テキスト(FF16)

ジルちゃんがイサベルに対してごほんと咳き込んだりしてやきもち焼くカットシーンがあるのはご存知の通り。ではクライヴは?と思って書いたこばなしです。



君ありて



「オットー。クライヴはどこかしら」

拠点に戻ってきたばかりのクライヴを探していると。

「さっき、ゴーチェの所に向かったが…協力者の誰かに何かあったのかもしれん」

オットーからそう告げられ、ジルは急ぎ足でゴーチェが担当している協同窓口へ向かう。

ブラックソーンの鍛冶場にてミスリルのように硬い鋼鉄が叩かれていく音が響き(外大陸からの刃にブラックソーンは言い表せない焦燥感を感じていたとはクライヴとオーガストから聞いていた、ふたりのお陰で今は迷いがないみたい)、グツがカローンに頼まれて彼女が許可しない限りは開かない倉庫から重たいものを運び出している姿をそっと目に収め(グツは最近ブラックソーンのところへ教えを乞うている。カローンも心の中では認めているの)シドの設計図からこれはハッチだと部位名が書かれている場所の傍でいつも通り井戸端会議をしている彼女たち。倉庫番のオルタンスや(新しく来たベアラーの姉妹の為に布を取り寄せた彼女は新しい布を分けてくれた。待っているだけじゃ不安なら、クライヴへ何か縫ったらどう?と)インビンシブルのかつては甲板だった床に落書きをしている子どもたち。 この5年間で慣れ親しんで来たこの拠点での生活を目にしながら、ここでの生活を毎日噛み締めている。北部で貴族に囲まれていた時やロザリスでの華やかさとは無縁である。 ジル、と親しみを込めて皆から名前を呼ばれて。皆とても辛いことが立て続けに起きても、支え合いながら生きているのだ。本当の意味で人らしく。 ここはとてもいい所だな、とクライヴがケネスに伝えたかつてのシドの拠点と同じように。

ガブやゴーチェは元々の明るさもあり、最近ではミドとバイロンのお陰で騒がしさも増した。その中心となっているのが2代目シドと名乗るクライヴであることは言うまでもない。 漆黒のマントを羽織うその背中に、安堵と愛おしさを含めた鼓動の高鳴りを感じた。
―ジルも、クライヴが好きだよね。(活発なジョスラン。)
―ぼくたちも、みんなすき!でも最近ずっとトルガルとも遊べないね…。(素直なアルトゥル。)
―しかたないでしょ。ほら、宿題とシャーリーが待っている。(慎重なエメ。)
子どもたちもどうして彼がここのところ拠点にいないのか、子どもたちなりに分かっている。 デシレーとゴーチェが何か確認しあった後、クライヴが頷き3人の様子から大事ではなかったことをすぐに察知した。
おかえりなさいと声を掛けようとしたその時―。

「イサベルからの贈り物は俺の部屋に飾っておいてくれ」

「…」

言葉が詰まった。

「了解、クライヴ」

「嬉しいですよね。みんな喜びますよ」

ジルの沈黙とは正反対にデシレーとゴーチェはとても嬉しいのだろう。

どこに飾りましょうかとか、オットーさんも喜ぶなあと明るく盛り上がっている。 ふたりのその反応にクライヴも笑みを浮かべているのが後ろ姿からも分かる。

「さて、次の石の剣の任務についてドリスと…ジル?」

振り向いたすぐ先にジルがいたので少し驚いたがクライヴはいつも通りどうかしたのかと淡々と尋ねた。

「イサベルから、贈り物が来たのね」

「…ああ」

「あなたの部屋に飾るのよね…良かったじゃない、素敵なもので」

「…協力者だからな。飾れるほど信頼と意味はある。皆にとってもいい機会だとは思っているよ」

(なるほど、そういう言い方もあるわね)


―彼、シドとは全然違うのよね。すごく真面目な人。


イサベルはクライヴの内面をすぐ見抜き、新しい拠点であるインビジブルが今の形になるまで潜伏を余儀なくしていた時にそっとジルに語りかけてきたことがあった。

―そうね、知っているわ。昔からいっしょだったもの―。

すぐにそう答えるつもりだったが発することが出来ず夜のとばりの娼婦たちとベアラー保護活動のための近況を報告しあうクライヴの横顔を見つめるだけに留めた。 自らの意志を封じられ心も凍らせて獣であったと自嘲していたジルと、娼館を含めノースリーチの皆から慕われて。他者への鋭い視線を向け心の動きを機敏に感じ取るイサベル。異性を彼女は手玉に取っている訳ではない。女の直感ですらない。深く掘り下げるかのように見抜いているのだ。

再会してから彼と彼の中にあるものにどこか縋ろうとしていた自分とは彼女は全く異なる。 これまで過ごしてきた環境や生き方があまりにも違うのだとひとことで済ますのは簡単で。
ベアラー保護やこの世界の常識という名の異常に目を向いている点のは同じである。 ただ…。

「何でもないの。クライヴ、子どもたちが首を長くして待っていたわ。行ってあげて」

さっと去っていってしまった彼女のどこか冷めた様子に。

(色々…タイミングが悪かったのか)

