第10話 暴走
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リリーティアが街の広場に着くと、結界魔導器(シルトブラスティア)が煌々と光を放っていた。
激しい音をたて、黄赤色に染まったエアルが溢れている。
目にはっきりと見えるほどのエアルが宙を舞っている中、周囲の植物が早くも変異し始めているのが分かった。
広場には何人かは恐怖から逃げ出す人もいたが、多くの人が不安と困惑の表情でそこで立ちすくんでいた。
「エアルがバカみたいに出てる!この濃度じゃ命に関わるわ!」
「おまえだって、危険じゃねえか!?」
広場にはすでにユーリとリタ、そして、カロルもいた。
結界魔導器(シルトブラスティア)をどうにかしようと近づこうとするリタを、ユーリが必死に止めている。
カロルは広場の隅で呆然と立ち尽くしていた。
リリーティアは急いで彼らに駆け寄った。
「リタ、ユーリ!」
「リリィ、一体これどうなってんだ!?」
「とりあえず今は避難を!リタ、近づかいで!」
「ちょっとはなして!この子、ほっとけないのよ!」
リリーティアの言葉も耳に入らず、リタはユーリの腕を振り払おうと必死だ。
どうしても”この子”である結界魔導器(シルトブラスティア)を助けたいのだろう。
結界魔導器(シルトブラスティア)の処理に介入して、沈静化を図ろうとしてるのだ。
その時、急に息苦しさが増したような気がした。
「うおっ!」
「きゃぁ!」
「うぁっ!」
瞬間、結界魔導器(シルトブラスティア)が閃光を放ち、広場全体に衝撃の波が襲った。
魔導器(ブラスティア)に一番近くにいたリリーティアたちはその強い衝撃波に吹き飛ばされてしまう。
それでもリタはそこからすぐに立ち上がると、結界魔導器(シルトブラスティア)へと急いで駆け寄り、操作盤を開いた。
「リタ、危険だ!今すぐ離れて!」
リリーティアは片膝をついて起き上がり、叫んだ。
それでも、彼女は操作盤を操作し続けている。
「大丈夫、エアルの量を調整すればすぐに落ち着くから。元通りになるからね!」
まるで泣き喚く幼子をなだめるように、結界魔導器(シルトブラスティア)に言葉をかけながら作業を続けるリタ。
それでもエアルの光はさらに強くなっていく。
これ以上、あの高濃度の中にいれば、その命が危ない
「リタ!これ以上っ・・・は、危険だ!」
リリーティアはこれまでにない息苦しさに言葉を詰まらす。
体中が重く、立っているのもやっとなほどの倦怠感が襲ったが、それでも体に鞭打ってリタに駆け寄った。
「私はこの子を助けるの!邪魔しないでっ!!」
「・・・リタ」
リタは誰よりも”この子”を心配していた。
誰よりも魔導器(ブラスティア)を想っている。
リタの想いは強かった。
「!!・・・あんた」
リタははっとして見る。
リリーティアが隣でもうひとつ操作盤を開き、それを操作をし始めたのだ。
「リタはこの子のエアル需要供給の安定値を!私は抑制範囲の限度を調整する!」
リリーティアは忙しく視線を動かしながら、結界魔導器(シルトブラスティア)の轟音にかき消されないよう、リタに叫んだ。
”この子を助けたい”想い と ”彼を助けたい”想い。
それぞれに秘めた想いは違う二人。
それでも、これだけは同じだった。
”助けたい”という深く揺ぎない想いは。
だからこそ、リリーティアはリタの想いを無碍にしたくなかった。
「え、・・・ええ!わかったわ!」
リタは困惑した表情を見せたが、すぐに真剣な面持ちで頷くと操作を再開した。
「危ない!今すぐ離れるんだ!」
「リリーティア!・・・フレン、市民を街の外へ誘導だ。あと姫様を含めた彼らも」
「はい」
その時、アレクセイとフレンが広場に駆けつけた。
傍にはアレクセイの秘書でもある特別諮問官クロームの姿もある。
「そんな!この子の容量を超えたエアルが流れ込んでる。このままじゃ、エアルが街を飲み込むか、下手すりゃ爆発・・・・・・」
