敵わないわね」
アスタはそのまま踊り場へと向かった。今度こそ本物の恋について考え始めるのだろう。ジルが少女時代にあの丘で彼と共に過ごしこの人が好きなのだと思って―引き離されてからもう失ったのだと心を凍り付かせ―再び共に行動するようになってから何をすべきなのか考えて、彼の想いを知る度に炎が暖かく灯り心が動いていったのと同じ様に。
彼女もまた再び青空が広がる世界で考えるはずだ。人が人に対して本当の意味で示せる認識を。誰かが誰かを愛するその意味を。
悲しみや辛い日々が終わることなく続いたとしても、今度はそれを見出せる。月を見上げ、青空の下で。
ジルはまっすぐにクライヴとシャーリー、そして子どもたちのところへ向かった。
「あ、ジルだ」
「ここに来るなんて珍しいね」
「ジルにも聞いてみようよ」
「素敵なお話ししていたのね、私もいいかしら」
吟遊詩人の歌やクライヴひとりだけでは語り切れない愛の意味について。
※
綺麗な月
※
※
タルヤに石化の進行が緩やかになったと身体の調子を共に診てもらって。クライヴが強敵の依頼をネクタールから受けているから一緒に行けるわよと後押しもしてくれて。次は若様ねとジョシュアと交代する形で医務室を出ていく。ジョシュアは抑えきってみせる決着をつける時はすぐそこだとジルに対して目線で語り。ヨーテが付き添いとして医務室の奥へと共に入って行った。クライヴとジョシュアのロズフィールド兄弟、そして力は吸収されたが身体に宿る残りのエーテルでバハムートに顕現してみせようと決意したディオンがこのインビンシブルの拠点からあの空に浮かぶマザークリスタルを模った理のもとへ行く日は刻一刻と迫って来ている。
メティアに毎日のように祈っている。どうか、皆無事に帰って来て、と。
相当数のアカシア群とウォールード王国やザンブレク皇国に姿を現してきた伝説と呼称される魔物たちに立ち向かうことは出来てもジルは彼らと共にあそこには行けない。
少女時代と同じだ。ごく普通の少女であり人であったあの時も無力な自分が守る為の戦いへ向かう彼と共に行けずに悲しかった。
メティアに向かって涙を流しながら祈ることしか出来なかった。
彼があの丘に連れ出してくれて。そうして“私”を見つけてくれた。今だってそうだ。彼の傍にいるから…傍にいられるから“私”でいられる。あの腕の中に強く抱きしめられる度に愛おしさで胸が一杯になる。同時に失いたくない想いが溢れてくる。
インビンシブルの屋上に出て気持ちを落ち着かせようと階段を上り踊り場に出ると服装がまた変わったアスタと目が合った。
「シドに告白したわ」
間髪入れずにそう話して来た。
「…そう」
「驚かないのね」
「ついこないだはジョシュアだったもの」
クライヴを入れてこれで10人目だ。目移りが早い。
「シドが一番だって気づいたの」
「皆そうよ」
「ジル、あなたは昔からでしょう」
うらやましいとも言えるし、そうした恋をしたいの、とアスタはうっとりと恋を語る。
「どうかしら」
「あら、怒っている?」
「まさか」
お互いに怒りや嫉妬でもない、また微妙な空気とも言い難い雰囲気で会話を淡々と進めていく。
―クライヴはジルのことが好きなんだよね!
シャーリーが開いている教室から子供たち―ジョスランだろうか、元気な声が聞こえて来た。
アスタが小走りに教室の入り口まで寄って行って。気づかれない程度にクライヴの様子を眺めている。ジルも後を付いて行き一二歩離れた場所で彼らのやり取りに耳を傾けた。
ジル自身はあまり子どもたちに近寄らない―それはもしかしたら目の前で少女たちが痛めつけられて来たことから来る反動なのかもしれない―のに対し、クライヴはよく話しかけていて少し前にばらばらに解体した部品を子どもたちが自分で考えられるようにヒントを与えながら組み立てたんだと話してくれたことがあった。ひとつ残った部品はミドが探していたので彼女も喜んでいた。
―お姉ちゃん、お兄ちゃんのコイビト?