腕組みしながら少し考えて、この所ジルともまともに時間をとっていないことからクライヴはある決意をする。こうした時は素早く行動に移した方が良い。 先ほどのジルの様子に今度はちょっと不安がっているふたりに大丈夫だと視線を送ってから後を追う。 サロンにてトルガルにおやつを与えてくれていたカローンにジルはこちらに来ていないか尋ねると、来ていないねぇとぶっきらぼうな返答。グツもひょっこり顔を出して植物園の方には向かっていないよと教えてくれた。

さて、そうなると。

トルガルの頭をわしわし撫でた後、子どもたちを頼むよと伝え、昇降機から渡し舟へと向かう。 風にゆるやかに揺れる白銀の髪が目に入った。 船頭のオボルスに先に皆でエールを飲んでいてくれとまとまったギルを渡して、ジルの隣に並ぶように立つ。

「子どもたちは先にトルガルに頼んで来た。この前の礼だと…花が来た。皆が喜ぶ顔が見たくて飾ってもらうことにしたんだ」

しばらく拠点に居られなくて、心配していただろうから。そう添えて。 黙ったままの彼女を見つめる。 ジルは利き手でもう片方の腕を押さえながらぽつりと話し出した。

「ごめんなさい。分かってはいるの…」

「君が謝る必要はないんだ。俺がコントロール出来ない間は君に負担ばかりかけていたから。それと…嬉しい気持ちもある」

「え…」

「ロザリスでのことー」

フーゴの策略により剣を手放すことになり、枷のせいで魔法は全く使えず歯がゆさと焦燥感を感じたまま地下牢に閉じ込められていたあの時。 あの男の部下たちはジルのことをいい女、と好き勝手に評していたのだ。とんでもなく下世話な下心があったのは漂う空気から嫌というほど察した。

「正直…相当腹が立った。トルガルとガブのお陰であの場を切り抜けて。後になってから…こうした‥‥独り占めにしたい想いを抱えているのは俺だけかな、そう思っていたから」

―君が他の男にそうした目で見られるのは、嫌なんだ。 黙っているつもりだったと話して来るクライヴにジルはことん、頭を寄せて来た。 クライヴも静かにジルの肩に手を置き優しく引き寄せる。

「君に甘えてばかりで…俺の方こそすまない」

「いいえ…私が自分で決めたことだもの。 それにすごく嬉しい…あなたが同じ様に想ってくれていたことが」

待っているだけでは、想うだけでは、満たされない。 それは本当に届けられる相手が目の前にいること、叶えたい願いがある世界がどのようなものなのかあやふやではなくしっかりとした自我―意思があってこそのもの。お互いにシドの前で誓った時に芽生えてものを育んで来たのだ。 時にはこうして上手くいかないこともすれ違うことだってある。それも含めて人でいたい。

「それと…おかえりなさい、クライヴ」

「ああ。ただいま、ジル」

離れていた間はばらばらになっていく自分をジョシュアの敵討ちが出来ればそれでいいと、それだけで繋ぎとめていた。君とまた一緒になれて。欠けていたものは日々君が補ってくれている。

その度に満たされていく自分がここに今在(い)る。 意思があるからこそ、求めて抗う。 それが人として生きていくということ。 最後まで抗って生き抜いて、理さえ乗り越えていく。

お互いの想いと存在を確かめ合いながらクライヴとジルはその後は互いに言の葉にはしない誓いを胸の中に秘めた。

(それと…かつて君を連れ出したときのあの花とは違うけれど…喜ぶと思ったんだ)

それはまた、別の時のおはなし。

※おまけ

セリフのみですが。ほのぼの内容&オチ。

ジル(あら、クライヴ)

オットー「すまんクライヴ、ちょっといいか」

クライヴ「例の件か。ドリスとオーガストにも招集をかけてもらおう」

ジル(帰ってきたばかりでまたすぐ…)

別の日ー

ミド「クライヴ~!部品が足りないんだよー!」

クライヴ「そろそろ言い出すだろうと思っていたから、ブラックソーンとカローンに頼んでおいた。他に必要なものも明日には着くはずだ」

ミド「やったー!さすがクライヴ!」

ジル(出かける度に三つや四つも用事果たしているのよね…)

翌日ー

ネクタール「クポポー新しいモブハントの貼り紙書いたクポー」

ゴーチェ「協力者窓口にも依頼が来ているぜ」

デシレー「こちらは贈り物も届いていますよ、さっそく試してみますか?」

クライヴ「そうさせてもらおう」

ジル(皆クライヴがすぐに出ていくことに慣れてしまっている…)

直後 クライヴの部屋ー

クライヴ「ん?ジルからの手紙…サインだけで何も書いていないな…っと…」

ぎゅっと後ろから抱き着いているジル「…」

クライヴ「どうかしたのか?」

ジル「いえ…せめてここにいる間は安らいでいて欲しいの」

クライヴ「そうか…」

ドアをノックしようとしたガブ「なあ、トルガル。やっぱ今行くのはまずいよなあ…」

トルガル「ワフ🐺」
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