第8話 小悪漢
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「・・・・・・・・・」
リリーティアは目の前の光景にただただ呆然としていた。
何度か目を瞬かせてみるも、それは確かにそこにいて、ユーリたちも呆然とそれを見ている。
「いーい眺めなのじゃ・・・」
呑気なその声。
それは、今、目の前にいる少女のものだった。
しかも、その少女はなぜか布団にくるめられ縄でグルグル巻きにされている。
そして、その格好で天井に吊り下げられており、揺ら揺らと揺れていた。
「誰・・・?」
おかしな光景に誰もが唖然として佇んでいる中、一番にカロルが口を開いた。
「そこで何してんだ?」
「見ての通り、高みの見物なのじゃ」
ユーリの問いに、その少女は答える。
「ふーん、オレはてっきり捕まってるのかと思ったよ」
「あの、捕まってるんだと思うんですけど・・・」
エステルが戸惑いながら、少女を見上げた。
リリーティアもその状況は捕らわれているように見える。
いや、どう見てもそうとしか見えなかった。
「そんなことないぞ」
そう言って、少女はもぞもぞと動くが、抜け出せる様子はまったくといってない。
「お・・・?おまえ、知ってるのじゃ」
ユーリを見て、突然少女は言う。
「えーと、名前は・・・ジャック」
「誰なんです?」
エステルが首を傾げる。
リリーティアは話の展開がてんでバラバラな少女に苦笑を浮かべることしかできなかった。
「オレはユーリだ。おまえ、名前は?」
「パティなのじゃ」
少女の名はパティ。
見た感じでは、カロルとそう歳は変わらないように見える。
「パティか。そういや、屋敷の前で会ったよな」
「おお、そうなのじゃ。うちの手のぬくもりを忘れられなくて、追いかけてきたんじゃな」
ユーリだけは一度、その少女のパティと出会っていたらしい。
やれやれといった様子でユーリは息を吐いた。
このままなのもどうかと思い、ひとまず一行はパティの縄をほどいて、そこから助け出した。
「せっかく高見の見物を楽しんでたんじゃがの・・・ま、一応礼を言っておくのじゃ」
パティという少女は、金色の長い髪をふたつの三つ編みに分けて、それを紫のリボンで結っていた。
その頭には紺色の海賊帽を被り、海賊帽と同じく紺色のワンピースを纏っている。
しかし、よく見ると、それは大人用の上着を纏っているらしく、少女の身体にしては大振りである袖は大きく捲っていて、自分の腕の長さに合わせて着ていた。
望遠鏡を肩からさげ、武器には珍しい銃を腰にさしている。
銃は世界で見ても数が少なく、レイヴンが扱う変形弓と同様に何より扱いが難しいとされており、敬遠されている武器のひとつであった。
それを、この愛らしい少女が持っていることにリリーティアは内心少し驚いた。
「ね、こんなところで何してたの?」
「お宝を探してたのじゃ」
「宝?こんなところに?」
カロルは不思議な顔でパティを見る。
「あの道楽腹黒ジジイのことだし、そういうの、がめてても不思議じゃないけど・・・」
リタの言うことも一理あるが、だからといって、少女がこんなところに忍び込んでいる事態が不可解で、リリーティアは訝しく思いながらパティを見た。
「パティは何してる人?」
「冒険家なのじゃ」
当然だと言わんばかりに、胸を張って言うパティ。
「と、ともかく、女の子ひとりでこんなところでウロウロするのは危険です」
「そうだね。ボクたちと一緒に行こう」
「うちはまだ宝も何も見つけていないのじゃ」
パティはもう少しこの屋敷の中を探索したいらしく、一緒に行くことを渋った。
「人のことを言えた義理じゃねえがおまえ、やってること冒険家っていうより泥棒だぞ」
リリーティアは苦い笑いを浮かべて、ユーリの言葉に内心同調した。
冒険家といえば聞こえはいいが、勝手に人の屋敷に忍び込み、しかも、その屋敷にある物を取ろうとしているのは、あきらかに泥棒と同じだ。
「冒険家というのは、常に探究心を持ち、未知に分け入る精神を持つ者のことなのじゃ。だから、泥棒に見えても、これは泥棒ではないのじゃ」
彼女は思っていたよりも、もう少し年齢が上なのだろうか。
この時、リリーティアはそんなことを思った。
幼さ残る愛らしい外見の割には、その口調は明らかに年配者を思わせるもので、その話し方がそう思わせているのかもしれないが、どことなくそれだけではないようにも思えたのである。
「ふーん・・・なんでもいいけど。ま、まだ宝探しするってんなら、止めないけどな」
「どうする?」
カロルの問いにパティはしばらく考え込むと、何かを閃いたように口を開いた。
「たぶん、このお屋敷にはお宝はないのじゃ」
「一緒に来るってさ」
リタはパティの言葉を要約するように言った。
「それじゃ行くか」
思いもよらない不思議な出会いをし、一行はパティを加えて再び先へと進んだ。