テキスト(FF16)

距離感の近いふたりは常日頃からあらゆるものを確かめ合っているのだとそうしたこばなしを。

拠点の皆からすれば、来たばかりの頃からふたりの距離は近しいのだと思う以上にまあそういう関係なのだろうなと思われてそうなのですが。

あの世界で兄弟や家族の絆は一種の誓いのように血の繋がり以上に濃いのだろうとも思っています。

オットーやマーサが中盤や終盤で自分たちの家族のことを話してくれるのもそうした意味もありそうです。勿論2代目を受け継いだルボルやシドとミド、カローンとグツのように血がつながっていなくても強い絆も大好きです。



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それに対してふとした瞬間に意識を傾けることがある。トルガルが先行し、前に進んでいた彼は足元が危ないなと気づいて彼女へそっと手を差し伸べて。

彼女も応えるようにその手を取る。

何かが起きるのだと―危険を察知しすぐにその名を相棒のトルガルと共に呼んで。

すっと体勢を整え細身の剣―レイピアを構えある時は隣に別の時には背中合わせにどうするのか尋ねる彼女に彼がいつも通りで頼むと答える。

シドに連れて来られたばかりの頃はとんだ野良犬が来たもんだな―ここに慣れるまで時間もかかってぎこちないのだろうと拠点の仲間たちの幾人かはそう考えていたらしく、案外すんなりと打ち解けたものだなと時が経ってから教えてもらうことになった。

シドはお前のそうした面も目に留めていたのだろうな。

戦いが続くと蝕まれるような感覚に襲われていく。何を行なっているのか、何をすべきなのか見失ってしまいそうになる。相手は危険な魔物だけではない。快楽の為に殺戮を好む兵士崩れ達がいるのだ。

マザークリスタルドレイクファング破壊後、被害報告を石の剣の彼らやネクタールから受けてすぐにその男の討伐に向かったことがあった。

逆らえない状況で命を殺める虚しさを嫌というほど痛感してきた。その時にジルを連れて来なくて良かったと今でもそう思う。

男には罪悪感も何もなく毒気に当てられたような感覚に襲われそうになったからだ。

グツの自治領に向かう手はずをすべて終える前に。首都ランデラからボグラド市場までに繋がる街道にて自治領にクリスタルを求めて沢山の難民が移動していた為、魔物に襲われる被害も報告が上がって来たとエルとテオから聞いていた彼らは大通りに巣くっている飛行竜や毒を持つサソリ型魔物を多く退治することにした。

まったく、こうなったのもあの大罪人たちのせいだ!

私たちが何をしたっていうの、ただ普通に暮らしていただけなのに!

感謝の言葉はなく、彼らの毒づいた暴言が耳を貫く。

クライヴを気遣う様に傍に寄ってきたトルガルによくやったなと優しくしっかりと撫でてやる。

近くに寄って来たジルがふたりの変わらないやりとりに目を細めて乱れた髪を丁寧に整える。

アンブロシアもザッザと大地を踏みしめて彼らを迎えに来た。

自分とは異なり石化への負担が増していないか―顕現はもうこちらの役目だと―はっきりと発言した訳ではないが彼は彼女への気遣いの眼差しを向ける。自分がそうだが、喉の渇きを感じているだろう。

さっと飲み水が入っている皮袋を差し出し潤すように勧める。彼女はすっと受け取り口をつけた。

マザークリスタルの破壊・消滅と共に設置型のクリスタルは風の大陸から姿を消しつつある。河川や設置がない井戸など手間はかかるがボクラド市場からさほど遠くない場所で水汲みに行くと友好関係を結んでいるゴブリン族たちが面白い暮らしを立てているのだとお前が依頼を受けて見つけた男が言っていたとテオが話してくれた。この内容自体は当の依頼人には未だ秘密ではあるが。

