FF16小ネタ集

両想いだったり片想い(実質両片想い)なこばなしを纏めました。

子供の頃の話も書いていきたいと思いつつふたりがお互いを強く想う様になったのは再会後・青年期以降だと考えています。

空白の5年間内はあやふやな感情を表に出さず芽生えてきたものを大切に育むもうとする女性と。

そうした相手を気遣い辛抱強く待って自制を働かせる男性の組み合わせというのがとても素敵で他ナンバリングでもなかなか味わえないふたり。

空白の5年間も大事に色々書いておきたいですね。



・その距離

※ヴィヴィアン先生とオットーから見たクラジル。

寄り添っているんだ、とオットーが笑って語っていた。

ヴィヴィアン・ナインゲールは理性と理論、そして歴史は真実を残すべきものだと提案していた。ここのところは揺れがちであるが。

教育というものは難しいものなのだ、などとこぼしてもみろ。ミドを含め私が関わることになった教え子たちはどうなる。

このヴァリスゼアが求めている“人材”にしろクライヴをはじめとして彼らが語る“人”にしろ、仮初めでしかないものに縋ることが生きると思っている彼らを救えるのだろうか、と疑問に挟むのではなくあくまで彼の意思を問う為にヴィヴィアンは何度か尋ねることがあった。

彼の答えは変わらない。

そのことに安堵感を得たと同時に、なら私自身はここ最近浮かんできたある思いに対してどうあるべきなのだろうかといまだ迷いがある自分に苛立ちを感じる。

ただ分析と真実を求めていればそれで良いのか、それとも別のやり方が必要なのかという。

クライヴに尋ねてみようか、と思ったことは何度かあった。そして否定した。

決めるのは私自身だ、と頭と理性では理解出来ているのについていけない感覚がある。

感情とは厄介なものだ。自治領のことだって、実のところ心の整理が出来ていない。

サロンにでも行ってお茶にするかと拠点の中に与えられた自分の居場所を出て行くと。

ちょうどモブハントの依頼をネクタールに頼まれているクライヴの姿があった。

そのすぐ隣にはジル。

普段はそうした気配はないし、特に気にもしたこともないが。

あのふたりは一緒の時にどこかお互いに対して独特の雰囲気を出すことがある。

ああ、今がそうか。語ろうとしないクライヴ(彼はそういう傾向がある、さすがに私がアイデアを出すまで立ち去ろうとしなかったのは参ったぞ。根気があると言えば聞こえは良いが、一歩間違えば暴君だ)にジルが近づいてじっと彼を見つめている。

「おっと、先生。どうかしたのか?」

「オットー。いや、大したことではない」

「わざわざ口にするのは大したことがある時だぞ」

「拠点の皆は…お節介だな」

階段下からふたりを見上げる形で気づかれない程度に会話を続けた。

「あのふたり…」

「ん?クライヴとジルのことか?」

「親しいというか仲が良いというか…近いな」

「何を当たり前のことを・・・・んん?」

いやいやいやいや、先生のことだ。たぶんあれだほら、生物が魔物になってしまう原因を考えるとか歴史上何度もあった営みとかに関して学者として分析しているとか、そういうことだろう。というか、そうであってくれ。

「私はクライヴと情勢について語るのはけっこう楽しみだ。嗜み、といっても良い」

…そうではなかったら、一体どうすれば。オットーの顔色がみるみるうちに青ざめていく

「饒舌というほどではないが彼は聞くことに早く、しっかりと自分の考えと意見を出してくる。今はそうではないようだが…」

「ああ…良かった、そういう意味か。あいつをリーダーに推薦したのは俺だ。シドと誓ったんだと名乗り上げてくれたからな。先生も気づいている通り意思も強いからな。それと責任感も強い、そんなもんだからあいつはひとりで背負おうとしちまう」

クライヴがドミナントである以上普通の人は無論、クリスタルを介さなくても魔法が使えること以外は普通の人であるベアラーであっても立ち入れないものがあることは彼らも分かっている。

