第8話 小悪漢
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ラゴウを追いかけ屋敷近くの船着き場につくと、一隻の船がすでに出航し始めていた。
それでも、一行は諦めずにその船を追いかける。
「あたしはこんなところで何やってんのよ」
リタがぼやきながらも、ラゴウを逃がすまいと必死で走る。
「行くぞ・・・!!」
「ちょっ待って待って待って!心の準備が~~~~!!」
取り乱すカロルを抱え、ユーリは船に飛び込んだ。
リタも迷いなく船に飛び込む。
「と、飛び込めるでしょうか?」
次々に飛び込むユーリたちを見ながらエステルは不安げな表情を浮かべた。
「大丈夫」
そう言ってリリーティアも船に飛び込むと、すぐに体を乗り出してエステルへ手を差し伸べた。
「エステル!」
エステルは一瞬躊躇したが、意を決して地面を強く蹴った。
リリーティアの差し出した手に向かって、エステルは自分の手を思いっきり伸ばす。
そして、互いにその手を力強く握った。
リリーティアがエステルを強く引き上げて、どうにか無事に船の甲板に乗り込むことに成功した。
船に乗り込んだ一行は、甲板の辺りを見渡しているとすぐにあるものが目に入った。
「これ、魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)じゃない!」
リタは驚いて、魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)を手に取った。
「なんでこんなにたくさん魔核(コア)だけ?」
「知らないわよ。研究所にだって、こんなに数揃わないってのに!」
それは山のように積まれてあり、すごい数の魔核(コア)があった。
発掘でしか手に入らない魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)はとても貴重で、そう簡単に発掘されることもない。
それが、これだけ山のように積んであるのは異常な光景だった。
「まさか、これって、魔核(コア)ドロボウと関係が?」
「かもな」
「けど、黒幕は隻眼の大男でしょ?ラゴウとは一致しないよ」
「だとすると、他にも黒幕がいるってことだな。ここに下町の魔核(コア)混ざってねえか?」
「残念だけど、それほど大型の魔核(コア)はないわ」
ユーリたちが話しているのを後ろから聞いていたリリーティアは、集まってくる人の足音に気付き、《レウィスアルマ》を手に取った。
「みんな気をつけて」
すると、数人の傭兵たちが現れ、一行を取り囲んだ。
ユーリたちもそれぞれに武器を手に取り、身を構える。
「こいつら、やっぱり五大ギルドのひとつ、『紅の傭兵団(ブラッドアライアンス)』だ!」
カロルが声を上げて言うと、傭兵たちは一斉に襲いかかってきた。
一行は襲ってくる傭兵たちを次々と蹴散らし、難なくすべての傭兵たちを倒した。
そして、ラゴウがそこにいるとふんで、ユーリとカロルがゆっくりと船室の入り口に近づいていく。
「どきやがれぇっ!」
「うわっ!」
怒号と共に急に扉が開き、カロルはそのまま後ろへと転がるようにして倒れ込んだ。
ユーリは素早い身のこなしでさっと横へと避ける。
「はんっ、ラゴウの腰抜けは、こんなガキから逃げてんのか」
そこに現れたのは、右目に傷のある体格の大きい隻眼の男だった。
右手には人ひとりほどに近い巨大な剣を持っている。
その左手は、その手をはめ込んでいるのか、もともとその手が失われているのか分からないが、左手の部分は球体に棘が生えたような黄金に輝く金属体になっていた。
「(・・・バルボス)」
リリーティアはじっと隻眼の男を見据えた。
この男こそ、『紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)』の首領(ボス) バルボス だった。
