第9話 廃墟
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時折、遭遇する魔物と戦いながらも廃墟の探索を続ける一行。
あれから雨は止んだが、上空は未だに厚い雲に覆われており、いつ降ってもおかしくない天候であった。
「聞きそびれてたんだが・・・」
そう言って、突然足を止めたのはユーリ。
「わたし、ですか・・・?」
ユーリの視線にエステルは首を傾げた。
「どうしてトリム港で帝都に引き返さなかったんだ?」
「どうしてって・・・」
エステルは困惑した表情を浮かべた。
「そっか、エステルはフレンに狙われてるって伝えたかったんだもんね」
「ああ。あの時点で、おまえの旅は終わったはずだろ?」
「それは、その・・・」
なんと答えればいいか適当な言葉が見つからず、エステルは助けを求めるようにリリーティアへと視線を向けた。
「ねえ、そういえば結局、フレンって誰に狙われてたの?」
「ええと、そこまでは・・・」
カロルの問いに事の真相を話してもいいのかも分からず、エステルはまたリリーティアのほうを窺い見る。
リリーティアも困ったような笑みを浮かべた。
その真相を話すことは、いわば<帝国>の裏の事情にも関わってくる。
そう簡単に口にしていいことではないのは確かだ。
「ラゴウじゃないの?」
エステルが言おうか迷っている間に、リタがすかさず答えた。
「え?あの悪党?」
「ヨーデルはラゴウの船にいた。ヨーデルは皇族ってやつだ」
「だから?」
「本当はフレンの任務はヨーデルを探すことだったんじゃねえかなってことさ」
リタもユーリも、すでにその真相について大よその検討はついていたようだ。
「敏い二人にはすべてお見通しか・・・」と、リリーティアは心の内でぼやいた。
「なんで同じ<帝国>のお偉いさん同士がそんなことになってんのかは知らねえけどな」
ユーリはどこか皮肉っぽく言う。
「・・・ごめんなさい。わたしにもよくわかりません」
知らぬふりをするエステルのその表情は心苦しげで、リリーティアは彼女に対して少し心が痛んだ。
次期皇帝の問題。
それは評議会と騎士団の対立から起きているものであり、さらに言えば、騎士団側が従来の慣例を破り、独自に次期皇帝候補を打ち立てたことで起きた問題だ。
それだけ見れば騎士団側に問題があると言えるが、評議会がエステルを皇帝に推しているのも、外の世界情勢に疎い姫にとって代わり、これまでと変わらずに皇帝同等の実権を握っていたいがための己が欲にまみれた目論見でしかない。
つまりは、評議会側が己の欲望のためにエステルを次期皇帝に推しているがために起きた問題ともいえるのだ。
どちらにしろ、エステルやヨーデルは騎士団と評議会の対立争いに巻き込まれているだけなのだ。
ユーリはすぐにリリーティアアへ視線を移した。
あんたならその事情とやらを知っているだろうと、その視線は明らかに言っている。
ユーリのことだ、知らぬふりも通用しないだろう。
それに、おそらく彼のことだから、それもまた大よその見当はついているはずだ。
しかし、だからといって評議会との次期皇帝問題については、たとえ一緒に旅する仲間とはいえ公に言うことはできない。
だから、リリーティアはただ肩を竦めることしかできなかった。
「・・・ま、いいさ。それよりエステルの話だ。戻らなくていいんだな?」
彼女のその態度には呆れた様子のユーリだったが、それ以上深く追求することはしなかった。
「そうですね・・・わたし、トリム港からそのまま勢いでついてきてしまいました・・・。たぶん・・・わたし・・・もう少し、みんなと旅を続けたかったんだと思います・・・だから・・・」
そこで少し考えてから、エステルはユーリに目を向けた。
「・・・それに、魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)、まだ取り戻せていませんし・・・」
「それはそうだけど、それはオレの目的だよな?」
己の目的がはっきりしないままのエステルにユーリにはいろいろと思うことがあるようだ。
確かに彼女のそれは、どこかとってつけたような理由のように思えたが、魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)のことが気になるのは彼女の本心だ。
「・・・駄目でしょうか」
「リリィはいいんだな、それで?」
「ええ」
考える間も置かず、リリーティアは頷いた。
エステルの目的の曖昧さはどうであれ、今は彼女の意思を尊重してここにいる。
だから、彼女の身の安全、何かが起きた場合の責任はすべて自分がとる覚悟である。
「じゃ、ま、ついてくるといいさ」
「ありがとうございます」
再び一行は、『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』の足取りを掴むべく、廃墟の奥へと探索を開始した。