エルは子どもたちの面倒を見るのは大人の責任だと変わらずきちんと叱る時は叱り、褒める時は褒めて彼らに慕われている。テオはよくやったな!と力強く励ましている。

馬(チョコボ)の糞の始末から仕事を覚え始めた彼らはちょっとずつ馬(チョコボ)の気持ちも分かるようになったと特にホンザが自慢げに語っていて。

いざアンブロシアを目にした時はこ、こんなすごい馬(チョコボ)がいるのか…と驚いていた。その気高い気品に押され、まだまだだなあと与えられた仕事へ戻っていった。

クリスタルが無くても水汲みが出来る井戸は市場を警備しているダルメキア兵と協力しながら見回っていてな、首都ランデラのお偉いさん方も見に来たぜ、水脈の流れを確認しに来たんだろうなとテオからの報告。

ゼメキス大瀑布が近いランデラとボクラド市場、水脈が通っているダリミルは水の確保はそれほど難しい訳じゃねえよとルボルが後押ししてきた。

クリスタルがないってだけでわめいて、肝心なことは目を向けていない。

生きる為に必ずしも必要なんじゃない、楽をしたいから必要としているんだ。

“これが当たり前”だと思い込んで“大事なもの”をはき違えてやがる。

ダルメキアの協力者たちは共通して今のヴァリスゼアの人々の“認識”についてそう切り込んでいる。

お前を狙っている奴の話を聞いていると―勝手にルールを作った奴が偉くて神様に成り済ましているとも言えるなとも言い放ってきた。

魔法を使える人が石化すること自体がまずおかしいと声を上げることすら出来なかったもの。

これから向かう自治領でも取引を行なっているエルも目を伏せながらクライヴにそう語った。

ベアラー以前に彼女にとって大切な弟であるテオに対して真剣で愛情深い眼差しを向けながら。

ジルと実に13年振りのロザリアへの帰郷となった時、石化と死への恐怖から嘆く彼らの姿に己の無力さとマーサが語ったこのヴァリスゼア大陸の何がおかしいかクライヴ自身もはっきりと思い知らされた。

そしてドレイクブレス破壊後、彼女の石化が進行したことも彼の心に重くのしかかっている。ミドが大工房の設計をしている間は拠点からほとんどひとりでトルガルを連れて戦いに赴いていた。

ジルはそうしたクライヴの気遣いの背後にあるものを理解はしている。だから彼が彼女に対して差し伸べる手を取り、飲み水を分け合うのだ。

彼は特別な人なのか、と言われればそうだと答えられる。

(子どもの頃からそうだった…はず…)

あの頃は本当に箱庭の中の世界で、3人で青空の下で出かけられた時が本当に嬉しくて大好きだった。

遺跡を眺めながらちょっとしたお菓子を分け合って、他愛のないことを話し合って。

文献が殆どロザリアにはなく、空を飛んでいたのだと書物にあった遺跡は子ども心に好奇心の対象であった。

その時代に生きていたらすごく楽しいでしょうねと、クリスタルや魔法に関して真実を知らなかったからそうした会話もしていた。

楽しい時間はあっという間に過ぎていってジョシュアといっしょに。ジョシュアは右側に、ジルは左側にクライヴの肩にもたれかかって眠りについていた。

爽やかな風と草花の芽生えた香りと。雪解け水が流れて来た川のせせらぎの音も心地良くて。

ああ、ごめんなさい、クライヴ。

ごめん兄さん、大分寝ていたのかな。

いや、俺も少し意識がなかった。トルガルがジャンプして飛びついたからすぐに目を覚ましたが…。

起こしてくれれば良かったのに。

ニンジン嫌だなと寝言を言っていたからな。夢の中では克服出来るか見守ることしたんだ。

むむっ…。

やだ、私変なこと言っていないわよね…?

