小説版 フルメガネ・パニック!
「カドヤ」
「はっ、カドヤ、ここに」
薄暗い戦闘機の中に、男の形をした立体ホログラムが投影される。映像の前に膝を折り最敬礼を見せた軍服の女性は、大眼鏡帝国軍少佐・カドヤである。
「MSDの準備はどうだ」
「ええ、化学科が滞りなく」
「ほう」
「実験を兼ねての投入ですが、一定の効果は期待できるとのこと」
「そうか」
同軍の元帥は、黒縁の眼鏡を白く光らせながら含み笑った。投影された映像でありながら、圧倒的な威厳でカドヤをかしこまらせている。
はたと笑い声が止み、元帥は再び言葉を紡ぐ。
「お前の第二中隊は、日本の担当であったか」
「はっ」
突然変わった話題に疑問を感じつつ、頭を垂れながらカドヤは続く言葉を待った。
「日本は視力矯正大国だ。作戦完遂には時間がかかるだろう。だがカドヤ。お前の力をもってすれば――成し遂げられるだろう」
「ありがたきお言葉……!」
カドヤは勢いよく顔をあげ、力のこもった瞳で投影される長身の男を見据えた。
「大眼鏡帝国軍少佐・カドヤの誇りにかけて、必ずや元帥に勝利をお約束します!」
「ふっふっふ……。全く良い眼をするものだ。よかろう。期待しているぞ」
「では、作戦準備がありますので、これで」
「……ああ、そうだ。ひとつ伝え忘れていた」
立ち去ろうとした少佐を、戦闘機中のスピーカーから流れる声が留める。カドヤは振り返り、眼鏡の縁に手を添える、いわゆる略礼をとった。
「はい。なんなりとお言いつけください」
「いや、指令ではないのだ。お前の――兄のことだ」
瞬間、カドヤの眼が大きく開かれた。
「良い医者がいるらしい。この作戦を完遂したならば、紹介しよう」
映像の男は顔を覆うように左手の親指と中指で眼鏡を押し上げ、身体全てを隠すマントを翻し消えた。
ばつん、と、ホログラム投影機が電源を落とした。辺りには機械音ひとつない静寂が戻ってくる。
「最大限の感謝を、元帥閣下」
カドヤ少佐はつぶやく。
もうじき作戦開始時間だ。彼女の率いる第二中隊隊員が集まり始めるであろう。
カドヤは、先ほどの最敬礼によりずり落ちた眼鏡を中指で押し戻した。
「はっ、カドヤ、ここに」
薄暗い戦闘機の中に、男の形をした立体ホログラムが投影される。映像の前に膝を折り最敬礼を見せた軍服の女性は、大眼鏡帝国軍少佐・カドヤである。
「MSDの準備はどうだ」
「ええ、化学科が滞りなく」
「ほう」
「実験を兼ねての投入ですが、一定の効果は期待できるとのこと」
「そうか」
同軍の元帥は、黒縁の眼鏡を白く光らせながら含み笑った。投影された映像でありながら、圧倒的な威厳でカドヤをかしこまらせている。
はたと笑い声が止み、元帥は再び言葉を紡ぐ。
「お前の第二中隊は、日本の担当であったか」
「はっ」
突然変わった話題に疑問を感じつつ、頭を垂れながらカドヤは続く言葉を待った。
「日本は視力矯正大国だ。作戦完遂には時間がかかるだろう。だがカドヤ。お前の力をもってすれば――成し遂げられるだろう」
「ありがたきお言葉……!」
カドヤは勢いよく顔をあげ、力のこもった瞳で投影される長身の男を見据えた。
「大眼鏡帝国軍少佐・カドヤの誇りにかけて、必ずや元帥に勝利をお約束します!」
「ふっふっふ……。全く良い眼をするものだ。よかろう。期待しているぞ」
「では、作戦準備がありますので、これで」
「……ああ、そうだ。ひとつ伝え忘れていた」
立ち去ろうとした少佐を、戦闘機中のスピーカーから流れる声が留める。カドヤは振り返り、眼鏡の縁に手を添える、いわゆる略礼をとった。
「はい。なんなりとお言いつけください」
「いや、指令ではないのだ。お前の――兄のことだ」
瞬間、カドヤの眼が大きく開かれた。
「良い医者がいるらしい。この作戦を完遂したならば、紹介しよう」
映像の男は顔を覆うように左手の親指と中指で眼鏡を押し上げ、身体全てを隠すマントを翻し消えた。
ばつん、と、ホログラム投影機が電源を落とした。辺りには機械音ひとつない静寂が戻ってくる。
「最大限の感謝を、元帥閣下」
カドヤ少佐はつぶやく。
もうじき作戦開始時間だ。彼女の率いる第二中隊隊員が集まり始めるであろう。
カドヤは、先ほどの最敬礼によりずり落ちた眼鏡を中指で押し戻した。
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