第8話 小悪漢
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「リリィ!」
「!?」
ユーリの声に振り向くと、いつのまに追いついたのか、その頭上にはザギがいた。
二刀の剣を振りかざし、相変わらず口元に大きな弧を描いてリリーティアを見下ろしている。
「あがけ!もがけ!ひゃはは!」
振り下ろされた二刀の剣を、リリーティアは二つの《レウィスアルマ》で受け止めた。
すぐにザギは片ほうの剣を薙ぎ払うように斬り込む。
リリーティアはそれも受け止めたとが、刹那、もう一方の剣が下から上へと斬り込もうとしていた。
さっと上体を引いて寸前のところでそれをかわしたが、顔まであと数センチといったところで、それは半ば反射的にとった動きだった。
しかし、無事に攻撃を避けたと思った瞬間、背後に気配を感じた。
はっとした時には、さっきまで目の前にいたザギがいなかった。
「(っはやい・・・!)」
リリーティアは急いで後ろに振り向いたが、その直後、腹部に足を蹴り込まれた。
瞬間、息が詰まる。
「っっ!!」
「リリィ!」「「「リリーティア!」」」」
その衝撃は強く、後ろへと大きく吹き飛ばされると、何度か床板に打ちつけられながらリリーティアの身体は転がり伏した。
「はははっ!!どうしたぁ、もう終わりか~!」
体を仰け反りながら、ザギは高らかに声を上げた。
暗殺者の気はさらに高ぶっている。
「ごほっ、ごほっ!っ・・・こほっ・・・っく、うぅ・・・」
「リリーティア!しっかり!」
リリーティアは苦しげな表情を浮かべながら、手をついてゆっくりと上体を起こした。
そこへ、すぐにエステルが駆け寄った。
エステルは治癒術を使おうとして手をかざすが、リリーティアの手がそれを止める。
「リリーティア?」
「ぅ・・・だ、大丈夫。・・・蹴りを入れられただけだ、から。・・・大した怪我はない」
「で、でも・・・」
心配するエステルに何とか笑みを浮かべ、リリーティアは腹部を抑えながらゆっくりと立ち上がる。
「(・・・・これは・・・、まともに入ったな)」
立ち上がるとさらに腹部に痛みが走り、思っていた以上にダメージを受けたことを知った。
顔を上げて前を見ると、再びユーリとザギが交戦しているところだった。
時に隙をついてリタが魔術を放ち、カロルも攻撃をしかけてみるが、決定的な攻撃にはつながらないようだ。
しかし、よく見ると相手も少しずつ傷の数が増え、その動きも初めよりは少し鈍くなってきている。
「さっさとくたばりやがれ!斬!成敗! 」
その時、ユーリは剣技である虎牙破斬をザギに放った。
「ぐぅあああっ・・・!!い、痛ぇ・・・」
ユーリの剣技をまともに受け、ザギは深く斬りつけられた。
その痛さにザギはその場にふらつき、今にも倒れそうになる。
「勝負あったな」
ユーリはザギに剣を突きつける。
何を思ったのか、ザギはおぼつかない足取りで、そのまま燃え上がる炎の中へと飛び込んでしまった。
「・・・オ、オレが退いた・・・・・・。・・・・・・ふ、ふふふ、アハハハハっ!! 」
ザギは狂ったように高らかに笑った。
炎の熱さも肌に感じていないかのように、ただ笑い続けている。
「貴様、強いな!強い、強い!覚えたぞ覚えたぞユーリ、ユーリ、っ!!」
ユーリを見るザギの目は瞳孔が開き、明らかに狂気と化している。
それは、とても危険な状態に見えた。
ザギのその姿には体中に悪寒が走り、思わずリリーティアは表情を歪ませた
「おまえを殺すぞユーリ!!切り刻んでやる、幾重にも!動くな、じっとしてろよ・・・!アハハハハハハ」
高らかに狂い笑うザギの周りで次々と爆発が起こり、その爆発と共にザギは海へと落ちていった。
一瞬、何が起きたのか分からなかったが、どうにか危険を退けられたようである。
しかし、気づくと周りはすでに炎に包まれ、何度も爆発音が響く中、船は激しく揺れて危機的な状況には変わりなかった。
「え?なに?沈むの・・・!?」
「海へ逃げろ・・・!」
カロルは慌てふためくと、ユーリは大きな声で叫んだ。
ユーリが叫ぶのと同時に、なぜかリリーティアはその場を駆け出した。
しかも、船の外ではなく、すでに火が回り始めている船室の方へと向かっている。
「ちょっと、リリーティア!?」
カロルの声を背に、リリーティアは一瞬の躊躇もなく船室に向かって走る。
ザギから受けた腹部の痛みを感じていたが、それも構わずに船室の扉を開け放ち、室内へと飛び込んだ。
中は煙が充満していて視界が悪く、周りの炎でとても熱い。
「っ・・・う・・・殿下!・・・ヨーデル殿下、ここにおられるのですか!」
リリーティアは叫んだ。
