テキスト(FF16)

拠点の皆とロズ兄弟+ジル。メインはメイヴ。

本編はずっと重たいシリアスなので(テーマ的にそれが大切で重要)

朝のちょっとした時間にさわやかなひとときをと目指したこばなしです。



・朝おやつ・

マザークリスタルドレイクヘッドが砕かれたのを切掛けに各国のクリスタルが失われ小麦の収穫が厳しくなったことや魚を凍らせることも出来ず新鮮さを失わないのは難しくなったので魚屋の商売人が塩漬けを施し店に出している。

カローンと倉庫係のオルタンスが仕入れに関して見事な手腕を発揮して。ダヴアンドクラウンの彼らが決められた仕入れからその日その日の食事を上手くやりくりしてくれているのだ。その中にはジョシュアの体調を気遣い子どもたちの栄養に関するアイデアが込められていることは言うまでもない。

エールさえあればいいんだけどなあと酒好きのベアラーが管を巻こうものなら怒られる。もっともそれを気軽に口に出来るのはずいぶんと人らしい生活に馴染んできた証でもある訳で。

拠点内でもっとも朝が早い人物はといえば当然彼らのリーダーである2代目シドのことクライヴだが彼の弟であるジョシュアと彼らの幼馴染であるジルも目覚めからさっと身支度を整え動き出す。

トルガルも針の音や鐘の音を意識している訳ではなく決まった時にクライヴの部屋の扉が開くのを階段下から待っている。明日は夜明け前に出るぞと言われればすぐにそれに従い早めに音を立てないように待ち構えるのだ。笛を鳴らすと駆けつけてくれる気高い馬(チョコボ)であるアンブロシアも同様だ。

それに足並を揃えるかのようにブラックソーンが鉄を打ち始め、カローンがざっと仕入れた商品の目利きと取引の計画をバイロンに持ちかけ、グツに武器と防具のことも少しずつ知識を提供している。いずれは自分の元から旅立つとしても大丈夫なように。ハルポクラテスが筆を取り、ヴィヴィアンがヴァリスゼアの情勢に対して地図を眺めながら意識を向ける。

ゴーチェは各協力者たちの状況を纏めながら帳簿も合わせて真剣に眺め、デシレーが贈り物と共に添えられた手紙の内容を噛みしめている。認識が変革している兆しを確かに感じるのだ。

オットーはそうした彼らの様子を眺めながら、助言すべきことを見極めてガブやクライヴにも相談を持ち掛ける。

すぐ傍でネクタールは“クライヴがこれを倒して戻って来たらモグの名声が…”となにやらつぶやいている。

ミドが設計図と模型を取り出し、これからのことを大工房の助手たちと相談し合い。

シャーリーは授業が始まる前におしゃべりをしていた子どもたちへ手をパンパンと鳴らして授業が始まりますよと合図を送る。

テトとクロは医務室にて安静にしているエッダのお腹の中にいる赤ちゃんにあいさつを送り、オルタンスの前を通り過ぎようとして新しい布で赤ちゃんの服を作るのか尋ねに引き返していた。

すぐ傍で子どもたちが落書きをして楽しんでいる。拠点にいる子どもや大人たち含めて彼らの暮らしをよく観察しながら。

図書館ではウォールード王国から保護されてきた少女が熱心に本を読み始めていた。

ルカーンはこれから先舞台が変わってくヴァリスゼアの為に今までの出来事を歌う他に詩を残そうと考えている。

船頭であるオボルスが地平線と空中を見上げ、この拠点の最終目的である理の破壊への彼らの決意を改めて感じ取る。大工の彼らはここからまた始まるんだからな、しっかりと俺たちの家を守らんと気合を込めて釘を打っていく。すぐ近くの稽古場で木剣と木剣の固い音が響き渡る。石の剣のドリスとオーガストが彼らの腕を見極め、実戦へ連れ出す為に話し込んでいる。

ナイジェルたちが植物園にてクライヴが採取した植物系魔物のサンプルを取り出す。モルボル系統は特に強力だ。戦いの後に黒の一帯にて花を咲かせ実を生らせないか―肥料のみでは厳しいがこの風の大陸の黒の一帯のベンヌ湖でミドのろ過装置の周りがマーテルの果実が生り美しい花畑となったのだから可能だと確信を得た彼らは本日も熱心に取り組み始めた。