ラゴウと結託し、強力な魔導器(ブラスティア)を作り出し、ギルドユニオンのドン・ホワイトホースに取って代わろうと企む男。
「隻眼の大男・・・あんたか。人使って魔核(コア)盗ませてるのは」
「そうかも知れねえなあ・・・・・・」
隻眼の大男バルボス はユーリに斬りかかる。
ユーリは軽々とそれをかわし、距離をとった。
「いい動きだ。その肝っ玉もいい。ワシの腕も疼くねえ・・・うちのギルドにも欲しいところだ」
「そりゃ光栄だね」
ユーリは不敵な笑みを浮かべて返した。
「だが、野心の強い目はいけねえ。ギルドの調和を崩しやがる。惜しいな・・・」
「バルボス、さっさとこいつらを始末しなさい!」
すると、船室の奥からラゴウが現れた。
「金の分は働いた。それに、すぐに騎士がくる。追いつかれては面倒だ」
バルボスはラゴウにそう答えると、武器を肩に乗せた。
「小僧ども、次に会えば容赦はせん」
そう言うと、バルボスは船の横に積まれた小舟にさっと乗り込んだ。
「待て、まだ中に、ちっ・・・!ザギ・・・!後は任せますよ!」
不満な顔を浮かべながらラゴウも小舟に乗り込み、そこから逃げていく。
「(中に?・・・ということは、まさか・・!)」
リリーティアが船室へ向かおうと足を一歩踏み込んだその時、船室の奥から派手な髪色の男が現れた。
「誰を殺らせて、くれるんだ・・・?」
それは、前方の髪は黄色と黒で、後ろ髪が赤であった。
その男の両の手には剣が握られている。
「あなたはお城で!!」
「どうも縁があるみたいだな」
「(この男が、ユーリたちが言っていた暗殺者・・・)」
リリーティアは武器を構え直した。
暗殺者の男、ザギと呼ばれたその男の目を見た瞬間、彼女はこの男は危険だと直感した。
腕の立つ強さだから危険だというよりも、男の存在自体そのものが危険だと感じたのである。
「刃がうずくぅ・・・殺らせろ・・・・・・殺らせろぉっ!」
ザギは叫ぶ。
この男の醸し出す雰囲気は異様だと、リリーティアはひしひしと肌に感じていた。
その時、船の船尾が爆発した。
船が激しく揺れ、リリーティアはとっさに床に手をついて体を支えた。
バルボスたちが逃げる際に船に火を放ったようだ。
爆発を起こす船上でザギはユーリに襲い掛かった。
「うぉっと・・・お手柔らかに頼むぜ」
ユーリはそれを避け、剣を構える。
ザギはにっと不敵な笑みを浮かべると、剣を一振りし、ユーリに突撃してきた。
「さぁ、殺れるもんなら殺ってみろ!」
「言われなくてもそのつもりだっての」
ユーリはザギの攻撃を剣で受け止める。
反撃するもザギは簡単に剣で受け流し、すかさず攻撃を繰り出す。
ユーリは何度かそれを受け止めると、後ろへ飛び、一度相手の距離を図った。
「その調子だ!あがけ!もがけ!そして、死んでいけ!」
「何、こいつ、うざっ」
戦いの最中、ずっと口元を大きく弧に描き、目は大きく見開いている暗殺者の男。
男は明らかに戦いそのものを楽しんでいる。
ザギのその様子に、リタの表情は嫌悪感に溢れ、魔術を詠唱し始めた。
「ストーンブラスト!」
リタの魔術を床を後ろに蹴って避けるザギ。
その身のこなしは機敏で、暗殺者としてはかなりの腕の立つものだと見て取れた。
ザギはまたすぐにユーリへと攻撃を仕掛ける。
その間も船は轟々と激しい音を立てて燃え盛り、よく見ると、船室にも火が燃え移ったようで煙が立ち込めていた。
「(大変、もしあの中に・・・・・・!)」
それを見たリリーティアは、ザギのほうへ視線を向けた。
「はははは・・・おまえらの攻撃など効かねぇ・・・!」
暗殺者はユーリたちのほうに集中しており、少し離れた位置に立っているリリーティアには目もくれていない。
それを確認したかみたか、リリーティアは船室へ向かって走り出した。
辺りには煙と焦げた臭いがたちこめている。
そして、リリーティアが船室へと続く階段に足をかけた、その時だった。