第7話 魔導器
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満天の星空に浮かんだ月の下。
仄かな光に包まれた草原の大地に、ぱちぱちと音を立てて燃える小さな炎があった。
そこには、リリーティアがひとり焚き火のそばで座っており、その少し離れたところにユーリたちが横になっている。
彼女は木の幹を背にして、その炎をじっと見詰めていた。
一行はエフミドの丘からしばらく歩いた後、ここで野宿をしていた。
しかし、ここはいつ魔物が襲ってくるかわからない結界の外だ。
そのため、こうして休む時は必ず見張りを立てる必要があり、リリーティアは今、その見張りとして寝ずの番をしているところだった。
旅に慣れている彼女はいつもその寝ずの番を買って出た。
もちろん毎日、しかも一晩中とはいかないので、ユーリと交代して行っている。
それに、気配に敏感なラピードがいる。
どんなに寝ていても、ささいな気配をもすぐに察知して知らせてくれる、とても頼もしい見張りであった。
彼女がもたれている木の幹の反対側で休みながら、今夜も何かあればすぐに知らせてくれるだろう。
「(・・・・・・可哀想、か)」
夜もだいぶ更け、辺りは虫の鳴き声とぱちぱちと燃える焚き火の音しか聞こえない。
リリーティアはエフミドの丘で破壊されていた魔導器(ブラスティア)について考えていた。
そして、それを見ていたリタの姿を思い返す。
壊された魔導器(ブラスティア)を鎮痛な面持ちで見詰め、とても悲痛な声で「ひどい」と呟いていた。
その表情は、その声は、あまりにも痛々しいものだった。
けれど、それもすぐになくなって、次には怒りに変わっていた。
”ただの道具とは違う”
そう言っていたその言葉には、許せないという想いと、魔導器(ブラスティア)を大切にする彼女の想いが感じられた。
「(・・・・・・知られてしまったな)」
リリーティアは手元に置いてあった薪をひとつ手に取ると、火が消えないように焚き火をつついた。
パチッと大きな音がなる。
その時、その音の中に違った音がして、彼女ははっとして顔をあげた。
ラピードも彼女が気づくよりも早く、耳を動かしてその顔を上げたが、すぐに何事もなく目を閉じた。
見ると、ひとり誰かが体を起こしている。
リリーティアはじっとよく見ると、それは、今さっきまで思っていたリタだった。
「リタ?」
リタは立ち上がると、リリーティアのほうへと歩いてきた。
彼女は焚火の前で胡座をかいて座ると、腕を組んでじっと焚き火を見詰めた。
「リタ、どうしたの?眠れない?」
その言葉に何も返すことなく、リタは黙り込んだままだ。
気難しい顔を浮かべている様子から、何やら考え込んでいるように見える。
「・・・・・・あの魔導器(ブラスティア)のことなんだけど」
しばらくして、リタは静かにその口を開いた。
あの丘で破壊されていた魔導器(ブラスティア)のことを口にした瞬間、リリーティアは内心身構えた。
「やっぱり、どんなに考えてもあの術式はおかしい。あんなの今まで見たことないし、あんな術式の組み方はありえない」
リリーティアはただじっとリタを見る。
「あそこに結界魔導器(シルトブラスティア)を設置させたのって<帝国>の指示よね?あの魔導器(ブラスティア)のこと何か知らないの?」
「・・・設置されたことは聞いていたけど、あの魔導器(ブラスティア)については何も」
そして、リリーティアは言葉を紡いだ。
それは、至極自然に。
それは、さも当たり前のように。
「あそこに結界魔導器(シルトブラスティア)が設置すること事態が極秘で行っていたらしいから。竜使いを警戒してのことだったんだけど、・・・結局、壊されてしまった」
「そう!何のよ、その竜使いってのは!魔導器(ブラスティア)をあんな-------!」
「リ、リタ、みんなが起きるから・・・・」
竜使いのことが話に出た途端、急に声を荒げたリタに、リリーティアは苦笑して彼女を止めた。
リタははっとし口を噤むと、今度は声を幾分か抑えて話し始める。
「警戒って、今回だけじゃないってこと?」
「実は、ずいぶん前から竜使いについては度々報告がきてたんだ。<帝国>もその事には頭を悩ませていて・・・今もそれは変わらないまま」
「一体何者なのよ。魔導器(ブラスティア)を壊すなんて」
「それは、私たち<帝国>側もわからない」
リリーティアは横にあるいくつかの薪を掴むと、火の中に放り込んだ。
手に持っていた薪で焚き火をつつき、燃える火の勢いを保った。
「それにしても・・・・・・どうして・・・」
リタはまたひとり呟きはじめた。
「あんな愛情のカケラもない術式・・・・・・許せない・・・」
リリーティアは思わず焚火をつつく手を止めた。
視線を上げてリタを見ると、険しい顔つきで深く考え込んでいる。
ふと、彼女の首にある武醒魔導器(ボーディブラスティア)が目に入った。
焚き火の炎でそれは光輝いている。
けれど、リリーティアから見れば、やはりそれはそれだけの理由で輝いているようには見えなかった。
そのもの自体が輝いているような、そんな輝き。
「リタ、そろそろ寝た方がいいよ。気になるのはわかるけどね・・・・」
このままだと朝まで考え込みそうなリタに、困ったように笑って声をかけた。
「・・・そうだけど」
リタはさらに眉間にしわを寄せて考え込む。
今日はだいぶ体力を使い疲れが溜まっているはずで、明日に響かないためにも少しでも休む必要がある。
しかし、リタはその疲れよりも、よほどあの魔導器(ブラスティア)のことが気になるようだ。
正確には、あの魔導器(ブラスティア)に組み立てられた術式と、そして、それを行った術者のことが・・・。
「せめて、横になったらどう?」
そして、リリーティアは言葉を紡いだ。
それは、至極当然に。
それは、ありのままのように。
「あの魔導器(ブラスティア)のことについては私も調べてみるから。横になるだけでも少しは体も休められるよ」
「・・・・・・わかった」
リタはしぶしぶと立ち上がった。
今考えてもどうにもならないことも分かっていたリタは、リリーティアの言うとおり休むことにした。
それに、確かに今日は疲れがいつもより溜まっていたのである。
「リタ、おやすみ」
「・・・・・・ええ」
微笑みを浮かべるリリーティアの言葉にどう言葉を返すべきか分からず、リタはただ一言だけ言葉を返すことしか出来なかった。
そして、彼女が横になったのを見届けると、リリーティアは再び焚き火へと視線を戻した。
じっと燃え揺れる火を見詰める。
「(・・・愛情のカケラもない・・・か)」
リリーティアはリタの言葉を心の中で呟いた。
そして、足にある武醒魔導器(ボーディブラスティア)にそっと触れた。
その魔導器(ブラスティア)は焚き火に照らされて光輝いている。
しかし、ただ、それだけだ。
それだけにしかすぎない。
彼女のように、この魔導器(ブラスティア)は輝いていない。
輝くわけもない。
それは当然だ。
愛情のカケラもない私なのだから。
許せない事を為す私なのだから。
「(だとしても、かまわない・・・)」
リリーティアは焚き火の炎にそっと左手をかざした。
それを、じっと見詰めた。
ただただ、じっと見据え続けた。
その瞳は、
頭上に広がった満天の星空のように、曇りなく、翳りなく。
頭上に広がった夜空に瞬く星のように、強い意思が煌めいていた。
その瞳に映るもの。
それは、
「(それが・・・)」
揺らめく炎の光に照らされた----------、
「(私なのだから)」
--------------------真っ朱(まっか)に染まった手だった。
第7話 魔導器 -終-