拠点内のこうした光景を3人とも目に収めてから出ていくことに決めていた。目指すべきものを見失わない為に。

クライヴがジョシュア・ジルと共に頷きトルガルに声を掛けバイロンとカローンに挨拶を済ませてからダブアンドクラウンの前を通り過ぎようとすると。

メイヴがちょっと待ってと声を掛けて来た。

「これ、朝から食べておくと良いかと思って」

小皿に小さな丸い菓子がちょこんと3つ乗っかっている。

ぱっと見た感じでは小麦と砂糖とバターを混ぜて焼いた菓子とあまり変わらないように見えた。

ただ以前に出されたものより白っぽい。

「パンが高くなった時から分かっていたことだけど、小麦の収穫は減ってしまっているからね。バターだとかさを足せないから代わりにチーズを混ぜてみたの」

ケーキはマザークリスタル破壊が進むにつれ、ダヴアンドクラウンでは作られなくなった。

ジョシュア、ジルと共に3人で口に含んでみた。サクッと口に含めしっとりとした舌触りに甘しょっぱさを感じる。

塩を少し多めに入れたのかとクライヴが尋ねると。保存が効くようにね。しょっぱすぎると食べられないしそこら辺は上手くやるつもりと答え。

チーズの風味が前と違うのねとジルの気づきに。そうそう!普段はレンネットなんだけど、ナイジェルが植物園で出来た葉と根の汁をミルクに素早く混ぜると固まるって教えてくれてやってみたんだ!と明るく答えて。

これならそれほど手間を掛けずに素早く焼いて沢山作れるねとジョシュアの鋭い指摘に、さっすが!これからはそれが大事だからね!とビシッと恰好を決めて答えて来た。

「美味しいよ」

クライヴが穏やかに笑みを浮かべてメイヴに礼を告げると。

「良かった…3人に真っ先に食べてもらえて。気づいて欲しかったことも全部言ってもらえたから」

メイヴが今度は真っ直ぐに彼らを見つめて来た。

「私たちがしていることで、このヴァリスゼアから無くなっているものはたくさんあるよね。

クリスタル破壊だけが目的じゃないってこれからのことを皆で考えながら活動してきた。

クライヴたちが迷わなくても前に進めるように、そしてこれからのヴァリスゼアの為にも私が…ううん、私たちがこれからも考えているっていう努力の証のひとつとしてこれを作ったんだ」

保存がきいて、植物園の彼らが別の食物確保の為に生み出したものを用いて。そして誰もがふいごを含め火打ち石で起こした炉で簡単に沢山作れる菓子。

「…ありがとう、メイヴ」

「皆にも食べてもらおう。まずはそこから、だね」

ジルが感謝の言葉を、ジョシュアが想いを受け取りさらに行動を促して。

「まあ、私が出来ることがこれくらいしかないし―」

「いや、十分すぎるほど色んな話をしてきたな」

クライヴは彼女が積み重ねてきたものを伝える。エールを一杯飲み干す間にメイヴとここで沢山の話をしてきた。

「その想いが詰まっているから、メイヴは作れたんだ」

「…うん、ありがとう。皆」

「ひとつ食べただけで元気が出て来たわ」

ちょっとうらやましそうに顔を見上げてきたトルガルにジルがトルガルはクライヴからおやつを貰ってねと優しく語り。

「甘いもの苦手な兄さんが美味しいって言うくらいだからね」

意味ありげに笑みを浮かべるジョシュアにメイヴも思いっきり笑顔になる。

「あはは、何それ。ジョシュア飲まなくてもいいから今度教えて」

「…まだ覚えていたのか。…お前本当は分かっていてわざと…。

まあいいか。そうだな、手始めにジョシュアの言う通り皆に配ってみないか」

「いいじゃない、私も賛成。朝のメニューに加えてもいいと思うわ。そうね、さしずめ…」

拠点の皆の想いが詰まっている朝の目覚めと共にあるおやつ。

インビンシブルの朝おやつ、なんてどうかしら。

ジルのそのアイデアにクライヴとジョシュアは顔を見合わせ微笑み、メイヴへ促す。

メイヴは早速手書きでダヴアンドクラウンの看板メニューのひとつに加えた。

朝っぱらからエールは禁止、というのは変わらないままで。







・おまけ?(ほんのりクライヴ→ジル)

ジルが楽しそうにメニュー名を出せて良かったね、と明るく語る弟は。

ああ、ただ前に一緒に買い物に行ったときもパンのことばかり語って俺のことをすっかり忘れていたんだが…。

今回もメイヴと一緒に拠点で生み出したメニューで盛り上がっていて、俺の呼びかけに気づいていない…いてて!ジョシュア、何をするんだ!

そんなことを語る兄の頬を思いっきり引っ張ってやった。

兄さん、本っ当に反省しているよね?

…悪い。

僕ら…厳密に言えば兄さんがするべきなのはジルがしてくれていることにちゃんと感謝する。忘れないように。

…ああ。そうだな…。
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