第8話 小悪漢
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「リリーティア~!」
「どこにいるんです~!」
カロルとエステルの声に、リリーティアは腕の中に抱え込んでいたポリーから体を離すと立ちあがった。
「みんな、こっち!」
リリーティアは皆の声がする方へと叫んだ。
先に暗闇の中から現れたのはラピード、少し遅れてユーリたちが現れた。
「よかった、リリーティア、大丈夫です?」
「もう、急に走り出すから・・・!うげっ・・・!」
その時、息を切らしたカロルの視界に大量の白骨が映り、とっさに身を引いて声を上げた。
「えっぐ、えっぐ・・・・」
「この子!」
リリーティアの後ろで男の子が泣いているのを見たエステルはすぐさま駆け寄った。
「だいじょう、もうだいじょうぶだよ」
エステルはポリーの背に手を添えて、何度も優しく声をかけた。
「ねえ、もしかして、この子、さっきの人たちの・・・?」
「ええ。この子の名前はポリー。税金を支払えていないからってここに捕らえられたらしい・・・」
カロルの問いにリリーティアは頷いて答えた。
「・・・なんて、ひどいことを」
エステルは魔物が潜むこの地下に、こんな小さな子どもを放り込んだことがとても信じられないようだ。
「もしかして、この人たちは、ここの魔物に・・・?」
「・・・ええ、きっと」
カロルは表情を歪ませて、山積みにされた白骨の山を見た。
そのあまりの悲惨さに誰が言葉を失った。
「パパ・・・ママ・・・。帰りたいよ」
重い空気が漂う中、ポリーのすすり泣く声が響く。
それを見ていたユーリがポリーに歩み寄り、しゃがみ込んだ。
「ポリー、男だろ、めそめそすんな。すぐに父ちゃんと母ちゃんに会わせてやるから」
ポリーは何度かすすり泣いたが、手で涙を拭うと、ゆっくりと顔を上げた。
「うん・・・」
ポリーは大きく頷いた。
捕らえられてからずっとここで泣いていたのだろう。
その目は赤く腫れていたが、ポリーの目にはもう涙は流れていなかった。
そして、一行はポリーと共に地下の中を歩き出す。
魔物に注意しながら奥へと進んでいくと、巨大な鉄格子か張られた部屋にだどり着いた。
カロルは地下牢の扉を掴み開けようと試みるが、ガチャガチャと音を立てるだけで開く様子はない。
「ん?誰か来たみたいだぞ」
そんな時、階段から誰かの足音が響いてきた。
鉄格子の外にある階段をじっと見ていると、初老の男が下りてきた。
「はて、これはどうしたことか。おいしい餌が、増えていますね」
黒い服に、黒く長い帽子。
帽子から流れる白髪交じりの灰色の髪、口元と顎には髭をたくわえて、眼鏡をかけている。
その男は、いかにも人を見下したような目で一行たちを見ていた。
「あんたがラゴウさん?随分と胸糞悪い趣味をお持ちじゃねえか」
ユーリはわざとらしく不敵な笑みを浮かべて言った。
しかし、その瞳には怒りが見て取れる。
「趣味?ああ、地下室のことですか。これは私のような高雅な者にしか理解できない楽しみ方なのですよ。評議会の小心な老人どもときたら退屈な駆け引きばかりで、私を楽しませてくれませんからね。その退屈を平民で紛らわすのは私のような選ばれた人間の特権というものでしょう?」
「まさか、ただそれだけの理由でこんなことを・・・?」
エステルは信じられないとばかりに呟く。
その横で、リリーティアはただ黙したままラゴウを見据えていた。
「さて、リブガロを連れて帰ってくるとしますか。これだけ獲物が増えたなら、面白い見世物になります。ま、それまで生きていれば、ですが」
ラゴウは目元だけで笑いながら、一行たちに背を向けてその場から去ろうとした。
「リブガロなら探しても無駄だぜ。オレらがやっちまったから」
「・・・なんですって?」
ラゴウは歩き出すのを止めて、訝しげな表情で振り向いた。
「聞こえなかったか?オレらが倒したって、言ったんだよ」
「くっ・・・なんということを」
ユーリは厭味ったらしく大きな声で告げた。
ラゴウの目は見る見る内に怒りに変わり、悔しさからか強く歯を噛み締めている。
「飼ってるなら、わかるように鈴でもつけときゃよかったんだ」
「・・・まあ、いいでしょう。金さえ積めれば、すぐに手に入ります」
しかし、ラゴウはすぐにその怒りをおさめた。
いかにも、世の中は何でもお金で解決できるという卑しい根底を持った人間の言葉だ。
「ラゴウ!それでもあなたは<帝国>に仕える人間ですか!」
珍しくエステルが声を荒げて、ラゴウを指さして言い放った。
誰よりも優しい心を持つエステルにとって、今回のラゴウの行為とその言動には耐えられなかったのだろう。
「むむっ・・・あなたは・・・まさか?」
ラゴウの眉間に深いしわが刻まれた。
彼女が<帝国>の姫であるエステリーゼと気づき始めたようである。
リリーティアはさっとエステルの前に立ち、自分の背後に隠した。
それと同時にユーリは剣を抜き放つと、剣技である蒼破刃を格子に向かって放った。
ラゴウに対する彼の怒りと呼応してか、いつもよりもはるかに威力が増していたその剣技は、頑丈な鉄格子をいとも簡単に破壊した。
その衝撃波でラゴウも吹き飛ぶ。
「き、貴様!な、なにをするのですか!」
ラゴウは上体だけ起こすと、小さく体を震わせてユーリを睨み見た。
「誰か!この者たちを捕らえなさい!」
そう言いながら、ラゴウは急いで立ち上がると、階段を駆け登って慌てて逃げていく。
「早いとこ、用事すまさねえと敵がぞろぞろくんぞ」
「一刻も早く証拠の確認を」
「天候を操る魔導器(ブラスティア)を探すんですね」
リリーティアはエステルに頷くと、壊れた鉄格子をくぐり出た。
一行は急いで階段を上がると、天候を操る魔導器(ブラスティア)がある部屋を探し、先を進んだ。