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冬の上のダンス

柔らかで、優しい朝は、私達にはとてもまぶしく思わずまた布団に潜り込んでしまう。朝特有のキリッとした冷たい空気は、布団からはみ出た足にまとわりついてお互いの足を絡めると、その温度差になんだかこそばゆくなった。

眠たげな虎石君は、目を擦りながら私に短いキスをまぶたに落とす。
「おはよ」と短い挨拶はお互いの眠気を感じさせた。

「あー俺今めっちゃオムライス食べたいわ」

「オムライス?」

「オムライス」

タイミングよくなったお腹の音と、突然の提案はあまりにもタイミングが良くて、二人でクスクス笑う。

やっとの思いでベッドから出ると、虎石君はすぐに私を抱き締めて湯たんぽ変わりにしようとする。「準備してよ」、と怒りながらも自分の顔が赤くなっているのが分かって恥ずかしい。

近所のスーパーに虎石君と歩く。挽き肉はあるから付け合わせと卵かな、と今日の買い出しを考える。
「アイスとポテチも買おうぜ」、と言う彼は男子高校生だなとしみじみ思った。
「おやつは300円までだよ」、と笑う私に「えー」と声を上げる。

寒空の中を二人でくっつきながら歩く。まだ誰も踏んでいない真っ白な道に、私達の足跡をつけるのは秘密の遊びみたいだ。当たり前のように繋がれた手はとても暖かくて、それと同時に手袋なんてなければいいのにと欲深く思ってしまう。

いつものコーヒースタンド、サンドイッチが美味しいパン屋さん、虎石君がたまに買って帰ってくれるお花屋さん、毎日見ている景色なのに彼と歩いているとこんなにも明るくてキラキラして見える。近所のスーパーでさえも特別な場所に思えてくるのはとても不思議だ。

「寒い?」

「ううん、大丈夫だよ」

「外じゃなかったら抱きしめるのにな」とさらっという虎石君はずるい。

「ずるいよ 」と呟く私に「知ってる」と返される。ふいに後ろを振り向くとしんしんと降る雪に私達の足跡は塗りつぶされていた。
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