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ムーンエクセレント

春の風は心地よく体を撫でていく。
たまにはベランダに出るのも悪くない、外に出た時の冷たさをふくらはぎに感じる。南條君が入れてくれたメープルシロップ入りのミルクティーは、すんなりと喉に通っていってポカポカと暖かい。


「ミルクティー美味しい!」と微笑む私に「俺が淹れたからね」と得意げに笑う。友達が焼いてくれたクッキーは月の形をしていて今日にぴったりだ。「こんな時間に太るよ笑」、「いーもん!今日だけだし」うるさいと南條君の口にクッキーを突っ込む、眉間にしわを寄せながらもぐもぐするのはリス見たいでかわいい。


「結婚する?」、とさっきまでコーヒーを飲んでいた彼はいつの間にかこっちを向いていて、何てことのないように、そして日常会話の様に喋る彼に、私は頷くことしか出来なくて「目を見て返事してよ」、と笑う彼はやっぱりいつもの彼だった。
寝室は月に照らされていて、さっきの情景が頭に浮かんでは消えていく。プロポーズされた実感は無くてひんやりとしたシーツのシワをなぞる。


「もう俺から逃げられないね」
静かに言う南條君の眼はいつもより優しい気がする。真っ白なシーツ上に光る二つの指輪は、いつの間にか私達の間に存在していて手品みたいだなぁ、と呑気に眺める。それは私の知らない所で用意されていて当たり前のように私の指に通される。


シルバーの細い指輪はキラキラしていて手に馴染んでいく。ふと私が前雑誌でかわいいと言っていたものだと気づいてあっ、と声が出る暗くてよく見えなかったけど頭の上でふふっ、と笑っているような気がして、私も少し笑った。
キツくない?、と指を眺める彼にいつの間にか測ったんだね、と言うしかなくて鈍感な彼女で良かったよと手握られる。


「幸せにしてね」


「当たり前でしょ」


暗闇に光る月はきっと私達のことを祝福してくれるだろうと思った。
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