第8話 小悪漢
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ユーリを探して町の中を歩いていく一行。
宿を出てからしばらくして、人ごみの中にユーリの姿を発見した。
「あ!ユーリ!おーい!!」
カロルは大きく手を振った。
ユーリは一人ではなく、誰かと話をしているようだ。
よく見ると、それはレイヴンだった。
「あんの、オヤジ・・・!!」
レイヴンの姿を見た途端、リタは激しい剣幕を見せた。
その怒り様にリリーティアは苦笑を浮かべながら、ユーリと話すレイヴンを見ていた。
彼は彼女らの存在に気づくと、何やらユーリと短く言葉を交わしたのちに、町の中へ駆け出していった。
「待て、こら!ぶっ飛ばす!」
リタは暴言を吐きながら逃げるレイヴンをだっと追いかけた。
カロルとエステル、そして、ラピードも急いでリタの後を追いかけたが、リリーティアはただひとり、その場に佇んだまま彼らの様子を見守っていた。
「リリィちゃん、またね~!」
一旦逃げる足を止めて、大きく手を降ってくるレイヴン。
その大きな声に周りを行き交う町の人たちの何人かが驚いて彼のほうを見ている。
「・・・あはは」
手を振っている場合ではないのではと呆れた笑いをこぼしながら、リリーティアはレイヴンに小さく手を振り返した。
リリーティアの心配をよそに彼は余裕な様子で、再び町の中を駆け出して行った。
リタはユーリの横を抜けて、さらに町の奥へと駆けて行ったが、カロルはユーリの前でその足を止めた。
膝に手をついてとても息苦しそうにしながら、怒った顔でユーリに何か言っている。
その様子からして彼がレイヴンを見逃したことを怒っているのだろう。
もう一度、レイヴンのほうを見ると、すでに人ごみの中に紛れて、その姿を見つけ出すことはできなかった。
リタも見失ってしまったようで、足を止めて、人ごみの中を何度も見渡している。
レイヴンが逃げ切れたことを確認すると、リリーティアもユーリのもとへと歩き出した。
「ちょっと、なにのんきに歩いてるのよ」
「リリーティアの知り合いかなんだかよくわかんないけど、あんな怪しい人、騎士団がほっといていいの?」
遅れて合流したリリーティアに、リタとカロルが非難の目を向ける。
特にリタはかなり彼に対しては根に持っているようにで、未だにその目には怒りが見て取れた。
けれど、リリーティアは困ったように笑うと、何も言葉を返すことなくただ肩をすくめてみせるだけだった。
「ほっとけ。あんなおっさん、まともに相手してたら疲れるだけだぞ」
カロルとリタとは違い、ユーリは彼のことにそれほど執着していないようだ。
リリーティアがふと横を見ると、エステルが未だに息を切らして苦しそうだった。
さっき全速力で走ったのが、だいぶ堪えたのだろう。
苦笑を浮かべてリリーティアはエステルの顔を覗き込んだ。
「大丈夫、エステル?」
「・・・・・・少し、休憩させて、ください」
肩で大きく息をしながら、途切れ途切れに答えたエステル。
「ああ、じゃ少しだけな、そしたら行くぞ」
「行くって、どこに行くの?」
「『紅の傭兵団(ブラッドアライアンス)』の後を追う。下町の魔核(コア)、返してもらわねえと」
ユーリのその口ぶりから、すでに次の行き先を決めているようだ。
「足取り、つかめたんです?」
「北西の方に怪しいギルドの一団が向かったんだと。やつらかもしんねえ」
どこからの情報かは言わなかったが、さっき一緒にいたことから、おそらくレイヴンから聞いた話だろう。
「北西っていうと・・・地震で滅んだ街くらいしかなかった気がするけどなあ」
「・・・・・・・・・」
リリーティアは険しい表情でカロルたちの話を聞いていた。
カロルの言う通り、ここから北西といえば崩壊した街しか当てはまるところはない。
かつては、古き都市 カルボクラム と呼ばれ、名前の通り、古代に流通した後期エリカズム様式で構築された建物がつらなる、とても大きな街だった。
へリオードのように、ギルドの街がある大陸では珍しく<帝国>の管理下にあった街である。
「そんなところに何しに行ったんでしょう」
エステルは首を傾げた。
そのカルボクラムは、かつて〈満月の子〉に関しての実験を行った場所でもある。
今となっては地震で滅びた街とされ 亡き都市 カルボクラム と呼ばれている。
「さあな」
「そんな曖昧なのでいいわけ?」
それ以上の情報がないユーリは肩をすくめた。
そんな適当なユーリにリタは呆れた表情を浮かべる。
「だから、行って確かめんだろ」
情報が少ないなら、とりあえず行って調べるしか手はない。
今後の行き先も決まり、まずはこの港町でこの先の旅に必要なものを調達した。
旅の準備が整った時には、今から向かうには遅すぎる時間帯で、今から町を出てもすぐに野宿することになるだろう。
一行は話し合った結果、さっきまでいた騎士団が手配していた宿ではなく、それとはまた別の宿で休むことにして、
明日の朝早くカルボクラムへ向けて、トリムを発つことにした。
第8話 小悪漢 -終-