ターンオーバーの目玉焼き
近所のお気に入りのベーグルに、クリームチーズとサーモンを挟んだサンドイッチ、彼が好きなターンオーバーの目玉焼きに、ツナのサラダ、日曜の昼下がりお決まりのブランチ。
二度寝を十分に重ねた私達は真っ白なシーツの海から砂場に足をつける。
普段の私の食生活を見た彼は呆れた顔で、「栄養バランスって知ってる?」と言い放ち最近一緒に食事を作るようになった。
何回も食事をしているうちにシンプルな物が好きなんだなと気づいた。
意外にもフレンチのフルコースや、手の込んだ手料理よりも、手軽に食べれるものの方が好きらしく彼は「効率が良いからね」と言っていた。
確かに端正込めて作ったハンバーグや、オムライスを食べている姿はなんだか想像しにくいしチグハグで今度作ってあげようかな、と私は密かに笑った。
私がサンドイッチ担当で、彼がサラダと目玉焼き担当だ彼は目玉焼きに相当こだわりがあるらしく、手順をふんだターンオーバーじゃないと嫌らしい。
私には良く分からないけど真剣に卵を焼く彼の横顔はとても美しく、幼く感じてそのアンバランスさに胸が苦しくなってしまう。
長い睫毛、ほどよく引き締まった体、南條君は気づいてないかもしれないけれどうなじにはほくろがある。
これを知っているのは私だけだと思いたいけど、彼の新しい一面を知るたびに彼の過去が見えてくる気がして、私は必死に目をそらす、時々安心させるように私の髪を撫でる南條君の手は冷かった。
彼の好きなターンオーバーの目玉焼き、コーヒーのミルクの量に、キスするときの柔らかな目、意外と寝起きが悪いところ、ぜんぶ私だけが知っていたら良いのにと願ってしまう。
日曜日の昼下がりに似合わない感情はきっと、彼とブランチを食べたら忘れてしまうだろう。
4月の風はぬるく、これからの予定を話している私達の頬を撫でる。窓際に彼がおいた小さく主張する花の名前をまだ私は知らない。
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