第10話 暴走
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「計画の中にいれて行うには、まだ不透明すぎるか」
広い部屋。
そこにある執務机の上には、何枚もの紙が広がっている。
その机の前には何やら思案顔のアレクセイの姿があり、
「はい。・・・今の段階では単なる推測でしかありませんが」
深刻な面持ちであるリリーティアの姿があった。
二人がいる場所はヘリオードにある騎士団本部の執務室。
現在の時刻は夕刻を過ぎた頃。
「もし、この力が本来のものと同じだったならば、障害は大きく取り除けることになる」
アレクセイは独り言のように呟やき、机の上に広がる紙を一枚手にとってそれを見た。
彼が手に持った一枚の紙をはじめ、机の上に広がる紙はリリーティアがまとめた報告書である。
ユーリたちの旅の中で起きたことを詳細にかつ簡潔に、そして、それに対しての自分の推測、考えをまとめたものだ。
今、アレクセイが手に持っている報告書は、ハルルの街でのエステルの力について記したもの。
しばらくその報告書を険しい目で見ているアレクセイを、リリーティアは口を挟むことなく、ただじっとその様子を見詰めていた。
ユーリたちを連行し、このヘリオードについてから翌日。
連絡の通りに、その夕刻にはアレクセイがヘリオードへ到着した。
現在、リリーティアはユーリたちとの旅で得た情報を報告しているところだった。
「しかし、まさか奴があの廃墟に現れるとはな」
アレクセイは報告書を机に置き、リリーティアに向き直る。
彼の言う奴とは、始祖の隷長(エンテレケイア)のことで、カルボクラムでのことを言っていた。
「私も信じられませんでしたが、エアルを体内へ取り込んでいるのを目撃しましたので、それは確かです」
「ふむ。・・・
これもまた、アレクセイはどこか独り言のように呟く。
「詳しいことはわかった。報告は以上かね?」
「はい」
アレクセイは頷くと窓際に立ち、外を眺めた。
雨は降っていないが、相変わらず外は厚い雲に覆われている。
リリーティアはアレクセイの背を見詰め、次の言葉を待った。
「ラゴウとバルボスについてだが・・・・・・、奴らには、そろそろこの舞台から降りてもらわねばならんな」
一瞬、リリーティアのその目が僅かに鋭くなった。
「・・・・・・まずは、ギルドへの交渉ですか?」
「ヨーデル殿下の書状を持ってフレンをダングレストに向かわせる」
「ドン・ホワイトホースは承諾するでしょうか?」
「バルボスはすでに<帝国>側でも無視できない状況だ。それは向こうも同じ」
リリーティアはそこで静かに目を閉じると、ひと呼吸置いて、その目をゆっくりと開いた。
「ラゴウ執政官はどうなさいますか?」
「ラゴウは今、ダングレストに向かっているようだ。おそらくバルボスのところだろう。一番は奴らが一緒にいるところを叩き込めば、手っ取り早く片は付きそうだが・・・ -------」
アレクセイは一度言葉を切ると、静かにその口を開いた。
「----------腐っても評議会の人間だ」
そこには、言葉以上の深い意味が込められていることをリリーティアは知っている。
すべてを奪われた、あの日。
すべてを失った、あの日。
すべてはあの日から知っている。
嫌というほどに思い知らされた。
リリーティアは目を伏せ、腰に差した短剣に意識を向けた。
そして、アレクセイの背を真っ直ぐな瞳で見据えると、
「分かりました」
はっきりとした声で言った。
その一言に、深く重い意味が込められていながら。
しばらく二人の間に静寂の時が流れる。
アレクセイはただじっと外を眺めリリーティアはただじっと騎士団長の背を見ていた。
「・・・・・・準備が整い次第出発する。君は帝都まで姫の護衛を頼む」
「はい」
「下がりたまえ」
リリーティアは一礼すると、踵を返した。
部屋を出ようと扉に手を触れたその時、
「〈満月の子〉の力か・・・」
アレクセイの呟く声をが聞こえた。
リリーティアは彼に一瞥すると、扉を開き部屋を出た。
廊下に出ると、時折、駐屯している騎士とすれ違いながら広い廊下を進む。
「(やはり・・・・・・)」
リリーティアからの報告。
そして、アレクセイの反応。
すべて考えていた通りだった。
アレクセイはハルルの樹を甦らせたエステルの力に着目した。
今はまだ推測の段階。
ハルルの樹が甦ったのがエステルの力だけによるものだとは断言できない。
しかし、これまでの旅の中で彼女の治癒術を見てきて、ただそれだけを見ても、彼女の力は明らかに一般的に比べると強いの感じた。
十分、注目する対象にはなるだろう。
現にリタも彼女の力に着目している。
魔導器(ブラスティア)研究員であれば、誰しもがエステルのその力にその目を向けるだろう。
アレクセイもそれと同じことだ。
しかし、彼に対してはひとつだけ危惧することがある。
リタならば彼女のことを無碍に扱うことは絶対にしない。
いや、扱うという言葉も当てはまらないだろう。
リタはエステルを大切に見ている。
はじめこそは、何かしらの研究の対象とでしか見ていなかったのだろうが。
でも、今は違う。
この旅の中で、リタの様子を見ていたリリーティアには、それが断言できた。
研究対象ではなく、人としても心をもって接していることを。
本人は自覚していないけれど。
リリーティアは廊下を抜けて本部の広間に出た。
そして、門を抜けて騎士団本部を後にすると、ヘリオードの街中へと向かう。
「(でも、あの人は違う・・・・・・)」
あの人は手段を選ばない。
そんな彼がエステルの力に着目したということは、それを利用するということだ。
そう、理想のための