第8話 小悪漢
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屋敷の中は何室も部屋があるようで、まるで迷路のようだった。
数年前、執政官のラゴウではなく、前執政官のウォガルが住んでいた頃にこの屋敷に忍び込んだことがあるリリーティアだが、その当時の屋敷とは、まったくといっていいほど別な造りとなっていた。
建っている場所は同じだが、屋敷事態はほとんど当時の面影がなく、新たに建て直したようである。
「侵入者ァアアアァィ!」
「うおっと!」
さらに奥の部屋に入ると、突然、ひとりの傭兵が襲い掛かってきた。
しかし、先頭を歩いていたユーリがこれをあっさりと撃退した。
「こんな危険な連中がいる屋敷をよくひとりでウロウロしてたな」
剣を鞘に仕舞いながらユーリはパティに言った。
「危険を冒してでも、手に入れる価値のあるお宝なのじゃ」
「それってどんなお宝?」
カロルが興味深げに聞いた。
「アイフリードの隠したお宝なのじゃ」
「ア、アイフリードッ・・・!」
カロルはぎょっとして、大きな声を上げて驚いた。
「っ・・・・・」
リリーティアも大きく目を見開き、パティをじっと見た。
同時に、遠い過去を思い出す。
そこに思い浮かぶのはアイフリードではなく----------その参謀の姿。
「アイフリードってあの、大海賊の?」
「有名人なのか?」
エステルも少なからず驚いているようで、手を口に当てて目を瞠っている。
ユーリだけはその存在を知らないようで、疑問符を浮かべ驚くカロルたちを見た。
「し、知らないの?海を荒らしまわった大悪党だよ」
「アイフリード・・・海精の牙(セイレーンのキバ)という名の海賊ギルドを率いた首領(ボス)。移民船を襲い、数百人という民間人を殺害した海賊として騎士団に追われている、です」
エステルの説明に、リリーティアは僅かに眉をひそめた。
「ブラックホープ号事件って呼ばれてるんだけど、もうひどかったんだって」
エステルが読んだ本に記されていることも、世界に出回っているその情報も、すべてが嘘だということを知っているリリーティア。
何より自分が深く関わっているその事件に、なんとも言えない重い感情が溢れた。
彼女は視線を下に落として、じっと足元を見詰めた。
「・・・・・・リリーティア?」
その声にはっとして見ると、エステルが不思議な顔でこちらを見ていた。
少し考え事をしていただけだと、リリーティアは笑って答えると、
エステルはそれ以上気にした様子もなく、話をしているユーリたちへとすぐに視線を戻した。
「でも、あんたそんなもん手に入れて、どうすんのよ」
「どうする・・・?決まってるのじゃ、大海賊の宝を手に入れて、冒険家として名を上げるのじゃ」
リタの疑問に、パティは張り切って答えた。
「危ない目に遭っても、か?」
「それが冒険家という生き方なのじゃ」
「ふっ・・・面白いじゃねぇか」
「面白いか?どうじゃ、うちと一緒にやらんか」
「性には合いそうだけど、遠慮しとくわ。そんなに暇じゃないんでな」
パティの生き方には少し共感したようではあるが、彼女の誘いにユーリは考える間もなくあっさりと断った。
「ユーリは冷たいのじゃ。サメの肌より冷たいのじゃ」
「サメの肌・・・?」
パティの喩え的な言い方がよく分からず、カロルは隣にいたリリーティアを見る。
何となく分かるようでわからない喩えに、リリーティアもただ肩をすくめた。
「でも、そこが素敵なのじゃ」
「素敵か・・・?」
パティの言動に疑問を持ったリタもまた半目になってリリーティアを見る。
「・・・まあ、人それぞれだから」
同意を求めるようなリタの視線に、リリーティアは苦笑を浮かべて答えた。
「もしかしてパティってユーリのこと・・・」
「ひとめぼれなのじゃ」
カロルの言葉にパティは恥ずかしげもなくはっきりと答えると、ユーリに向けてパチリと片目を瞑ってみせた。
彼女の好意もユーリは何とも思っておらず、寧ろやれやれと呆れた様子である。
「やめといた方がいいと思うけど」
「ひとめぼれ・・・」
リタがぼやいている横でエステルはひとり呟いていた。
パティの突然の発言に少し驚いているようだ。
「・・・なんでもいいけど、さっさと行きましょ」
脱線していく話をさっさと止めて、リタが先を進むことを促した。
リタの言葉にリリーティアは頷くと、一行は再び先へと歩き出したのだった。