ロストウィングのあの子の声がジルの頭に響く。
クライヴが子どもたちに明るく答える。
“ああ。皆のことも好きさ”
“知ってるよ。でも、クライヴはジルだけは違う”
“すっかり見抜かれていますよ。教えて上げたらどうですか。この子たちにごまかしは通用しない”
作家を目指している彼女がおとぎ話や物語は誇張や本当でないことを含めて良くても。今私たちが行なっていることを正直に子どもたちに伝えるのも大人の責任ですからねと促している。
“そうだな―…。”
―…いいえ、違うわ。
―だと思った。だってお姉ちゃんは冷たい感じがするし。
お兄ちゃんは泣いている私の目の前でしゃがんでくれて優しく話しかけてくれた、ザンブレクの兵士だって。その時はそう言うしかなかった、本当はそうじゃないってカンタンが教えてくれた。私が安心できるようにそう言ったんだって。
―お兄ちゃんにはもっと優しいひとが似合うもの―。
クライヴがシドと共にロストウィングを訪れ―最初に出会った協力者のひとりカンタンと村の人たちを助ける際に隠れていて出会った少女。
潜伏を余儀なくさせられてまだ間もない頃―カンタンの所へ訪れると少女はジルを見てはっきりとそう告げて来た。そう、子どもは見抜くのだ。
だから、近づけなかった。
あの子の言う通り、心が動いていなかった。動いている時には彼にさえ知られようとはさせなかった。
“ジルは、俺に欠けているものを補ってくれているんだ”
“おぎなう?”
“足りないものを足してくれる”
“そこにあるチョコボとアダマンの足の計算みたいに?”
“数の計算とは違うさ。俺はひとりじゃ誰かの為に何も出来なかった。ひとりの時は自分のことばかり考えていたんだ”
“クライヴが?想像つかないなあ”
“皆と出会った時にはジルが傍にいてくれたからな”
誰かの為に従うしかなかったとそう思っていた。けど現実は何も変わらなかった。
それでも彼だと分からなかった時も、ここで倒れたらあの子たちが今度は―。心はもう動かなくてもいい。頭の考えでレイピアを握り、痛みがあっても氷の魔法を唱えた。
“俺はジルとまた出会えて、自分のことばかり考えていたんだと思い知らされた。生きている意味について真剣に考えるようになった”
何故まだ生きているのか嘆く彼に死ぬつもりだったと告げた。彼が生きていて願いが叶い私が生きている意味を知った。だからこそあなたが生きている意味はあるのよとそう伝えたのだ。今にして思えばそこからだったのかも知れない。
“ミド先生みたいになりたいっていう感じ?”
