第10話 暴走
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「やっぱり仲がいいんだ」
リリーティアは目の前の光景に、苦笑を浮かべていた。
彼女が今いるところは、街を出てすぐの場所。
なぜ結界のない外まできているのかというと、アレクセイとの話が終わってリリーティアが街を歩いていた時、偶然、なにやら誰かを探している様子であったルブランを見かけた。
隊長であるシュヴァーンでも探しているのかと思い、声をかけてみると、どうもそうではなかった。
部下であるアデコールとボッコスの姿が見当たらないから探しているという。
そこで、リリーティアも一緒に探すことにしたのだが、いろいろ思い当たって探した末、
たどり着いた先には----------、
----------手に持った剣を肩に乗せたユーリと、地面に突っ伏しているアデコールとボッコスがいた。
「・・・・・・これのどこかだ」
これ以上にないくらい嫌そうな顔でリリーティアを見るユーリ。
「あ、やっぱり嫌な顔するんだな」と彼女はひとり心の中で納得した。
「私にはそういう風にしか見えないんだけど」
「冗談やめてくれ」
やれやれといった様子で、ユーリは剣を鞘に収めた。
リリーティアは気絶しているアデコールとボッコスに歩み寄り、彼らの傍に片膝をつくと手をかざす。
「アクアヴィテ」
光に包まれてしばらくすると、倒れていた二人は呻き声を上げながら目を覚ました。
頭を押さえながらゆっくりと上体を起こす。
だいぶユーリには完膚なきまでにやられたようだ。
「まだやれる、で・・・あ~る・・・-----っ!!」
「う~、くそ・・・ユーリめ・・・-----っ!!」
アデコールとボッコスは、顔をあげた先にリリーティアの顔があって思わず言葉をなくしていた。
彼女がいるとは思ってもみなかったことだったのだろう。
その表情はこの上なく驚いている。
「「リリーティア特別補佐っっ!!」」
希に見ない俊敏な動きで二人はびしっと直立すると、さっと敬礼した。
二人のその反応に彼女は小さく笑い声をもらした。
「ふふ、大丈夫ですか?アデコールさん、ボッコスさん」
「は、はい!だ、大丈夫です、であ~る!」
「大丈夫です!」
「それならよかった。それにしても、・・・こんなところで、一体どうして?」
リリーティアがユーリのほうを見て尋ねると、彼は迷惑げな表情を浮かべた。
「街ん中ぶらついてたら、急に絡まれたんだよ」
「絡まれた・・・?」
疑問符を浮かべて、彼女はアデコールとボッコスへと視線を移した。
「こやつは帝都の平和を乱す犯罪者!いくらヨーデル殿下、エステリーゼ姫様の直々の恩赦でもユーリ・ローウェルが罪を犯した事実は変わりません、であ~る!」
「それは騎士団の正義として見逃しがたいことです!」
アデコールとボッコスは姿勢を崩さず、声を張り上げて言う。
その目は真剣そのものだ。
<帝国>の姫を連れ回したとして捕らえられていたユーリ、カロル、リタの三人は、本日の夕刻、その罪が赦免され身柄は解放された。
中でもユーリは姫の誘拐の他にも、これまで下町で騎士たちと衝突する度に課せられていた諸々の罪もすべて赦免され、それはこれまで聞いたことがない異例な赦免であった。
それはフレンと共にここへ駆けつけたヨーデルとエステルの計らいがあり、そして、アレクセイが最終的な判断を下した結果にもたらされたものである。
つまりはヨーデルとエステルのおかげといっていいだろう。
しかし、それでも二人はどうしてもその異例に納得いかなかったのだ。
「んで、デコボコに勝てば無罪を認めるとかなんとか」
「だから、デコボコ言うな!」
つまり三人がわざわざ街を抜けて結界の外に出て行ったのは、すべての罪が無罪となったことに騎士として納得がいかず、自分たちなりにユーリにその罪を償わせようとしたらしい。
といっても、これまでユーリにひどい目に合わされてきたから、個人的にも許せなかった気持ちもそこにはあるような気がしなくもないが。
「事情はわかりました。とはいえ、すでに彼は赦免され、一般市民です。彼には殿下や姫様のことで十分お世話になったことも事実ですし、どうか今回は彼のことを許してあげてください。私からもお願いします」
「「リリーティア特別補佐・・・」」
二人の気持ちもわかる。
半分は個人的に許せない気持ちもあるのだろうが、騎士団の正義、騎士として納得できなかった思いも確かにあったのだ。
譲れないものが。
ユーリにしてみれば彼らに買い被り過ぎるなどと言われそうだが、リリーティアには騎士としての心があること彼らの中に感じている。
「ま、俺が勝ったってことは、どっちにしろ許すってことだしな」
ユーリの言葉にアデコールとボッコスがぐっと言葉を詰まらせる。
少し悔しそうな表情を浮かべていた。
「許す許さないはここまでとして・・・・」
そう言ってリリーティアはユーリに向き直ると、
「ユーリ、彼らが迷惑をかけた。シュヴァーン隊の特別補佐として謝ります」
彼女は深く頭を下げた。
「なっ!リリーティア特別補佐が謝ることなどありません、であ~る!」
「そうです!わたしたちが勝手にしたことです!」
アデコールとボッコスは慌てふためき、自分たちの勝手な行動を深く反省した。
「別にリリィが謝ることねえけどな」
律儀にも頭を下げて部下の失態を謝る彼女に、ユーリは肩を竦めて苦い笑いをもらした。
気づけば、あたりは闇に染まりつつあり、夜が訪れようとしている。
リリーティアはアデコールとボッコスにルブランが探していたことを伝え、今すぐ騎士団本部に戻るように言った。
「本当に申し訳ありませでした、であ~る」
「お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「いえ、気にしないで下さい。お二人がいつも頑張ってくれていること、ルブラン小隊長からよく聞いています」
普段あまり接することのない彼らだからこそ、彼女は今言えるときに少しでも感謝の思いを伝えようと言葉を続けた。
「アデコールさん、ボッコスさん、いつもありがとうございます。シュヴァーン隊のこと、どうかこれからもよろしくお願いします」
少し落ち込んでいた二人の表情が、だんだんと明るくなっていく。
リリーティアの言葉に嬉々とした感情が溢れ、彼らの沈んでいた気持ちはあっという間に吹き飛んだ。
「お任せ下さい!であ~る!」
「お任せ下さい!」
息も動きもぴったりと合わさる二人。
敬礼した彼らのその瞳は自信に満ちて溢れているように見えた。
リリーティアは笑みを浮かべて頷くと、二人は「失礼します」と一礼し、街のほうへと駆け出していく。
その足取りはどこか弾んでいるようであった。
二人の背を見送るリリーティア。
彼らを見る彼女のその瞳は、穏やかで温かみに溢れていた。