第8話 小悪漢
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少し歩くと、とある一軒家の軒下にあの夫婦と一緒にカロルとリタ、ラピードが雨宿りをしていた。
「なんかエステルが引きずられていったけど・・・」
カロルは戸惑った表情を浮かべ、エステルたちが去っていた方向を指さしながら言った。
「ユーリにも言ったんだけど、少し待っててくれる?フレンと話をしてくるから」
「じゃあ、さっきのがフレンなんだ」
「ええ」
その時、何か思い出したように、リリーティアはあっと小さく声をあげた。
「悪いんだけど、店で雨衣を買ってきもらえる?」
「雨衣?うん、いいよ。リタもいいでしょ?」
「・・・まあ、この雨だし」
この旅では雨衣を用意していなかったために、ノール港に降るこの雨によって少し体が濡れてしまっていた。
今後の行動がどうなるかわからないが、しばらく止みそうもないこの雨からして、またすぐにでも必要になるだろうと考えたリリーティアは、カロルたちに買っておいてもらうことにした。
「ありがとう。じゃあ、これで人数分お願いね」
「わかった」
カロルにお金を渡すと、買い終わったら宿屋にくるように言った。
そして、カロルとリタは街の中へ足早に向かっていったのを見届けると、リリーティアは二人の夫婦へと向き直った。
「痛みのほうはどうですか?」
「・・・はい、大丈夫です」
さっきは怪我でふらついていたティグルも、今はしっかり立っている。
傷の具合もエステルの治癒術のおかげでだいぶ良くなったのが窺えた。
「少しお伺いしますが、役人たちと話していた時、”子ども”と言っていましたよね。それは一体どういうことでしょう?」
「・・・・・・今朝、突然執政官様のお役人たちが来て、うちの子どもが連れて行かれたんです。・・・税金を支払わない罰だと言って・・・」
ティグルのその表情は、悲しげでもあったが、何よりとても悔しそうであった。
親として子を守れなかったことに対する情けなさや悔しさが、そこに表れている。
隣に寄り添うケラスも、それは同じであった。
さらに詳しく聞くと、彼らの子どもの名前はポリーというそうだ。
「今、ラゴウ執政官に関して騎士団が動いています。ご子息のことは心配でしょうが、ひとまずご自宅に戻って体を-------」
「騎士団が・・・、何をしてくれるというんですか・・・」
ティグルはぼやいた。
それは、怒りというよりも、ただ事実を言っているだけの口ぶりのようにも感じた。
「今まで<帝国>は何もしてくれなかった。今更・・・何を・・・」
「・・・・・・・・・」
リリーティアは何も返せなかった。
ティグルがいうことはもっともだったからだ。
ラゴウがノール港で行ってきた圧政は、彼の着任当時から<帝国>、いわゆる評議会内も知っていたこと。
知りながら、<帝国>はその圧政を黙認してきたのだ。
それを今更になって<帝国>従事者である騎士団に何を望めというのだと。
ティグルだけでなく、それは圧政を強いられてきたこの町のすべての人が思っている<帝国>への不信の感情。
そう簡単にその不信を解くのは難しいことだ。
それは、貴族と平民、騎士と市民、という間柄のように。
「ティグル、一度家へ帰りましょう。よくなったとは言え、まだこの体じゃ、外を出歩くのは危険よ」
「・・・・・・わかった」
ケラスの言葉にティグルはしぶしぶといった様子で頷いた。
「すみせん、あとひとつだけ・・・」
ケラスは「何でしょう?」と快く聞いてくれた。
その声はとても優しく、夫の厳しい言葉を受けたリリーティアアを気遣っての温かい声音だった。
「リブガロを捕まえにいくと言っておられましたが・・・、それは、この街の近くにいるということですか?」
ケラスの話しによると、この街から南に広がる森付近にいるらしい。
しかも、そのリブガロは元々そこにいるわけでなく、ラゴウが買い付けてそこに放って飼っているものだということだった。
つまり、ラゴウは単に税金を上げて住民を苦しめるだけではなく、わざとリブガロを外へ放ち、”リブガロを捕まえれば税金を免除する”と言って住民たちを戦わせるといった、税金を支払えない住民を弄んでいるということだ。
「それでは、私たちはこれで」
「はい、お気をつけて」
ケラスは軽く頭を下げ、リリーティアも同じように返した。
そして、夫婦は降りしきる雨の中へと歩き出す。
リリーティアは夫婦の背が見えなくなるまで、じっと見詰め続けていた。
「ワゥ」
「ラピード?・・・はは、私は大丈夫」
じっとこちらを見上げてくるラピード。
それは、大丈夫かと心配してくれているようで、リリーティアは笑みを浮かべて答えた。
しかし、その心の中はなんとも言えない苦い思いがあった。
そんな重い気持ちを抱えながら、彼女はラピードと共に、エステルたちがいる宿へと向かった。