それは、ラゴウに誘拐されたとされる次期皇帝候補ヨーデル・アルギロス・ヒュラッセインの名だった。
あの時、ラゴウの言動で船室の中に誰かがいることが分かった彼女は、それはヨーデルのことだとふんで、ザギと戦っている間も、船室にいるヨーデルを助けようとずっと図っていたのである。
「・・・げほっ、げほっ・・・。誰か・・・そこ、に・・・・・ごほっ・・・」
「殿下!」
たちこめる煙の中から微かに声が聞こえた。
それは煙を吸い込んでいるせいか、とても苦しげだった。
煙を吸い込まように態勢を低くして、リリーティアはその声をたよりに進んでいく。
少し進むと煙の中から微かに影が見えた。
「ヨーデル殿下!」
「ごほっ、ごほっ!」
近づくと、身体を屈ませて苦しく咳込んでいるヨーデルがいた。
見たところだいぶ煙を吸い込んでしまっているようだ。
リリーティアは急いで彼の身体を支え、そこから脱出しようと歩き出した。
しかし、煙を吸い込んだ上、辺りに漂う熱さによって、彼の意識はすでに朦朧としている。
その足取りはとてもおぼつかず、視界も悪い中では人ひとりを支えていくのは困難であった。
だが、今すぐにでもここを脱出しなければ、船と一緒に海へと沈み、二人とも命を落とすことになる。
彼女はヨーデルを半ば抱え込むような形で、腹部の痛みも忘れたまま、船室の外へと必死になって進んだ。
「リリィ!!」
たちこめる煙の中、ユーリの声が聞こえた。
「ユーリ、こっち!!」
声を頼りに、すぐにユーリはリリーティアたちの元へ駆け寄った。
「おい!一体どうし・・・って・・・」
「ユーリ、手伝って!」
リリーティアが抱え込んでいる見知らぬ少年を見たユーリは驚きに目を瞠る。
色々と聞きたいことはあったが、今は一刻も早くこの船から脱出しなければならないと、ユーリはリリーティアの反対側からをヨーデルを支えた。
そして、三人はどうにか船室の外へと脱出した。
周りは未だに爆発を繰り返しており、広い範囲に炎が燃え盛っている。
この時から徐々に船が傾き始め、そのせいで船に積まれてあった荷物もすべり転がっていく。
船が完全に沈没するのも、すぐそこまで迫ってきていた。
それを悟ったユーリは、すでに意識がないヨーデルを一人で抱きかかえた。
「飛ぶぞ!」
リリーティアとユーリは燃え盛る炎の中、傾いた床を半ば滑るように駆ける。
そして、一斉に海の中へと飛び込んだ。
同時に船に積まれてあった荷物も、雨のように次々と海の中へと落下していく。
無数に荷物が落ちてくる海の中、リリーティアは慌てた様子で辺りを見渡した。
「(っ・・・どこ?!・・・・・・いったい、どこに?!)」
飛び込んだ後、降り注ぐ荷物で視界を何度か遮られたことにより、彼女はユーリとヨーデルを見失ったのだ。
しばらくして、数メートル下の方に二人の姿を発見した。
完全に気を失った人ひとりを抱えこんでいるため、だいぶ深く沈んでしまっていたようだった。
「(ユーリ!ヨーデル殿下!)」
急いでそこまで潜ると、リリーティアもヨーデルを抱え、ユーリと共に海上を目指して泳いだ。
船が完全に沈みこんでからしばらくして、リリーティアたちは命からがら海上へと浮上した。
「リリーティア、ユーリ・・・!よかった・・・!」
二人が浮上した瞬間、二人が無事だったことに声を上げて喜ぶエステルの声が響いた。
海上には、エステル、カロル、リタがいて、皆が無事に船から脱出できたようである。
「ひー、しょっぺーな。だいぶ飲んじまった。リリィ、大丈夫か?」
「はぁ・・・・・・ええ、なんとか」
リリーティアアもだいぶ海水を飲み込んでいたが、小さく笑みを浮かべてユーリに頷いた。
「その子、いったい誰なの?」
リリーティアとユーリが抱えているヨーデルを見てリタが問う。
見知らぬ少年、しかも、突然現れた人物にリタは訝しげな表情を浮かべいた。
「ヨーデル!」
「なに、あんたの知り合い?」
それが、従弟にあたるヨーデルだと気付いたエステルはとても驚いていた。
そんな時、カロルがはっとして何かに気づく。
「助かった、船だよ!おぉい!おぉい!!」
カロルが大きく手を振っているその先には、大きな船が見えた。
その船は一行へ近づいてきて、よく見ると甲板にはフレンがいる。
それは、騎士団が有する船であった。
「どうやら、平気みたいだな」
一行が無事なことにフレンはほっと安堵していた。
「フレン!この方を、早く船へ!」
「!・・・ヨーデル様!今、引き上げます!ソディア、手伝ってくれ!」
リリーティアの声に見ると、そこにヨーデルがいることにフレンはひどく驚いていた。
彼は部下と共に、急いで引き上げる準備に取り掛かった。