ジルはすやすやと静かに眠っていたよ。いつもお疲れ様。

なるほど兄さんはジルに見とれて…むぐっ。

疲れも取れたし、日が暮れる前に戻ろう。

―本当に他愛のないことばかりだった。あの遺跡のことを何も知らないで。

仮にあの場所が今存続していたとしても、もう同じような見方は出来ないであろう。

ゼメキス時代の遺跡に目をやる。ボクラド市場に滞在している学者のおじさんがゼメキスに関して教えてくれたことがある。

大瀑布の削り取られ方が妙だと。

クライヴが書物だけで知っていた内容とは―もちろんそれらは本の書き手語り手の主観がかなり入るものであり、戦いそのものが歴史や人物共に英雄視される見方が入りこむものだ―大きく異なっているのだろうか。

ジルから返された皮袋に彼も口をつけ、渇きを潤した。

「こうしていると昔を思い出すな…」

「あなたも…」

「ジルもか、嬉しいな」

どうしてだろうとじっと彼を見つめると。

彼は一歩二歩と進み出してゼメキス大瀑布を眺める。

「昔は当たり前だと思っていたことを…この世界を知ってから戦いが続く度に…確かめているんだ」

彼の背を見つめその言葉を心の中に落とし込み、秘められた想いについて彼女は思考を働かせる。

潜伏していた5年間は同じものを見ていても、視点が自分と彼は異なっておりそうして互いに何を目的として動くのか確かめ合っていた。

「ゼメキス時代のことは俺たちには手がかりがない、本の内容と真実は異なるだろう」

ベアラーたちがこうして道具として扱われているのは、大陸歴と関係があるのかもしれない―。

ヴィヴィアンに用事があって尋ねようとした矢先にぽつりと彼女がこぼしたことがある。彼女は彼女ではっきりと口にはしないが、そのことに関係した書物を探している様子だった。そう時間が掛からない内に話してくれるのかもしれない。

小高い岩山から彼は人々をまた青空を眺めーそしてその先にそびえ立つまだぼやけた輪郭も見えないマザークリスタルドレイクテイルに意識を向ける。

最初のマザークリスタルドレイクヘッドを破壊しようとした時、連れていかれた異次元。

シドは真相に辿り着いていたと確信を得た。明らかに“あれ”は元が“人”だった。

空の文明時代の人間たちは一体何を求めていたのだろうか。

すべてのマザークリスタルを破壊した時にゼメキス時代の真相も明らかになるのだろうか。

「…読んでいて楽しかったことはよく覚えているんだ。君がごく普通の少年だったと俺に言ってくれただろう、それも嬉しかった」

「…クライヴ」

彼が大切にしているものの中に彼女がいる。それが伝わってくる。

「君とジョシュアと出かけられた時も、楽しかった。…何も知らなかった頃に戻りたいとは思わない。けど、大切なことを忘れない為にも確かめながら前に進むのだと、そう決めている」

「…ええ」

彼のこの意思が彼女の心を炎のように燃え立たせ、彼女も一歩前に進みそして隣に立つ。トルガルも並んだ。

「子どもの頃はふたりがいてくれたから、見失わないでいられた。今は君とシド…皆のおかげだな」

「それはあなたがいてくれたからよ」

隣に並びながら彼女は彼を築き上げていく。

「あなたが…手を差し伸べてくれたから。崩れたあそこから沈みそうな皆を連れ出してくれた」

(…あの日に私も)

(今だって…そう)

「…きっかけはジョシュアだ。ジョシュアと引き離されてひとりになってからは…君とシドが」

行こうか、と照れている訳ではなく彼自身がそう大切に受け入れた決意と共にくるりと方向を変えまた進み出す。トルガルが合わせて付いて行く。

ジルはまたその背を見つめ、この先も彼が確かめる度に自分もそこにいるのだという愛おしさにも似たあたたかい炎を胸の内に秘めて。

受けとめる、分かりあえると決めたとは別の―受け入れてそうして分かちあおうと次の行動について考え始め歩み出した。
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