そしてドミナントではあるが、彼は特殊で例外な存在であると皆が分かっている。それでもついていくと決めたのはその意思に惹かれてのことだ。

「ジルも同じなんだよ、先生。あいつがひとりで背負わなくても良いように寄り添っているんだ。俺たちは俺たちのやり方で、ジルはジルのやり方で」

「それぞれのやり方で…か。近いようで遠い、遠いようで近い距離だな」

「先生いつから詩人になったんだ。まあ、あのふたりの距離感は俺たちでは出せないものもあるからな、偶にはそっとしてやっておいてくれ」

「ふむ…。何だか真新しい感覚に包まれているようだ。全く、さっきまで感じていた苛立ちは何処へやら。自治領やカンベルでは周りなどお構いなしに没頭していたのだがね。ここは…不思議なことばかりだな」

喉を潤しに行ってくると颯爽と去っていく彼女にオットーは先生も可愛いところがあるものだとしみじみする。そして。

「それで良いんだよ、先生」

来たばかりの頃と比べて柔らかさを感じるようになったのは、彼女もまた人らしく生きているということだ。

ふと話の的となった当の本人たちを再び見上げてみれば。ネクタールとのやり取りも終わり、書庫の方で新しく持って帰って来た本の話をしていた。

ロザリアのおとぎ話の他に子供たちの読むものも増えた。

自分の子どももここにいてくれたらとオットーは一抹の寂しさも覚える。

おとぎ話の世界は時折残酷だ。このヴァリスゼアの世界は辛くて悲しく厳しい現実が続いて来た。おとぎ話では魔法は使えるまま。ヴァリスゼアはこの先―…。

断ち切られたものに縋り続けるものはいない。強制的に変わる、神話の舞台。

人と人との距離が変わるのだ。ふとした瞬間に見つめ合い微笑み合うふたりにそんなことを思う。本当の意味でその人を探して見出すのだと。

(まあ、先生が突っ込みたくなるくらい距離が近すぎるっていうのは俺も思ったりするな…。ロザリスで6年くらいだったんだろ?5年経ってからようやくって…うん、だからよ近いって)



身なりはきちんと(クラ←ジル)
※青年期の時にはクライヴは無論、ジルも感情を動かすのがぎこちない感じでしょうけど。

再会してからお互いがだんだん心の中を占めつつある大きな存在なのだとふとした瞬間に意識しあっていると良いと思っています。



先に必要な物資を買っておくかとカローンに話かけて、合わせて流通のことも尋ねてみた。

彼女が必要な医薬品も取り寄せているのだと、タルヤの助手である男性の独り言から知った。

医者であるタルヤや助手の男はここ最近運び込まれてきたベアラー達の様子を思い出しただけでも確かにおいそれと医務室から離れるわけにはいかないだろう。

“これからはあんたにも頼むからね”

出会って間もない頃はすぐにここを去るつもりだったのが、今や一員となったクライヴに発破をかけるようにカローンはぶっきらぼうながら力強く言った。

ここにいる皆のことをシドとの“大仕事”を成功させて戻ってきたら、名前や出身のことも尋ねてみようと思う。

シドに連れて来られて来たばかりの頃はどこか他人事のように思っていた彼らのことを改めて考えてみると、すまない気持ちとここが良い所で最初から好感を抱いていたのだと気づく。

ふと振り返ると、トルガルは蝋燭の灯りをじっと眺めていて。火打石で灯りを灯していると聞いた。魔法を使わなくても生きていける証のひとつだ。

ロザリアでも火傷するからな、とあまり側には寄らないようにジョシュアやジルと3人で言い付けていたのを思い出した。トルガルも同じだろうか。懐かしさに笑みが浮かび、他の所へ視線を向けるともう準備を済ませたであろうジルが靴下を上げ直してしっかりと身なりを整えていた。

