第9話 廃墟
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廃墟と化す街中を歩いていく一行。
廃墟の中の通り道は崩れた瓦礫が散乱していたり、草が生い茂っていて歩きにくかった。
「はあ・・・なんで上手くいかないんだろう・・・。クビ・・・クビって言われた・・・」
その道中、カロルは肩を落とし、ぶつぶつとずっと呟いていた。
「カロル、元気出してください」
「もう元気でないよ・・・。ナンの言葉が胸に痛い・・・」
見かねたエステルが励ますが、その言葉でさえ気休めにもならず、深くため息をつくカロル。
ナンに言われたことがよほど堪えているようで、大きく肩を落としている姿は痛々しくさえ見える。
「危ないから入ってくるなって心配してくれてたんだ。希望の光はあるんじゃねぇの」
「え・・・!」
「それに、どうでもよかったらああやって忠告なんてしてくれない。そんなに悲観にならなくていいと思うよ」
「そ、そうなのかな!?」
ユーリとリリーティアの言葉に、落ち込んでいたカロルのその表情はぱっと嬉しげな表情に変わった。
でも、カロルはすぐにはっとすると、バツが悪そうに頬をかく。
「・・・って、別にボクはナンのことはどうでもよくて」
「問題はギルドの方ってことだろ。そんなのわかってるよ」
「う、うん、そう。ナンのことは全然関係ないから」
そう言って歩き出すカロル。
ああ言ってはいるものの、ナンのことを気にしていることは一目瞭然だ。
誰から見てもただ強がっているようにしか見えない。
「見てらんないわ」
「わたし、カロルを応援します!」
呆れているリタの横で、エステルは強く意気込んでいる。
ともあれ、少しだけ元気を取り戻してくれたカロルに、リリーティアの口元にも微かに笑みが浮かんだ
そうして、さらに奥へ進んでいくと、大勢の人が集まっているにところに出くわした。
ざっと見ても20人以上はいるだろうか。
その多くの者が武器を携えており、物騒な格好をした集団だった。
「・・・『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』・・・?」
エステルが首を傾げて言った。
その身なりから、一瞬傭兵ギルドにも見えなくもないが、これまで見てきた『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』の格好とはやはり違っている。
「あれが『魔狩りの剣(マガりのツルギ)』だよ」
カロルが言った。
リリーティアたちは、草や建物の影に身を潜めながら様子を窺い見ることにした。
「あ・・・あの人、デイドン砦で見かけた人ですよ」
「あ。そういや、見たな。なるほど、あいつがおまえんとこのリーダーか」
ユーリとエステルはすでに『魔狩りの剣(マガりのツルギ)』の首領(ボス)を見たことがあるようだった。
〈平原の主〉によって立ち往生していた時に、騎士団らとひと悶着やっていたらしい。
カロルによると、名前はクリントという。
よく見ると、『魔狩りの剣(マガりのツルギ)の首領(ボス)である大柄の男 クリント は一人で獣型の魔物と対峙していた。
その魔物は一際大きな体躯をしている。
クリントは巨大な剣を掲げると、一太刀でその大きな魔物を葬り去った。
「・・・なによ、あいつ!」
「一撃でやっつけやがったな」
その剣技にリリーティアも内心驚いて見た。
クリントという男がやってのけた剣技は、相手の弱点、そして、相手の隙を的確についた攻撃だった。
相手の動きや生態をあそこまで正確に見極め、一瞬でその者の命を奪うことはかなり至難の業である。
さすが魔物を狩ることを専門としているギルドの首領(ボス)だ。
「それにしてもあいつら、あんな大所帯で何する気なんだ?」
「さっきの魔物が目的ならひとりで十分ですもんね」
エステルの言うとおり、あのクリントという首領(ボス)がいればすぐに片がつく話だ。
そうでなくても、おそらく部下の者たちでも、数人いれば対処できる魔物である。
あんな大勢で行動するのには明らかに何か他の理由がありそうだ。
「こんなに人数が集まるの、今までに一度もなかったよ」
「そうなんです?」
「うん、みんな、群れたがらないから。首領(ボス)たちが居るなんて相当のことなんじゃ・・・」
「ますます、うさんくさい」
ユーリは訝しんだ目で『魔狩りの剣(マガりのツルギ)』たちを見る。
「後・・・つけてみる?」
「いや、それも楽しそうだけど、ここは先に行く」
「ユーリが探してるのは『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』の方ですもんね」
「ああ、あいつらと事を構えるのは必要ないんでな」
彼らが普段は取らない行動をしている理由は少し気になるところだが、
リリーティアも出来るだけ『魔狩りの剣(マガりのツルギ)』とは関わり合うことはしたくないと思った。
余計な面倒事は避けたい。
「あんた、本当は戻りたいんでしょ」
「そ、そんなの」
カロルは図星を突かれたのか、うっと言葉を詰まらせる。
「え・・・?カロル、戻ってしまうんです?」
「戻んないよ・・・!魔物狩りには飽きたからね」
「戻らないんじゃなくて、戻れなんでしょ?クビって言われてたし」
「ち、違うよ。元々、出て行くつもりだったんだから」
リタの容赦ない指摘に、カロルはどこか意地になっているようだ。
「ふーん、そう。ま、いいんじゃない?」
「だから、みんなと行くよ」
「じゃあ、あらためてよろしくお願いします、カロル」
そして、ユーリたちは『魔狩りの剣(マガりのツルギ)』に気づかれないように、そっとその場を歩き出す。
カロルは『魔狩りの剣(マガりのツルギ)』のほうを気にしながらも、ユーリたちの後を追った。
口ではああ言ながらも、やはり未練はあるのだろう。
その様子にリリーティアは心配げにカロルの背を見詰めると、もう一度、『魔狩りの剣(マガりのツルギ)』たちの方へと視線を向けた。
どこへ向かっているのか分からないが、彼らもその場から移動を始めていた。
対峙しないことを願いながら、リリーティアもユーリたちの後を追いかけた。