第8話 小悪漢
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リリーティアはひとり薄暗い地下を駆ける。
部屋と部屋とを繋ぐ通路があり、そこを抜けるとまた広い空間に出た。
彼女は一度足を止め、周辺を見渡した。
そこも薄暗く、どれだけの広さがあるのか分からない。
近くに魔物の気配を感じ、彼女は《ラウィスアルマ》を両手に引き抜いた。
じっと耳を澄ませるも、聞こえてくるのは魔物の息づかいと足音。
「パパ・・・、ママ・・・」
「(あっちか・・・!)」
その中からはっきりと聞こえた声。
幼い子どもの声だ。
リリーティアは再び走り出す。
その先に魔物がいることを知りながら、彼女は迷いなく薄暗い中を駆けていく。
「ガウゥッ!!」
暗闇の中から魔物が飛びかかってきた。
リリーティアは《レウィスアルマ》の片先にエアルで刃を構築させ、魔物を切り裂いた。
そのあとも、何度も暗闇から魔物が現れる。
しかし、辺りは薄暗く、魔物を目で捉えた時にはすでに魔物との距離はギリギリで、半ば反射的に間一髪避けているような有様であった。
それでも、彼女は足を止めずに闇の中を駆け抜けていく。
そして、暗闇の先から微かに浮かびあがる小さな影が見えた。
壁の隅でうずくまっている。
その時、背後から魔物が襲い掛かるが、リリーティアは振り返って魔物をキッと睨み見た。
「退(ど)け!!」
足を踏み込んで《レウィスアルマ》を力の限り振り上げる。
魔物は悲痛な啼き声をあげながら、闇の中へと吹き飛んだ
リリーティアはその小さな影へと駆け寄り、片膝をついた。
「大丈夫?」
「えっぐ、えっぐ・・・。パパ・・・ママ・・・」
壁の隅で男の子がうずくまって泣いていた。
「もしかして、あなた、ポリー?」
「ぐす・・・えっぐ、う、・・・うん」
ポリーは小さく頷いた。
それはあのティグルとケラスの息子だった。
考えていた最悪の事態は避けられたことに、リリーティアは大きく安堵し、もう大丈夫だとポリーの頭を優しく撫でた。
その時、背後から無数の殺気を感じた。
「(囲まれたか)」
リリーティアは泣きじゃくるポリーを背に隠す。
背後は壁、周りは複数の魔物が唸り声をあげてじわじわと近づいてきている。
その時、すぐ傍に大量の白骨が山積みとなっているのが、彼女の視界の中に飛び込んだ。
「(人の骨 ・・・!)」
それを目にした瞬間、彼女はラゴウの悪行の実態のすべてを知った。
地下に潜む魔物たち。
山積みにされた人体の白骨。
地下に捕らえられた少年。
ラゴウは魔物を地下に飼い込み。
そして、自分の気に食わない者が現れればここへ放り込み、魔物の餌とした。
これが真実で、この人体の白骨が何よりもその証拠だ。
大量の白骨から視線を外すと、リリーティアは鋭い瞳で前を見据えた。
じりじりと近づく魔物たちの気配。
下手をすればここにいる自分たちも、この白骨の仲間入りとなるのだろう。
しかし、リリーティアはこの状況に慌てることなく、その場からゆっくりと立ち上がった。
「美しき百花 儚る散るは一片の想い 風と共に舞い踊り 最期の刻まで輝き魅せよ」
前を見据えながら魔術を唱える。
リリーティアの足元には青く光る術式が浮かびあがっていた。
その時、魔物が一斉に飛び上がり、彼女へと襲い掛かる。
「散れ!グラキエースフロース!!」
すると、部屋の中心に強大な氷のバラが現れた。
瞬間、リリーティアは背後にいたポリーを腕の中へ抱え込むと、彼女自身の体を壁の隅へと押しやった。
室内で強力な魔術を放ったから、その衝撃が自分たちにも降りかかる可能性があると考えて取った行動だった。
氷のバラの花弁が竜巻のように渦を巻きながら舞い、この部屋にいたすべての敵を巻き込んでいく。
鋭い氷の花弁が魔物たちを切り裂き、舞いあがった魔物はそのまま地面へと落下して叩きつけられた。
そして、辺りは一瞬に全ての気配が消えた。
さっきまで多くの魔物の殺気が漂っていたが、今はただポリーのすすり泣く声だけが微かに響いているだけだった。