FF16小ネタ集

このふたりらしい個人的に浮かんだお題5つ。短めのお話しを並べました。



・抱きしめる

出会う前から彼が剣の稽古を欠かして来なかった証でありジョシュアの前で彼が誓った時から大切にしてきたものを逞しい身体に抱きしめられる度に感じる。その中に私を想っていてくれることも…。あなたの腕の中にいると満たされていく。私が生まれた意味はここにあるの。あなたと出会うために、あなたと生きていくために。

華奢で繊細なつくりだ。少しでも力を込めると壊れてしまいそうだとそう思う。子どもの頃は君に触れられなかったからなおさら。細剣を振るうのも魔法を使うのも何一つ望んでこなかった、逆らえなかったからこそそうするしかなかった君を抱きしめる度に俺への想いを感じる。望んでここにいてくれるのだと。よく笑ってくれる様になったあの日からずっと変わらずに。君に誓ってからはただこの腕の中にある存在が愛おしい。



・月

インビンシブル内からも月は良く見える。アルケーの空、とエッダが教えてくれたかつての青空は覆われたこのヴァリスゼアにおいて月だけがその輝きを失っていない。何かの文献で月そのものはあくまで光は放たず反射しているのだと読んだことがある。いまだ輝きを失っておらず古い文献には同じ現象が載っていたとハルポクラテスからも聞いたこと。そうであれば取り戻せるはずだ。異兆が起きて震える心のままヴァリスゼアの人々は光を失わない月を見ている。だれもが本当は輝きや光を望んでいるのだと。まやかしの加護に縋ることも終わる。だからといってこの世界が急激に変わるわけではない。

一体何を救うのだろうか。何を救ってきたのだろうか。震えそうになる心を弟が俺の名を呼び、彼女が微笑んでくれるからこそここに暖かい再生の炎が宿るのだ。



・現実

辛いことと悲しみが続く、そしてそれらは無くならない。それがこの世界の理なのだと身に染みて生きてきた。人ひとりの時は霧のように消え去っていく。そしてこの黄昏の時を迎えているヴァリスゼアに残された時はもう僅かだ。奴も、共存するための時間はないと拒んだ。

そうした中でたくさんの人が支えてくれたこともまた現実だった。

思い出すのは守ると決めて誓ったあの日。そしてこれからのこの世界の現実を受け止めて共に生きていくと君に誓ったことも。

別れは再会の喜びをもたらすと君は俺に言ってくれた、会いたかったと。

俺も君とジョシュアにずっと会いたかった。忘れることなどない、子どもの頃はずっと言えなかったこと。独りだった間は考えることすら放棄していたこと。

今は目の前にふたりが居てくれる、それが今ある現実なのだとしっかりと受け止め感謝の言葉を紡ぐ。例えこの身がやがてはこの地に塵として還るとしても―。俺が弟と君のことを覚えていたように、遠い未来へミドが届けるべき人へ託すと決意したように誰かが必ず見出すのだ。本当の意味で、人ひとりひとりが自分の生を生きていく世界で。

それこそ俺が望んでいる現実―だれもが人らしく生きていける世界なのだと。



・誓い

それは願いとは違う。想い合っていれば大丈夫だという都合の良い世界も未来もどこにも存在などしていない。時にはでもなく願いや望みが叶わない世界なのだ。メティアに祈っても必ずしも願いが届かないのと同じ様に。生まれ落ちた瞬間から誰もが支配下に置かれている。だから大部分の人々はクリスタルに縋ったままだった。そしてそうした世界だからこそ彼と彼女は歩みを止めない。マザークリスタル破壊の為に誓いを立てた。

生きる為に縋る彼らの思いが分からない訳ではないのだ。

彼女は酔いたい?と彼に尋ねた。人々がただ日々の暮らしを立てて一時でも楽しみがあった方が良いと宵の刻を過ごしていた中で彼らから見れば世界を混乱と混沌に陥れている元凶そのものでしかない彼ら。真実は仮初めと黄昏の世界にあって残酷だ、受け入れられるものではない。

