帰宅ラッシュに揉まれて、何人かの体に蹴飛ばされながらホームに押し出される。やっとの思いで街灯だけが頼りの細い道を何かに逃げるように歩いて、公園のベンチにすがるように座った。当たり前のように夜の公園は誰もいない、それは私の中で今日唯一の救いであった。



したくもないのに自然に今日の出来事を反芻してしまう。コーヒーを鞄に溢して、大事な書類を間違ってシュレッダーにかけた、その他の色んな失敗と不安定な人生に、ビリビリと頭が痛くなって目の前の景色は揺らぐ。頬に伝う冷たさにやっと自分が泣いていることがわかった。



誰もいない公園で二十歳を過ぎた大人が永遠に涙を流すのは不審者に近い。涙でぐちゃぐちゃになっていてもスマホのロックは解除出来るんだ、と少し笑う。
気づいたら虎石君に助けて欲しいとLINEを送っていて、それはすぐに既読がつき、着信の画面に切り替わった。もしもしもなく今どこ？、と焦ったような声に安心をしてまた涙が止まらなくなる。やっとの思いで最寄り駅近くの公園にいることを伝えた、いつもより低い声でわかった今行く、と手短に告げられ電話は切れる。



暗くなったスマホは泣きじゃくった私を写していて、その顔の酷さに少し冷静になる。今日は思っていたよりも寒く靴を脱いで体育座りをする。体育座りをしたのは高校生ぶりだ。



遠くからだんだんと近づいてくるバイクの光は暖かく私を照らしているように見えて、息を切らしながら大丈夫か？、と迎えに来てくれた虎石君にああまだ自分にはこの人がいるんだと、その事実だけで身勝手にもう大丈夫だと思った。
ひどい顔を笑われることもなく抱きしめられて、いつもの鮮やかな手つきで気づいたらバイクに乗せられている。



「寒いよな俺のジャケット着てて」


「虎石君は寒くない？」


「俺が寒くならないように抱きしめててくれれば大丈夫」とあどけなく笑う彼の顔を私は直視出来なかった。



バイクの重たい振動と人の体温は居心地が良い、お揃いのヘルメット越しに映る景色を私はただ一つ一つ眺めることしかできない。