第9話 廃墟
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「大丈夫か、ラピード」
「ワフ!」
ユーリは剣を支えにして立ち上がる。
魔物の一番近くにいたユーリとラピード。
何度か体は打ちつけたものの、まだ戦える体力はあった。
「リタ、大丈夫です?」
「ったた、まったくなんなのよ」
エステル、リタも怪我はなく無事だった。
その時、地響きと共に、二人に大きな影が降り注いだ。
それは、魔物の影。
「くそ!」
二人が狙われている。
ユーリとラピードは急いでその場を駆け出した。
魔物は、エステルとリタの前で、再びその前足を高く上げる。
この至近距離でまたあの衝撃に襲われたなら、次は命に関わるだろう。
これまでにない危機的状況に二人の体は一気に血の気が引いた。
「デウス・ ノトス!!」
突然、魔物の足元に激しい風が巻き起こった。
後ろ足だけで支えていた体はバランスを崩して、魔物の体に炎風の刃が襲った。
そして、魔物は音を立てて横に激しく倒れ込んだ。
呆然とするエステルとリタ。
その時、庇うようにしてリリーティアが彼女らの前に立って現れた。
「リリーティア!」
ほっと安堵の表情を浮かべるエステル。
あの魔術はリリーティアが放ったものだったらしい。
彼女の足元には緑色の術式が浮かび上がっていて、術式を保ったまま魔物を見据え続けていた。
「「・・・・・・?」」
いつもと雰囲気が違う。
エステルとリタはどことなく彼女の様子がおかしいことを感じた。
なぜ、そう思わせるのかはわからなかったが。
「リリィ・・・?」
それは、駆けつけたユーリにも感じたことだった。
魔物と戦い始めた時から彼女の様子がどこかおかしいとは思っていたが、その時とはまた違う雰囲気であった。
とはいえ、彼女の様子も気になるが倒れていた魔物が起き上がるのを見て、ユーリはさっと剣を構え直した。
格段に威力の高い魔術でも、その体躯には致命的な効果は与えられなかったようだ。
魔物は起き上がると、リリーティアたちへと体を向けた。
しかし、それ以上動く気配はなく、いっこうに攻撃を仕掛けてこない。
互いに動くことなく、じっと対峙したままの時間が流れた。
先に動いたのは魔物のほうだった。
しかし、魔物はリリーティアたちに背を向けた。
ズシンと音を立てながら、壁に空いた大穴に向かってゆっくりと歩いていく。
そして、巨大な体躯は大穴の闇の中へと消え、そのまま気配は完全になくなってしまったのであった。
「はあ、・・・・・・助かりました」
脅威が去って、エステルは大きく息を吐いた。
リリーティアは術式を解くと、魔物が去っていった大穴のほうをじっと見据え続ける。
体を激しく脈打っていたものが、徐々に静まっていくのを感じていた。
一方で、上方では『魔狩りの剣(マガリのツルギ)』が未だ竜使いと戦っていた。
「全ての魔物はな、俺様に殴られるために、生まれてきたんじゃー!」
「師匠!危険です!」
ナンは頭巾(フード)の男、彼女にとっては師と仰いでいるらしい男に叫ぶが、男は止まることなく壁を勢いよく駆け上がっていく。
その時、竜使いは侵入してきた天上へと向かっていた。
この場から退却するつもりらしい。
その様子を下から見ていたリタは去っていく竜使いに向かって魔法を放とうとするが、男が竜使いに飛びかかって行くのが見えたため止む無く詠唱を止めた。
「極上の獲物を前に!命が惜しくて逃げ出せるか!」
頭巾(フード)の男は、人間離れした跳躍力で今一度壁を蹴り上げて飛び上がると、竜に掴みかかった。
「ぐ~らああっ!」
しかし、竜が体を一回転させてそれを振り払う。
男は奇声を上げながら、真っ逆さまに落下していく。
その間に、とうとう竜使いの姿は上空へと消えてしまった。
「天井が・・・ここは危険です!」
エステルが叫ぶ。
部屋の中では振動が絶え間なく続き、地上にある池の水が一行がいる地下へと漏れ続けている。
このままでは、この部屋は溢れ落ちる水で沈んでしまう。
「首領(ボス)!撤収を!標的に逃げられた以上、長居は無用です!」
「最近にない魔物だったが・・・、興ざめだな。引き上げるぞ」
首領(ボス)の一声に、『魔狩りの剣(マガリのツルギ)』は一様にその場を去っていった。
「オレたちも退(ひ)くぞ」
「あ~、もう、あたしもあのバカドラ殴りたかったのに!」
ユーリとリタが壁が崩れてできた出口に向かって走り出す。
「待ってください、カロルはどこに!?」
思えば、さっきからカロルの様子が見えない。
魔物との戦いの前までは、確かにここにいたはずだ。
リリーティアは今になってカロルがいないことに気づき、エステルに言われるまで気付かなかったことに自己嫌悪を感じながら、慌てて周りを見渡してみたが彼の気配はなく、どうもここにはいないようであった。
「その辺にいないとこみると先に外へ出てんだろ。探しながら行くぞ」
ユーリもここにはいないと判断し、地下の外へと急いだ。
そうして無事に地下を抜けて、一行は建物の外へと脱出した。