テキスト(FF16)

離れていた期間が長い割には距離感がとても近いロズ兄弟とジルちゃん。ロザリア幼なじみ組の絆の強さが大好きです。


それもごく自然なこと



拠点のリーダーであり二代目シドでもあるクライヴの部屋にノックして入ってきたジルもその暖かな空間に口元が緩んだ。

彼女自身も今の拠点にて過ごす内に表情と感情が豊かになっており良い傾向が続いている。

険しく厳しい道筋を歩みながらクライヴの弟であるジョシュアと再会し、彼が目を覚まして改めて自分たちが置かれている現状については話し合いそのことを重く受け止めている。

それでもまたこれからは一緒にいられるのだということ自体が3人とも素直に嬉しい訳で。 ヨ―テと呼ばれるジョシュアの従者と合流する為に再びダルメキアの地を踏むことになる運びとなっていた。 準備を怠ることなく出発だとその言葉に特段子供時代のような扱いではなく、これからは共に歩んで行けるのだと確信を得た弟は2代目シドであり拠点のリーダーでもある今の兄の部屋をざっと眺めて何が何処にあるのか、そして事を運ぶ時にはまず何を行なうべきなのか。

頭と心の中で声には出さないあれこれとした判断を下していた。 すぐ傍にはトルガル。尻尾をゆっくり振りながら彼らの様子をじっと眺めている。 インビンシブル拠点内でここにいる皆がそれぞれ体の肢体のように働いてチームを形成している。 かつてのシドの拠点のように灯りを灯すのも蝋燭に火打石を用いたりして魔法に頼ることはせず。拠点内に存在している黒の一帯の水を濾過し飲み水に変えているミドの装置もそのひとつだ。

ブラックソーンのふいごもまた。戦いが終わったら各地に広めるつもりだと兄からも聞いた。

「ジョシュア、お前もヴァリスゼア各地を見て回ったと話していたな。飲み水はまずここから運び出しているのだがブラックソーンが新しい皮なめしで皮袋を用意すると言ってくれた。是非受け取ってくれ」

机の上に置かれた手紙や地図、そして書類の内容に目を通しつつクライヴが話しかける。

「分かったよ。ダルメキアの水脈は実際に目にして本でも確認はしているけれど、この空の下ではいつ雨が降るか今では分からないしね。道案内も確実な方向で行こう。フーゴの部下たちと遭遇する可能性もある。兄さんも気をつけて」

兄のこうした真面目な面は変わっていないなとジョシュアもしっかりと真剣に答える。

「ああ、分かっている。協力者であるルボルやエルとテオも紹介したい所だが…今回は控えておいた方が良さそうだ。教団に関して俺は殆ど知らないことばかりだ。道中でジルと一緒に詳しく話してもらえるか」

「…うん、分かった」

はきはきと答えていた直前のやり取りとは異なり間があったことに引っかかりつつもジョシュアが更に続ける。顔を見るとほころんでいる様子だ。トルガルを優しく撫でている。

「…何というか、変わらないよね。昔から僕らはこうだった」

ロザリスに生まれ年が5つ離れていた事と公主子でありドミナントでもあった弟とその盾である兄としてそれぞれの役割があった故に教えられ方も周囲の貴族たちからの扱われ方も違ってはいた。

そうした中でも国や民の事を話し合う日々を重ねていた。

今はそれがベアラーである彼らを通して―このヴァリスゼア大陸全体に蔓延う認識と黒の一帯の元凶であるマザークリスタルへと変わった。

ごく普通の人でありたい、という願いは昔も今もカタチは違えども心の中で抱きながら。
「未だニンジンも駄目なままだしな」

ダルメキアのダリミルにてすれ違い会えなかったやるせなさを思い出し、今はもうここに居てくれるのだと自然と笑みが浮かびそう伝えると。

「む。兄さんはエールが大丈夫になったけど、甘いものが変わらず苦手じゃないか」

忘れている訳ではないが、ジョシュアも大概頑固な面がある。トルガルの頭をぽんと撫で終えてつかつかと歩み寄ってきた。

「いや、それはお前が好きかと思って取り分けて「そういう所も変わっていないよね。すぐ自分を後回しにしようとする」

責めているというよりしっかりと指摘しておかなければという考えから来ているのだろう、なかなかの気迫を感じる弟にどう答えるべきか頭の回転を速めている内に、扉のノック音が響いてジルのお邪魔してもいいかしらという声にお互いに顔を見合わせて笑みを浮かべ彼女を招き入れた。 ジルは3人分のパンと果実と水差しが入った角型の籠を手にしていた。クライヴも懐からトルガルのおやつを取り出し軽めの食事を取ることに決めた。