皇国領となって荒れていることは覚悟の上、ふたりでロザリアに戻ろうと決めた時に用意されたジルの今の衣装は慎ましくても白と青の調和が取れた上品な装いだ。

調達されてきた中から頂いたの。

大切にしないといけないねとちょっとほつれが出来た時はきちんと丁寧に縫ったりとんとんと血が染みとならないように洗い流ししている彼女の様子から皆への感謝の想いがよく分かる。

(ジルは昔から裁縫が得意だったな…)

顔を上げた彼女と目が合った。すこし驚いた様子で身なりを確認する仕草をしはじめた。

「…どうかしたのか?」

近づいてそう尋ねると。

「え、変なところがないかって…」

「どこもおかしい所はないさ」

「クライヴ、じっと見ていたじゃない…」

ああ、そういうことか。

「いや、その装いを大切にしていてジルは偉いなと思ったんだ」

昔から裁縫も得意で好きだった彼女。この隠れ家で洗濯ものを担当している女性もいる。

戻って来たら彼女と話し合う楽しみがあっても良いだろう。ずっと拘束されていて身なりや生地のことも話す機会などなかったのだから。

それは自身も同じだ。イーストプールの惨劇はあの人のことを許せないと思うのと同時に受け取った父上のものを大事にしたい、オットーや子供達が褒めてくれたことも嬉しかったのだ。

「よく似合っているよ」

「…ありがとう。クライヴ」

「最初に見た時からそう思っていたんだ。綺麗になったなって」

―お兄ちゃんとお姉ちゃん、なかよしだね。

―こんどはシドともおしごとだって。

小さい子たちがひそひそと楽しそうにふたりの様子を眺めている。

「…クライヴは…そう、あなたは昔からエルウィン様に似ていたわね。

今は…ああ、あなたなんだってそう…感じている」

穏やかに語る彼女の様子からその事に安堵感を抱いているのだと気づく。

「そうか、良かった。君にそう言ってもらえるのは嬉しいよ」

「私で良ければ、だけど…」

「ジルだからだ」

きっぱりとした口調にジルが穏やかに微笑んだ。

良く見てくれているし、これからも頼むよと伝えてから今度はブラックソーンの工房へ剣の調子を見てもらおうと足を向けた彼の後ろ姿を見届けてから。

きゅっ、と指を絡ませて彼女は瞳を閉じている。嬉しいのだろう。

髪型は変じゃないかしらと次はそちらを確認し出す。

やれやれとそんなふたりのやりとりを遠巻きに眺めていたカローンが今度リボンでも新しいのを取り入れてやるとするかねぇ、あの男は気づくだろうし…とキセルから煙を吹かせていた。



※両想いなのに相手が大切すぎて片想い期間も長いのがクラジルの特徴な小話2本。

※噛みしめる(ジル→クライヴ)

声は出せる。あなたの姿をみて笑顔になれた。抱きしめられた時、温もりを感じた。そっと、手を重ねた。

子どもの頃にふたりで月を眺めた日を、忘れたりはしなかった…。

シドが足を滑らせたとき、あなたとシドが軽口を叩きあっていて。

これからマザークリスタルを破壊して、その後はもっと迫害が厳しくなると分かっていたのに。

ふたりを見ていて、何だかほっとしたの。

私は心が動いているのだと。

あなたと過ごした5年間の間はこのヴァリスゼアの現実から逃げることも目を背けることもしなかった。あなたがいてくれたから、あなたと一緒にいたいから…。

この因縁は断たなければならない。そうしなければ私は本当の意味で人なのだと言えない。

ずっとあなたといられない。

天の水門から降り注ぐ強い雨を避けるために隠れた洞窟にて寄り添う。トルガルは入り口付近で見張りをしてくれている。

少し濡れたけど、それ以上にお互いに寄り添い伝わってくる体温が心地よい。

「休もう、ジル」

「ええ‥‥」

インビンシブルが今の形になるまで、あちこちで潜伏を余儀なくされていた間もこうして傍に寄ってお互いを確かめ合った。離れていた間を取り戻す以上に大切なこと。何も知らなかった私たちはヴァリスゼアの真実に向かい合わなければならないのだと。

