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序章

 空が、燃えている。
 美しかった緑が、ゆらめく紅に塗り替えられてゆく。火の手が空へ伸びては散り、散っては伸びた。まるで助けを求めているかのように。
 路傍に転がる仲間たちの亡骸が、目を開けたまま紅い空を虚ろに見上げている。肉や髪が燃える焦げ臭さが鼻にひりつく。口からそれを吐き出しもう一度息を吸うと、熱く乾いた空気が飛び込んできて私の喉を焼いた。

 周囲には、すでに私の足音しかない。
 走り始めてどれ程経ったか。走っているという感覚がとうに消え、足は私の意志と関係なしに回り続けている。
 燃える空気にすっかり焦がされてしまった私の肺は、ただひゅうひゅうと音を吐き出し続けていた。

 ――もう、止まってしまえよ
 そんな声がどこかから聞こえた。ああ、止まってしまいたいとも。けれど、私には足を止められない訳がある。

 我が主は、今もきっとこの災厄の元凶と対峙し続けているのだ。多くの弱きいのちを背中に隠し、自らが犠牲にならんと悪の前に立ちはだかる……そんな人だから。私も、逃げるわけにはいかない。

 走れ、走れ、走れ。


 静寂が支配するこの世界に突如、大地を揺るがす咆哮が響いた。びりびりと鼓膜が震える。あまりの圧に、足が止まってしまった。
 これが、この国を滅ぼしたもの――。
 恐れをなしたことは言うまでもない。
 主の危機を感じ、再び足を踏み出した、その刹那。

 山より大きな影が、現れた。
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