第8話 小悪漢
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ユーリが入っていった路地裏の入り口にさしかかると、微かに金属がぶつかり合う甲高い音が聞こえてきた。
リリーティアは路地裏に入ってすぐ近くに積まれていた木箱の影にさっとその身を隠した。
そこから様子を伺ってみると、ユーリと三人の赤眼が戦っていた。
さすが暗殺ギルドの者というべきか、その動きは機敏で隙がなく、赤眼の三人はうまく連携して攻撃を繰り出している。
一方ユーリは、その多彩な攻撃技に苦戦しているようだ。
一人がユーリと正面から相手をしている時、二人の赤眼がさっと同じ行動をとった。
それを見たリリーティアは次にとる赤眼の行動を読みとり、ユーリを助けようと、腰にある《レウィスアルマ》に手をつけてその場から飛び出そうとした。
とその時、路地裏の入り口付近から甲冑の音が聞こえて、そのすぐ後、彼女が隠れている木箱の前を横切っていく影が現れる。
「(あれは・・・・)」
リリーティアは、その通り過ぎた者を目でとらえた瞬間、その手から武器を離した。
この時、二人の赤眼がユーリの背後に回り、背中を斬りつけようしていた。
しかし、その赤眼たちは一太刀に吹き飛ばされてしまい、地面に倒れ込んだ。
ユーリは驚きに目を見開くと、赤眼の一人と剣を交えながら、その斬撃が放たれてきた方向へと視線を向けた。
そこには騎士の鎧をまとった男が立っている。
「大丈夫か、ユーリ?」
「フレン!おまっ・・・それオレのセリフだろ」
その男は、フレンだった。
いつの日にか、廊下で声をかけてきた頃と変わらず、短めの金髪の下で強い意志を宿した瞳がそこにある。
「まったく、探したぞ」
「それも、オレのセリフだ」
そう言いながら、ユーリは残りの一人に剣技である蒼破刃を打ち込んだ。
「(彼が来たなら、もう大丈夫だろう)」
リリーティアは木箱と影に身を潜め、ただユーリたちの様子を見守ることにした。
フレンの斬撃を受けた二人が起き上がり、ユーリとフレンに攻撃を仕掛けてきた。
すぐさま、ユーリとフレンは応戦する。
互いに息が合っており、相手の連携攻撃も今では軽々と太刀打ちできている。
そして、三人の赤眼が一カ所に固まったところで、好機と見たユーリとフレンは同時に技を放った。
その攻撃に赤眼たちは大きく吹き飛ばされ、後ろに積まれてあった木箱を大破しながら倒れこんだ。
そのまま赤眼はぴくりとも動かす、大破した木箱に埋もれたまま気絶してしまった。
「ふぅ・・・マジで焦ったぜ」
「さて・・・」
ほっと気を抜いたユーリに向けて、突然にも剣を振り下ろすフレン。
ユーリはすんでのところでそれを受け止めた。
「ちょ、おまえなにしやがる!」
「ユーリが結界の外へ旅立ってくれたことは嬉しく思っている」
その言葉とは裏腹に、フレンのその目は少し吊り上り怒りが見える。
「なら、もっと喜べよ。剣なんか振り回さないで」
「これを見て、素直に喜ぶ気持ちがうせた」
フレンの剣が指した先にはユーリの手配書があった。
しかも、よく見れば手配金額が上がっている。
「あ、10000ガルドに上がった。やり」
「(・・・・・・それ、喜ぶこと?)」
木箱の陰で二人の話を聞いているリリーティアは、ユーリの様子に呆れた。
ハルルの街からここまであまり日が経っていないのにも拘わらず、その短期間の間に手配金額が元から倍も上がっている状況に、もう少し危機感を持ってほしいものだとつくづく思った。
手配金額の増加の原因は、エフミドの丘の結界魔導器(シルトブラスティア)での公務妨害が主な原因だろう。
「騎士団を辞めたのは犯罪者になるためではないだろう」
「色々事情があったんだよ」
「事情があったとしても罪は罪だ」
フレンの言うことは正しい。
どんな理由であれ、法的に反することは罪として罰するべきものだ。
しかし、ラゴウのようにその規則の中であっても、権力を振りかざし、その罪を隠滅する者がいる。
また、嘘を重ね、秘密を重ね、裏で密かにその罪を欺いている者だっている。
現にリリーティア自身も何度となく法に反することを、その手で行ってきた。
ただ、それが公に知られていないだけの違いだ。
それが、<帝国>の闇であり、現実であった。
二人の話を聞くのをやめ、リリーティアは木箱の陰から出てると路地裏を抜けて町の大通りに出た。
すると、町中でエステルがキョロキョロと辺りを忙しなく見渡している姿があった。
「エステル」
「リリーティア、ここにいたんですね」
エステルはリリーティアの元へと駆け寄った。
さっきの夫婦の様子を聞くと、怪我のだいぶよくなったようで今はカロルたちと一緒にいるそうだ。
「ところで、ユーリは?」
「この先にいるよ。それともう一人」
「?」
エステルは疑問符を浮かべながら、リリーティアが指し示す路地裏を覗き込んだ。
覗き込んだ瞬間、エステルはぱっと表情を輝かせた。
「フレン!」
喜びの声音でフレンの名を呼ぶと、エステルは駆け出した勢いのままフレンに抱きついた。
フレンはエステルの行動に声も出せず、目を白黒させている。
彼女のその喜びようにリリーティアは顔を綻ばせ、無事に会えたことを喜んで見ていた。
「よかった、フレン。無事だったんですね?ケガとかしてませんか?」
「・・・・・・してませんから、その、エステリーゼ様・・・」
エステルは怪我がないか、フレンの体をあちらこちらとまんべんなく見ていく。
エステルの必死さにフレンはたじろぎ、どうしていいものか困っていた。
「あ、ご、ごめんなさい。わたし、嬉しくて、つい・・・」
そんな二人の様子がおかしくて、ついリリーティアは小さく声を漏らして笑った。
その声が耳に届いたフレンはその声の方へと視線を映す。
視線の先にいる人物がリリーティアだと知ると、フレンははっとした。
「リリーティア特別補佐!」
「お疲れ様です、フレン小隊長」
リリーティアはフレンの傍へと歩み寄る。
「お疲れ様です。どうしてこちらに・・・?」
「あ、リリーティアは私のために、ここまで一緒について来てくれたんですよ」
フレンはユーリのほうへ一瞥すると、なにやら少し考え込んだ。
「・・・・・・リリーティア特別補佐、宿まで少しよろしいですか」
リリーティアは声もなく頷いた。
そして、フレンはエステルの腕をとると、足早に歩きだした。
「エステリーゼ様、こちらに」
「え?あ、ちょっと・・・フレン・・・お話が・・・!?」
フレンはやや強引にエステルを連れて、路地裏を出ていった。
リリーティアもその後に続こうとして、一度ユーリへと視線を向ける。
「悪いけど、少し待っててくれる?」
「・・・・ヒミツのお話とやらをしにか」
わざと嫌みっぽい口ぶりで言うユーリ。
リリーティアは苦笑を浮かべただ肩をすくめると、その路地裏から出ていった。