「遺跡に行った時も、こうして3人でお菓子を食べたりしたね」

あの頃はマザークリスタルの真実など何も知らず。

春先のーそれは雪解け水によって川の水位が増し芽生えたばかりの緑、そして色とりどりの花も咲き始めた頃に出かけられたことがただ純粋に楽しく嬉しかった。

外でジョシュアが食事をすることにアナベラは良い顔をしなかったので遺跡を見回ったらすぐに戻るという条件で―城下街にて買い物のすることもその日は避けてジルが調理場の侍女たちと共にこっそりとつくった小麦と砂糖と水だけで焼いた菓子をそっと広げながら眩しい日差しと突き抜けた青空とさわやかな風が舞い、青草と花の香、雪解けで冷たい水の感触を楽しみながらのんびりと過ごしていた。

「これからはダヴアンドクラウンで、だな」

「ジョシュア、タルヤがしっかりと薬を服用するように心配していたわ」

ふたりは変わらず自分のことを話題に上げて。ずっと長い間想ってくれていたのだと実感した。

このあたたかさは失われない。失いたくない。 変わっていない。だからこそ生きていると信じて弱い身体と弱い心だったとしても動き出して、今はこうしてここに居られる。 先のことはまだ不安定で混沌の世界へとこのヴァリスゼア大陸は変わる。たとえ理を乗り越えられたとしてもその先の未来は予測できない。誰であっても。積み上げて来た歴史からは決して読み取れない不確実な時代へと移るのだ。

ただ、あいつの思い通りになるのなら確実に分かっていることがある。

あの時に一緒にいられた思い出も。今この時も。同時に無に還る。

あの日のようにまた引き裂かれるのだ。 そうなってしまったら、今度はもうない。もう二度と―。

真実にたどり着いた時、胸の内に静かでそれでいて煮えたぎるような怒りの炎が宿ったあの感覚は忘れない。だからこそドミナントでいるし、兄さんの弟でいられるのだ。

クライヴの弟である、それはジョシュアにとってごく自然なこと。フェニックスを宿す身として生まれた瞬間から。 お前の盾になろう、そう決めたのだとひとりテラスで遠くを見つめていたあの背中を見つめて。 そっと行こうよ、と手を取った時だって。会えなかったこの18年間も。今だってそうだ。 残ったひとつの果実をジルが小さなナイフで綺麗に3等分にしてくれたのでそれぞれに分け合う。 遺跡に遊びに行った時も何を言う訳でもなくこうしたことを行なってきたのでごく自然と受け取った。

「タルヤが約束守らないと若様にニンジン突っ込むわよと釘をさしておいてちょうだいねと言われたのよ」

「君が来る前にもその話をしていたんだ」

「それと、クライヴにはまた怪我が治らない内に飛び出したらベッドに縛り付けるとも」

「本当に変わっていないね、兄さん。ケアルガどんどん唱えておく心構えをしておかないと」

「おい、止せ。下手に負担を掛けようとするな。むしろトルガル頼む」





おまけ(?)
距離感が大分近いのはクライヴとジルもそうなのですがトルガルやジョシュアから見たらこんな感じ?

※ダブルヒロイン(?)との距離感

・少年期

クライヴ「アンブロシア、今日も銀髪が綺麗だな。良い子でいてくれてありがとう」

アンブロシア(顔を近づけてすりすりしている)「キュイ…」

(トルガルをだっこしながら)ジル「…」

ジョシュア「卵から孵って雛から兄さんが世話していたから…。
ね、ジル」

・壮年期

アンブロシア(クライヴが近づいてきたのでおでこをこつんとする)「キュイ…」

クライヴ「調子は良さそうだな、今日のモブハントは強敵だ。気を引き締めていこう」

(トルガルに抱き着きながら)ジル「あんなに近づいて…」

トルガル🐺「ワフッ」(でもふたりの距離感もあんな感じだし…)

ジョシュア(何事もないように飲み水やお菓子を分け合っているしなあ…。僕が居るとふたり共すぐに僕を優先しようとするし…)
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