甘くて、にがい
相変わらずの雪模様と一桁の温度を伝えるニュースにはうんざりする。真っ白で静寂な街並みは色と音が無くなったようで窓一枚隔てても冷たさが増していく気がした。
珍しく早起きだねとお揃いのマグカップを二つ手にした南條君から手渡されたホットロイヤルミルクティーは猫舌の私専用にぬるめでいつもより少し甘い気がした。
おはようのキスはミルクティーよりも甘くてもっともっとと背伸びをする、いつの間にか私の手元にあったマグカップはサイドテーブルに置かれていてこういう所が南條君という男だなと思う。
ふっと少し口角を上げた彼に腰を引き寄せられる、腰に回された手はごつごつとしていて深いくちずけに息が詰りそうになった。伏せたまつげの奥から覗くマゼンタの瞳は溶けそうで、朝から情熱的だねと笑う彼に、そっちからしたんでしょとふくれる。
今日は出かけようか天気も良いし、と私の膨れた頬をつつきながら問う。最近は寒くて家に籠るばかりだったから久しぶりの外デートに心が躍って映画も良いなぁ、とか美術館も良いね、と今日の予定を重ねて行く。そんなにたくさんは無理だよ、と彼はマグカップに口をつけた。
「無理じゃないもん」
「別に明日もあるでしょ」
そうだよね、と冷静を装いながら明日もデートしてくれるんだと南條君の発言を心の中でこっそり噛み締める。久しぶりの二人揃った休みは1ヶ月ぶりで妙に力が入っている気がした。
同棲はしているけれど、すれ違いの生活は思っていたよりも寂しく、虚しい。ベッドの上のぬくもりや、一緒に食事をする楽しさ、抱きしめてくれる感触を何度もなぞっては消えていく、電話ともラインとも違う彼の暖かさはそれまでの冷たい感情を溶かしていくようだった。南條君の体を手繰り寄せて私は寒いねと彼の胸元に小さな嘘をついた。
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