第8話 小悪漢
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しばらくすると、ひときわ大きな広間に出た。
その大広間の出入り口付近でポリーには待ってもらい、そばにラピードがついた。
中へ進むと、その中央の上の方には巨大な魔導器(ブラスティア)が鎮座している。
「この魔導器(ブラスティア)が例のブツ?」
カロルは巨大な魔導器(ブラスティア)を見上げた。
リタはすぐさま左側にある階段を駆け上り、その魔導器(ブラスティア)を調べ始める。
リリーティアも足早にリタの後に続いて、階段を上った。
「ストリムにレイトス。ロクラーにフレック・・・。複数の魔導器(ブラスティア)をツギハギにして組み合わせてる・・・。この術式なら大気に干渉して天候を操れるけど・・・こんな無茶な使い方をして・・・!」
リタはブツブツと呟きながら、素早く盤を操作する。
調べれば調べるほど、リタの表情は険しいものになっていった。
「(あれからさらに改良しているのか)」
その横でリリーティアは表示されている巨大な魔導器(ブラスティア)の性能内容をじっと見ていた。
ラゴウとバルボスの研究成果はそれなりに把握しているが、この巨大な魔導器(ブラスティア)は以前確認した時とだいぶ違っていた。
短期間でさらに研究の成果をあげたらしい。
「エフミドの丘といいあたしより進んでいるくせに、魔導器(ブラスティア)に愛情もカケラもない!」
リタは怒りを露わにして、声を荒げた。
その言葉に心が痛んだが、リリーティアはその痛みを振り払うと、リタが調べている魔導器(ブラスティア)の性能内容に集中した。
すべての意識をそこに向けて、その性能内容のすべてを頭の中に記憶していく。
「これで証拠は確認できましたね。リタ、調べるのは後にして・・・」
「・・・もうちょっと、もうちょっと調べさせて・・・」
「あとでフレンにその魔導器(ブラスティア)まわしてもらえばいいだろ?さっさと有事を始めようぜ」
リタはそれでも魔導器(ブラスティア)を調べ続けた。
下にいるユーリたちは散開して、それぞれあたりを見回し、どう有事を起こすかを考え始めた。
「・・・・何か壊してもいいものは」
エステルは周りを見渡すもなかなか思うものが見当たらない。
「よし。なんか知らんが、うちも手伝うのじゃ」
「おまえはおとなしくしてろって」
「あう?」
銃を抜いたパティをユーリは襟元を掴んで止めた。
一方カロルは、武器で柱を叩きはじめ、部屋中にダンダンと大きな音が響き渡る。
「あ~っ!!もう!!」
「リ、リタ・・・!?」
魔導器(ブラスティア)が酷い使い方をされているその実態と周りの騒がしさに集中が途切れ、苛立ちを抑えきれなくなったリタは突然にも魔術を乱射し始める。
すぐ横にいたリリーティアは、驚いてとっさに身を引いた。
「うわぁっ!いきなり何すんだよっ!」
もう少しでリタの魔術に当たりそうだったカロルは声を上げて怒る。
さすがにそこまではやり過ぎなように思い、リリーティアは冷や汗をかきながらリタを見ていた。
「こんくらいしてやんないと、騎士団が来にくいでしょっ!」
「でも、これはちょっと・・・」
「なに、悪人にお灸を据えるにはちょうどいくらいなのじゃ」
エステルもやり過ぎなのではと、リタの行動に戸惑っているようだが、何故かパティだけは大きく納得している。
「人の屋敷でなんたる暴挙です!!」
その声に、リリーティアは魔導器(ブラスティア)がある場所から体を乗り出して階下を見た。
見ると、この部屋の扉の前に傭兵たちを引き連れたラゴウが立っていた。
「まさか、こいつらって、紅の傭兵団(ブラッドアライアンス)?」
ラゴウが連れてきた男たちの姿を見て、カロルは傭兵たちの正体に気づき始めたようだ。
「おまえたち、報酬に見合った働きをしてもらいますよ。あの者たちを捕らえなさい。ただし、くれぐれもあの女を殺してはなりません!」」
ラゴウはエステルを指さしながら命じると、傭兵たちはユーリたちへ向かって刃を振るい襲い掛かってきた。
やむ無く、ユーリたちは傭兵たちと交戦する。
リリーティアはその場から魔術を放ち、下にいる傭兵たちへ攻撃を仕掛けた。
何度目かの魔術を放とうしたその時、ふと目に止まったある光景にリリーティアは詠唱を中断した。
「さっさとその女を捕らえなさい!」
叫ぶラゴウ。
3人の傭兵たちがエステルを狙っていたのである。
「痛い目に遭いたくなかったら、おとなしくこっちに来い」
「・・・・・・・・・」
エステルは剣と盾を構えて、その3人の傭兵たちに対峙している。
その時、リリーティアはそれなりの高低差がある高さから、何の迷いもなく颯爽と飛び降りた。
「そっちがその気なら-----がぁっ!!」
「 ! ?」
リリーティアはひとりの傭兵の頭上へ向かって飛び降りて、その勢いで《レウィスアルマ》を振り落とし一人を気絶させた。
そして、着地してすぐに相手の顔目掛けて足を振り上げて、もう一人を気絶させると、最後の一人はエアルで刃を構築せずに、《レウィスアルマ》で急所のひとつである鳩尾に向かって力の限り叩き込んだ。
「リリーティア、ありがとうございます」
あまりにも一瞬のことではじめは誰だか分からなかったが、リリーティアだと知ったエステルはほっとした笑みを浮かべた。
リリーティアは頷いて応えると、すぐさま残りの傭兵たちへと向かった。
そうして、一行はあっという間にすべての傭兵たちを蹴散らしたのだった。
「それ、もういっちょ!!」
傭兵たちが片付いた後も、リタはまだ魔術を放っている。
「十分だ、退くぞ!!」
「何言ってんの、まだ暴れ足りないわよ!」
ユーリの言葉も聞き入れず、リタは魔術を放ち続ける。
「早く逃げねぇとフレンとご対面だ。そういう間抜けは勘弁だぜ」
「まさか、こんな早く来れるわけ・・・」
そう言って、扉に向かって放たれた魔術。
そのすぐ下に、フレンたちの姿があった。
「執政官、何事かは存じませんか、事態の対処に協力致します」
フレンは剣を手に取ると、ソディアとウィチルも武器を手に構える。
「ほらみろ」
「・・・ははは」
ユーリがやれやれという表情でため息をつく傍で、リリーティアも苦笑を浮かべてフレンたちを見た。
「ちっ、仕事熱心な騎士ですね・・・」
ラゴウが苦い表情でぼやいた、その時。
----------ガシャンッ!!