“こうなりたいとはちょっと違うな。
心の底から生きていると感じられる、皆が当たり前にそう思えるような生き方をして欲しいんだ”
「生きていると感じる、か。私は誰かに恋をしているときがそうね」
アスタが熱い視線を送って高らかに宣言をする。
それがアスタの恋のカタチでありひとつの生き方なのだろう。そのことを否定するつもりはさらさらない。
“ジルがクライヴにそう教えてくれたの”
“…一緒にいる内に考えるようになったんだ。俺のことをまっすぐに見つめてくれるジルは…自分のことは話さなかったからな。だからずっと考えていた。
どうしたら話してくれるんだろう、喜んでもらえるのかなと”
彼の想いをずっと傍で感じていた。その優しさにつけこみたくなかった。自らの手で決着をつけなければ縋りついてしまう。だから話したくなかった。隠し事をしているこの態度があの子にとって冷たいように思えたのは当然だ。
私も受け止めるからと伝えても、彼の想いを受け入れる訳ではなかったのだから。
“ジルはクライヴが何かすれば喜ぶんじゃないの”
ずっと傍にいて、最後まで見届けるつもりだった。
“…そうとも限らないさ。泣かせてしまうことの方が多い”
“えー、それはひどい”
“ああ、そうだよな。だからそのことも真剣に受け入れて考えるんだ”
「…シドは、本当にあなたに真剣なのね…」
先ほどまでうっとりとした恋を語る姿勢を全身から滲ませていたアスタがすっと声色と態度を変えた。
守る為に生きていくと誓った次の瞬間―彼によって力を失った。
吸収する際苦痛がもたらされるはずなのに彼は真剣に彼女を見つめていた。過去も罪も背負う、と。
一緒にいたい、人でいたいと―それ以外のことは話さなかったからこその罰だったのかもしれない。
彼の想いに気づいていたのに、彼が全てを背負うことになったのだ。
“そしてジルが俺の為にしてくれていることに目を向けて。素直に気持ちを伝えるんだ。ありがとうとか、嬉しいよと”
―私に出来ることはもうこれくらいしかないけれど―‥‥。
―俺には出来ないことさ。
(…大好きよ)
“それで笑顔になってくれたら満たされる。足りないものを見つけて…時には恐いと思う事があっても勇気を抱いて前に進める。それが皆の為にもなるんだ”
“手と足では出来ることが違うでしょう。クライヴとジルも同じなの。出来ないことがあってもお互いの為に何が出来るか考えて。そうしてちゃんと行動に起こすの。皆はまだ勉強中でも大きくなっていくにつれ、出来るわよ”
“まだまだ、ジルにはかなわないなあ”
「…確かに、敵わないわね。これまで幾人もの人に惹かれて。素敵なところを見出してきたわ」
アスタがゆっくりとジルに向き合う。
「でも、私は見つけただけ。目移りしながら行動にまで起こせていない。
けど、あなたはもうとっくに―」
「出来なかったこともたくさんある。ずっと失い続けてきた。多くの命を手に掛けたことも事実だから。それでもこれからも生きてくとふたりで決めたの」
涙を流しながら、彼の決意と想いをようやく受け取れた。その為に我慢した。彼は気づいていた。満たしてくれると語ってくれた。箱庭の中でしか知らなかった幸せとは違う、目を背けたくなる現実を知ったとしても幸せだと心が奮えていた。出会えて、離れ離れになって、また出会って。
憎んだり迷ったり苦しんだり悲しんだりしながらそれでもその度に精一杯抗って―ジョシュアとやっと…やっと再会出来た時は嬉しくて彼と共に想いが重なり涙が溢れ―たくさんのことを自分の心で感じながら共に生きてきた―これからも人として共に生きていくためにこの運命と最後まで戦うと彼が誓ってくれた。
―綺麗な月だな、ジル。
―ええ。今度は…青空をあなたと一緒に見上げるの。
「そうして…愛するようになったの」
「…やっぱり、敵わないわね」
アスタはそのまま踊り場へと向かった。今度こそ本物の恋について考え始めるのだろう。ジルが少女時代にあの丘で彼と共に過ごしこの人が好きなのだと思って―引き離されてからもう失ったのだと心を凍り付かせ―再び共に行動するようになってから何をすべきなのか考えて、彼の想いを知る度に炎が暖かく灯り心が動いていったのと同じ様に。
彼女もまた再び青空が広がる世界で考えるはずだ。人が人に対して本当の意味で示せる認識を。誰かが誰かを愛するその意味を。
悲しみや辛い日々が終わることなく続いたとしても、今度はそれを見出せる。月を見上げ、青空の下で。
ジルはまっすぐにクライヴとシャーリー、そして子どもたちのところへ向かった。
「あ、ジルだ」
「ここに来るなんて珍しいね」
「ジルにも聞いてみようよ」
「素敵なお話ししていたのね、私もいいかしら」
吟遊詩人の歌やクライヴひとりだけでは語り切れない愛の意味について。
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綺麗な月
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