「な、ば、爆発だって!冗談じゃないぞ!」
「みんな、逃げろ!急げ!」
リタの言葉に周りにいた人たちが算を乱して逃げ惑い始める。
あたりは一瞬にして混乱に陥った。
エアルは留まることなく、過剰なエアルが広場一面に溢れ続けていた。
「うっ・・・!」
リタが呻き声をあげる。
「リタ!」
「だ、大丈夫よ・・・!」
しかし、リタの顔色はどう見ても悪かった。
呼吸も乱れ、指も微かに震えている。
このエアルの中では、その体はもう限界に近いようだった。
「(これ以上は、リタが・・・・・・)」
彼女の様子に、リリーティアは操作の手をさらに忙しく動かす。
早く結界魔導器(シルトブラスティア)を沈静化しないと、リタの命も危険だった。
「・・・・・・循環術式の再構築、それ、から・・・っ・・・!」
リリーティアは突然、酷い頭痛に襲われ、頭を抑えた。
胸が痛い。
息が苦しい。
その時、脳裏によぎったのは彼の姿だった。
彼が胸をおさえて苦しんでいる姿。
「(こんなもの、・・・彼が感じてるものと比べたら!!)」
リリーティアは顔を上げると再び操作盤を打ち始めた。
額に汗が滲み、幾筋にも顎に伝って落ちていく。
「(考えろ!止めるな!動かせ!)」
リリーティアは心の中で何度も繰り返し、意識を保とうとした。
それでも過度のエアルは容赦なく体を蝕む。
どんどん視界が霞んでいく。
「(このままじゃ・・・!!)」
その時であった。
「リリーティア!リタ!」
エステルが叫びながら二人に駆け寄ってきた。
「エステル、きけ・・・・っ!!」
危険だと叫ぼうとしたが、目の前に広がる信じられない光景にリリーティアは我が目を疑った。
エステルの体が発光していたのだ。
彼女の内から溢れ出る光。
異常な濃度のエアルの中だというのに、彼女には苦しそうな様子が一切ない。
「・・・エステリーゼ・・・」
リタもその光景に驚いていた。
リリーティアははっとした。
胸が痛くない。
息も苦しくない。
自分たちの体にもエアルの影響をほとんと感じなくなったていた。
そして、それより何よりも驚いたことがあった。
「(エアルの暴走が弱まった・・・!?)」
リリーティアは唖然としてエステルを見た。
リタもそのことに気づいたようで、信じられないといった表情で彼女をじっと見詰めている。
「(エステル、あなたは・・・・・・!)」
リリーティアの脳裏にはひとつの言葉が浮かんでいた。
古代〈満月の子〉の力。
瞬間、一気に不安がよぎった。
彼女の未来が変わる、と。
「リリーティア、こっちはなんとかなりそうよ!」
リタの声に、リリーティアは我に返った。
慌ててさっきまで考えていた事を振り払うと、すぐに作業を再開した。
「これなら!」
リリーティアは声を上げた
息苦しさもなくなり、意識もはっきりとしている今、作業に集中できるようなった二人。
着実に結界魔導器(シルトブラスティア)の暴走は沈静化の方向へと向かっていた。
「・・・よし、できた!」
そうして、リリーティアは最後の調整を終えた。
リタのほうを見る。
「こっちも、できたわ!」
その後すぐにリタも調整を終え、ほとんど同時にお互いの調整を終えた。
エアルの暴走によって溢れていた周りの光が少しずつ薄れていく。
結界魔導器(シルトブラスティア)の暴走は無事に止められた。
そうして、リリーティアがほっと息を吐こうとした。
瞬間、凄まじい光が視界を覆った。
「(リタ!エステル!)」
リリーティアはとっさに二人に手を伸ばしたが、彼女たちを庇うよりも先にその体が宙に浮いた。
「「きゃああああああっ!」」
「っ!!!」
リタとエステルの悲鳴と共に、結界魔導器(シルトブラスティア)が大きな音を立て、光が爆発した。
リリーティアは二人の叫びを耳にしながら、体が宙に浮いているのを感じた。
その後すぐに激しい痛みに襲われ、一瞬にしてあたりは闇に包まれた。