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朝8時のプロポーズ

衣替えをしきれないクローゼットから去年のセールで買ったTシャツを取り出すのは、なんだか私だけ季節から取り残されているようでまだ梅雨が通り過ぎていないジメジメとした気候は、いつも着けている腕時計さえも重苦しく感じてしまう。


飯出来たぞ、と目玉焼きの匂いがする彼は賑やかな友人からもらった犬柄のエプロンを着こなしていて、それはなんだか冷蔵庫のCMみたいだなと思った。


ぼけっとしてると遅刻するぞ、と私の寝癖を直す彼は母親みたいだなとも思う。
それは口に出ていたらしくお前を産んだ気はないけどな、とお馴染みの台詞が帰ってきた。


当たり前のように砂糖なしミルク多めのカフェラテが出てくるのは、出会った年月と過ぎた日常を示しているようでコップを持つ手に力が入る。


「魚住さん私と結婚しませんか?」

「は?お前なんて言った…?」

「結婚しませんかって、プロポーズです」


朝8時のプロポーズに頭を抱えた彼が付けている、エプロンの賑やかな犬達との温度差が面白くてつい笑ってしまう。


「笑ってる場合じゃないだろ 今日お前休め」


「何でですか?」


「どうせ今思い付いて何も用意してないんだろ、役所行くぞ」


「え、もしかして結婚してくれるってことですか?」


「当たり前だろ 指輪も買いにいかないとな」


早く行くぞ、と私の周りでせかせかと動く魚住さんは俺が言いたかったセリフだ、といいながらも楽しそうでもしかしなくてもこの人の名字になるんだな、と他人事のように思う。


冷めてしまったカフェラテを飲みながら、なんでもない水曜日が結婚記念日になるのはなんだか私たちらしいなとも思った。
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