天井近くの壁にある窓が激しく割れる音が響いた。
皆が一斉に頭上を見上げる。
「うわぁ・・・!!あ、あれって、竜使い!?」
窓を破って入ってきたのは、竜に乗った人間だった。
あの時と同じようにその手には槍を携えている。
その姿は鎧に覆われていて男か女のかも分からない。
「っ・・・!?」
リリーティアは無意識に右肩を掴んだ。
それは食い込むぐらいに、力強く掴んでいる。
あの頃の比べて、少し大きくなったように思える竜。
あの時は黒い影でしか見ることができなかったが、今、その姿をはっきりとその目に捉えた。
竜のその姿は魔物そのものだ。
リリーティアはそれに乗る人間よりも、その竜から目が離せなかった。
一歩も動くことが出来ず、ただただ彼女は竜を凝視していた。
罪と、恐怖を感じながら。
竜使いは一直線に魔導器(ブラスティア)へと向かう。
ウィチルが魔術を放つが軽々と避け、避けた瞬間の隙を狙ってフレンとソディアが剣で応戦するがそれもすぐに避けられてしまった。
竜使いは彼らの攻撃をすべて避け、再び魔導器(ブラスティア)へと狙いを定めると槍を手になぎ払う。
途端、魔導器(ブラスティア)は激しく音を立てて砕けると、爆発音と共に火花が散って、煙が立ちこめた。
「ちょっと!!何してくれてんのよ!魔導器(ブラスティア)を壊すなんて!」
リタは竜使いに向かって魔術を放つがそれさえ掠りもしなかった。
「本当に、人が魔物に乗ってる・・・」
エステルが呟く。
確かに人が魔物に乗っていることも驚きだ。
しかし、リリーティアにとっては、魔物が結界をものともせずに、そこにいることが何よりも驚くべきことで、恐ろしい事実だった。
「待て、こら!」
リタはもう一度魔術を放つが、竜使いは難なくそれをかわしていく。
一度、入ってきた窓の前にとどまると、竜が口を開いた。
その時、リリーティアははっとして叫ぶ。
「伏せて!」
その声と同時に、竜が炎を吐き出した。
傍にいたエステルの肩を抱き、リリーティアは覆いかぶさるようにして彼女を庇いながら地に伏せた。
その声にユーリたちもとっさに体を伏せる。
炎はリリーティアたちの頭上を飛び越え、フレンたちの前に轟音を響かせながら当たった。
そうして、竜使いは窓の外へ出て行ったのだった。
「くっ、これでは!」
まるで騎士団の追跡を阻むようにそて燃え盛る炎。
炎に立ち阻まれ、フレンたちは先に進むことができなくなってしまった。
「船の用意を!」
騎士団の身動きが取れなくなったのを見たラゴウは、好機とばかりにその場から逃げ出した。
「ちっ、逃がすかっ!!」
ユーリはすかさず、それを追いかける。
リリーティアは床に片膝を立てたまま、竜使いが去っていった窓を見上げていた。
ただじっと窓の外を凝視する。
その時も彼女は右肩を抑えていたのだが、それは本人にとっても知らぬうちに取っている行為であった。
魔物そのものの姿をした竜。
結界をものともしない竜。
ヘルメス式魔導器(ブラスティア)の存在を察知する能力。
「(やはり、あの竜は・・・あれと同じなのか?・・・・・・始祖の(エンテレ)-------)」
「リリーティア、私たちも早く行きましょう!」
リリーティアは物思いに耽っていたのから我に返った。
見ると、エステルがこちらを見ていて、さらにその先を見ると、カロルとリタがラゴウを追いかけて大広間を出ようとしているところであった
「・・・ええ」
リリーティアは頷くと、急いでその場を立ち上がる。
そして、二人もラゴウを追いかけて駆け出した。