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序章

「――――!!!」

 かぶっていた布団を私の腕がはぎ取った。
 心臓がどかどかと破裂しそうに暴れている。ひんやりと、背中へ嫌な汗が伝った。

 また、この夢……。
 小さいころから何度も見た。かつてはのどかで美しかったであろう国が焼け落ちて、その中を何かに追い立てられるように走り続ける夢。そして最後に立ちはだかる黒い影。――八つの首を持った、龍……いや蛇のような……。私の心臓はあれを見るたびにカンカンと警鐘を鳴らすのだ。
 何もかもが分からないことだらけの夢だけれど、焦りと悲しみと恐怖という感情が色濃く後を引く。この夢を見た朝は、ひどく重苦しいものだった。


「カンナ、起きてる?」
「――! 起きてます。起きました、今」
「ありゃりゃ寝坊?珍しいね」
「はい、ちょっと」
「ちゃちゃっと準備しちゃいな。もうすぐ朝礼の時間だよ」
「わかりました」

 いつもは私が彼女を起こしに行く係である。今日は先を越されてしまったようだ。
 朝礼に間に合うよう、急いで装束を着つける。
 ――おや、洗濯当番は誰だったのだろう。のりがよくきいている。襟のあわせがうまくいった。些細なことだけれど、私の気持ちを少しなりとも軽くしてくれた。

 部屋のふすまを開けると、涼やかな風が入り込む。深く吸い込むと、すこし鼻がツンとするような冷たい空気。もう大分冬が近づいてきているな――身にその空気をまとわせるように、部屋の外へ出た。
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