肩に頭を乗せて瞳を閉じる。鼓動が早くなる。彼の傍に居られることが辛いことが続く日々でも、私が生きている証となっている。

(これからもずっと…あなたと一緒にいたい…)

マザークリスタルはあの国にもある。いずれ、必ず戻ると決めていた。

「…新しい拠点がある。これからも一緒だ」

炎を灯らせ辺りに灯りを、心にも灯りを灯して暖めてくれるあなたがそう伝えてくる。

「ありがとう…」

ちょっとだけ眠ることにした。悪い夢が悪い現実に繋がっていたあそことは違う。

目が覚めたらすぐそばにあなたが居る。何よりもそれが嬉しい…。

あなたに甘えることは出来ない。でも、その時が来たらこの想いを伝えさせて。

もう、離れたくはないの。



※泡沫(クライヴ→ジル)

「ジル、大丈夫か」

女性特有の痛みだろうか。部屋で横たわっている彼女にそっと声をかける。

「クライヴ…大丈夫よ。ちょっとめまいがしたから…」

日差しがなくなってしまったからなのだろうか。

優しく頭を撫で温かいものをもらってくる、とトルガルにジルを任せてデイヴの酒場へと向かう。エールではなく温かいものを頼むとミルクを小鍋で温めてくれた。

木のカップで受け取り、ジルの部屋へ向かう。

「温かいミルクだ。飲めそうか?」

「ええ、ありがとう…」

ゆっくりと身体を起こすのを手伝い、湯気が少し立っている木のカップを渡す。

両手で包み込むように受け取ったジルはそっと口をつけた。

「温かいわね…美味しい…」

「良かった。飲んだら、少しでも眠った方が良い」

「ええ…。ねえ、クライヴ」

「どうかしたのか?」

「眠りにつくまで、ここにいてくれる…?」

幸い今は火急の用がない。構わないが…と答えるとジルがにこりと微笑んで再び木のカップに口をつける。

きちんと飲み干してから、横たわってこちらをじっと見つめてくる。

いったいどうしたというのだろう。暖まった身体が冷えないように掛け布団で覆いまた優しく頭を撫でているとぽつりと彼女はこぼしてきた。

「ここにあなたがいてくれるの、すごくほっとするの…。今朝ね、夢を見たの。

あなたとジョシュアが…真っ黒な黒の一帯の中をトルガルと走り回っても、どこにもいなくて…

クライヴ、ジョシュア、どこなの…そう叫んだら目が覚めたの」

13年間、ずっと離れ離れだったことを思い出す。ジョシュアとは18年間も、だ。君もそうなのだろうか。

「これからも一緒だ。俺もジョシュアも、ずっと一緒だ…ひとりにはしないさ…」

「うん、そうよね…。あの国では、もうあの頃には戻れないと諦めてた…。

あなたが助けてくれて、ジョシュアも生きていて…だからこそ、こわいの…」

待っているだけは辛いのだと普段から抑えがちな君がドレイクファング破壊後に戻ってきた俺にそう語り掛けたことがあった。

大丈夫だ、とは言い切れない。だからこそ君は俺を守ろうと戦っている。

手を取りぎゅっと握りしめる。ここにいるのだと、今のこの時もこれから先に繋がっていくのだと伝える為に。

ジルは安心したのか、目を閉じて眠りについた。トルガルの方を向くと開きかけている扉の向こうの気配を感じたのかすくっと立ち上がった。この申し訳ない気配はさしずめオットーか。

今すぐ拠点を出なければならない。

静かに行くぞとトルガルに目配せし、トルガルが先に開きかけの扉から出ていく。そっと彼女から手を放す。温もりが残る。

今はまだ誓いの時ではない。でも君の想いを泡沫にはさせない。

(必ず…そう遠くない日に…)

君に誓おう。
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