第8話 小悪漢
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雨の中、リブガロを探すために街を出て、南へと進んだ一行は平原に広がる森に到着した。
その付近をしばらく捜索していると、草木の間から黄金の毛に身を包んだ魔物が突然飛び出してきた。
「うわ!これがリブガロだよ!」
唸り声をあげるリブガロ。
その体はあちらこちらに朱(あか)が滲み、よく見ると傷だらけだった。
「傷だらけ・・・少しかわいそうですね」
エステルはリブガロの痛々しい姿に顔を歪ませた。
「死に物ぐるいの町の連中に何度も襲われたんだろうな」
「町の人が悪いわけじゃ・・・」
「わかってるって」
リブガロと対峙ながら、ユーリとエステルは話す。
二人が言うように、町の人たちが悪いわけではない。
けれどリブガロ自身はそんなことを知る故もないし、人を避け、または襲うことが本能的にある魔物だ。
何度逃げても飽きなく自分を襲ってくる人々に、このリブガロは魔物の中でも人間をとても憎んでいるだろう。
「来るわよ」
地面を蹄で蹴り出したリブガロを見てリタが言うと、一行は一斉に武器を構えた。
リブガロは角を突き出しながら、勢いよく突進してきた。
リリーティアたちは四方に散らばりそれを避ける。
リブガロが咆哮をあげながら転回し、今度はカロルとユーリのほうへと突進した。
「うわ!」
カロルは慌ててそれを避け、ユーリは余裕をもって軽々それを避けていく。
避けたあと、ユーリはリブガロに向かって剣を振り上げた。
相手を気絶させるために、それは剣の刃ではなく柄を向けての攻撃であった。
しかし、相手も硬い角を以ってそれを弾いた。
リブガロはだいぶ気が立っているようで、何度も突撃を繰り返す。
「(リブガロが苦手とするのは闇だけど・・・)」
リリーティアはリブガロを困ったような目で見る。
エステルが言っていたようにリブガロの体はすでにひどい有様だった。
何度も突進してくる様は、人間の手から生き延びようとする必死さを感じる。
それに、捕らえるとなると、ただ倒すことよりも難しいことだ。
ただでさえ相手は弱っている。
魔術で攻撃すると、下手をすれば相手の命さえを奪ってしまうだろう。
「(なら、ここは逆に・・・)」
その時、リブガロがリリーティアに向かって角を突き出して突進してきた。
「エステル、リブガロの動きを止めるから、光属性の魔術を!」
「え、は、はい!-------煌めいて 魂揺の力」
リブガロとの距離が狭まった所で、リリーティアは後ろへ飛び退りながら《レウィスアルマ》を振り上げた。
「サジッタグローリア!」
詠唱もなく発動したその魔術は、無数の光が矢の如く降り注ぐ。
しかし、それはリブガロにではなく、行く手を阻むように敵の前にそれは降り注いだ。
リブガロは驚きに吠え、慌ててその場に踏みとどまる。
「フォトン!」
戸惑いながらもエステルはリリーティアの言う通りに魔術を発動した。
丸い光が現れて、それがだんだん膨張していき、爆発するように弾けた。
リブガロは前足をあげて悲鳴に似た雄叫びをあげると、そのまま地面へと倒れ込んだ。
そして、リブガロはそのまま起き上がることはなかった。
恐る恐る、リブガロの周りに集まる一行。
エステルは誰よりも心配げにリブガロを覗き見る。
心配する彼女に、ただ驚いて気絶しただけで、ダメージはそれほど受けていないことをリリーティアは説明した。
リブガロは闇属性が弱点だが、逆に光属性には強く、それほどダメージを与えることはできない生態だ。
エステルはそのことを聞いて、ほっと安堵した。
「さっさと連れて帰ろうよ」
カロルの言葉のあと、ユーリはリブガロの前でかがみ込んだ。
そして、剣を使ってそのツノを折る。
「ユーリ・・・?」
ユーリの行動に首を傾げるエステル。
「高価なのはツノだろ?金の亡者どもにゃこれで十分だ」
「あんたが魔物に情けをかけるなんてかなり意外なんだけど」
リタの言葉に、リリーティアも少しばかり同じことを思っていた。
いつも魔物と戦う時は、なにかと生き生きとしている彼。
元々、体を動かすことが好きであるのと同時に、戦うことが楽しいと感じている彼の行動としては珍しいものに映った。
「のんきなこと言ってたら、ほら、起きるよ!」
そうこうしているうちに、目を覚ましたリブガロ。
一行は慌てて後ろへ退いて、身を構えた。
しかし、すぐには襲ってこなかった。
それどころか、リブガロはじっとリリーティアたちのほうを見たあと、踵を返してそのまま森の中へと去っていったのだ。
「あ、あれ?なんで?」
リブガロの行動にカロルは目を見張って驚いている。
その横で、リリーティアも訝しげにリブガロが去っていくのを見詰めていた。
「私たちの意図を、理解してくれたんですよ」
「魔物が?まさか?」
エステルが嬉しげに言うが、彼女の言葉にリタは呆れた様子だ。
一般的に知能が高くないと言われる魔物だが、その中でも少しは知能が備わっている魔物も少なからずいる。
しかし、人間に対して、しかもその意図を察してくれるというのはあまり信じられるものではなかったが、何かを感じてくれたのだろうか。
「ツノが手に入ったんだからなんだっていいさ」
ユーリの言葉にリリーティアもそれもそうかと納得して、一行はリブガロの角を手にノール港へと戻った。