差し出された杯を受け取り―まさか、と。そう答える。渇きを潤すのに酸いぶどう酒は必要ない。

生きていく為に知恵と工夫が必要ではあっても飲み水に変えられるミドの濾過装置や大地への生命へ潤いを与える夏は冷たく冬は温かい井戸水で十分なのだ。それらは政や戦より些細なものに囚われがちな天の水門―だれもが軽視している物事にこそ人として真に必要なことを見出せる。

縋っているものは本当に人として重要なものだろうか。生きることに思考を働かせ、そうして真実を見出すことは出来ないのだろうか。

彼は罪を背負ったまま思考を止めなかった。考えて考え抜いた上で彼女の罪も背負うと決めた。そうして共に生きていくのだと彼女へと誓う。



・キス

今ここで触れてしまうと自分の傍だけで生きていて欲しいと命じることになる。

それが嫌だった。

想ってくれていることが素直に嬉しい。ただ君に相応しい存在になれるのだろうか。拒まれることが、ただ恐かった。

きっかけがあるとすればやはり君が俺の手を取ってくれたこと。

受け止めるからと君の境遇を分析は出来ても実感は出来ていなかった俺の手を取ってくれて。

ドレイクブレス破壊後―因縁を断ってから君が何故これからも身体に負担をかけるとしても戦おうとするのかまた重ねた手の平から伝わる想いを受け取った。

ガブが入って来て声を掛けられて頭が冷えたように思う。子どもの頃に避けていたやり方とは違う逃げ道を見出してしまうところだった。あのまま済ませていたら俺はインビンシブル内からもう君を連れ出そうとはしなかっただろう。

ようやく君と君の想いに向き合えたのは、あの影の海岸で二人きりで一夜を明かした時。

「おはよう、ジル」

シヴァの力を失って以来落ち込んでいた彼女だったがジョシュアの計らいもあり、久しぶりの二人きりの時間を過ごしてからは元気になってくれて良かった。早朝彼女の様子を見に部屋の外から声を掛けると向こうももう目が覚めていたらしく招き入れてくれた。

インビンシブルの出窓からはこの空の下ぼんやりした光しか入らないがジルの周辺は明るく見える。

「…おはよう、クライヴ」

挨拶まで少し間があり何かを思い出したその様子にじっと彼女を見つめると。

「子どもの頃…ロザリスでおやすみとあなたに告げてから…こういう風に挨拶出来るまで随分かかったのよね…」

箱庭から連れ出された世界と現実は逃げ出すことすら叶わなかった。真実を知ってからは辛い現実と向き合い過酷な運命に抗うと決めた。ふたりで決めてきたことがたくさんある。

今こうしてここにいられるのもそうした軌跡を描いてきたからこそ。

優しくそして愛おしく彼は彼女を見つめ、すっとかがんで彼女に顔を近づけた。

おでこに優しくキスをし、そっと体勢を戻す。

優しい目をしたジルがそこに残った。

「こういう風になるとも…思ってはいなかったよ」

冗談ともからかっているとも取れるクライヴのその態度にジルも口角を上げ彼の腕の中に飛び込む。

眠りにつく前の口づけをあの影の海岸にて彼の誓いと共にこの腕の中だけの幸福感に包まれながら済ませた。

そして彼女自身は気づいていなかったが、彼はトルガルと共に送り出してくれた少女の頃のあの笑顔と同じで君は君でいてくれたのだとそう確信を得て、彼女の積年の想いも受け取った。

(今度は―。そう青空の下で―あなたと外の大陸で…あなたと生きていくの…)

あの青空の下、あの丘でふたりっきりで過ごしたあの日から全てが変わったのだから。

この日は朝からお互いの想いを確かめ合う日となった。
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