第7話 魔導器
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再びリリーティアを先導に獣道の中を進んでいく一行。
そうして、その道をどんどん下ってからしばらくして、目の前に広がる草むらの隙間から街道が見えた。
だいぶ遠回りにはなったが、一行はなんとか大破したあの魔導器(ブラスティア)の反対側の街道へとたどり着いたのだ。
彼女は一度足を止め、街道に誰もいないのを確認すると草むらを抜けて街道へと出た。
「やっと、抜けたね」
カロルは額の汗をぬぐいながら、ふうっと息を吐く。
だいぶ疲れた様子であった。
リリーティアは空を見上げると、懐から懐中時計を取り出し現在の時間を確認した。
「ここを少し行ったところで、今日はもう休もう」
懐中時計を仕舞いながら、彼女は言う。
「そうですね、みなさん、ヘトヘトのご様子ですし・・・」
「・・・あんたもね」
カロルだけでなく、エステルもリタもその顔には明らかに疲れた色が見える。
道とは言えない獣道を上り下りし、その道中には巨大な魔物との戦闘もあった。
思っていた以上にエフミドの丘を越えるだけでかなりの労力を消費してしまったようだ。
「まあ、まだ街までたいぶありそうだしな。そうするか」
ユーリとラピードはそれほど疲れた様子を見せてはいないが、いつもより体力は消費していた。
それに、もう空は茜色に染まっており、今からノール港に向かっても夜中を過ぎるだろう。
とりあえず、まだ騎士たちがいるかもしれないこのエフミドの丘を早く出るべきだと、一行はさっさとその場を歩き出した。
「リタ、どうしました?」
エフミドの丘を出る直前になって、リタが突然足を止めた。
「ちょっとさっきの魔導器(ブラスティア)の様子を見たいの。・・・・・・見るだけだから」
リタはずっと壊された魔導器(ブラスティア)のことが気になっていたらしい。
「騎士に見つかったら大変だぜ」
「また、捕まっちゃうかもですよ・・・」
魔導器(ブラスティア)のことを大切に思う気持ちが分かるが、二人の言う通り、それはとても危険なことだ。
「そんなドジじゃないわよ」
「リタ・・・!」
皆の忠告も聞かず、リタは来た道を引き返し、魔導器(ブラスティア)の方へと駆け出していく。
慌ててエステルは止めようとしたが、あっという間に走っていったリタを止められなかった。
「おいおい・・・」
勘弁してくれと困った表情を浮かべるユーリ。
一行は仕方なくリタの後を追った。
追いかけていくとリタは街道の脇で佇んでいて、見ると、大破した結界魔導器(シルトブラスティア)の残骸が目の前にある。
周りには誰もおらず、人ひとりいなかった。
「よかった、騎士の人たちはたちもういないみたいです」
エステルがほっとして言う。
どうやら騎士団とアスピオの技師たちは、すでにエフミドの丘から引き上げているようだ。
今日はひとまずまだ使えそうな部品だけ回収し、他の壊れた魔導器(ブラスティア)の残骸は、邪魔にならない街道の脇へと運び出して、のちに回収する手筈なのだろう。
「エカテリーヌ・・・」
リタは壊れた魔導器(ブラスティア)を見詰めながら呟いた。
その声はとても悲しげだ。
「エカテリーヌって・・・あの魔導器(ブラスティア)にも名前つけたんだね」
カロルは少し呆れた表情を浮かべてリタを見る。
リリーティアはリタの傍に寄ると、壊れた魔導器(ブラスティア)の前で片膝をついてしゃがんだ。
よく見てみると、魔核(コア)は無残なほどに粉々に砕かれている。
明らかにそれを狙っての破壊だと分かった。
「・・・・・・ひどい」
それはリタの声だった。
囁くような微かな声だったが、傍にいたリリーティアにはかろうじて耳に届いた。
見上げてリタを見ると、その瞳は悲しみに揺れ、魔導器(ブラスティア)の壊れた姿を深く悼んでいるのが分かった。
彼女の悲しみに満ちたその表情は見ていられず、リリーティアは逸らすように魔導器(ブラスティア)へと視線を戻した。
しばらくしてから、リタは重い足取りでユーリたちのほうへと引き返していく。
「いいのか、もう」
「ええ、あれはもう手の施しようがないわ・・・残酷すぎる・・・」
「確かに魔導器(ブラスティア)は貴重なものだけどね」
「貴重がどうか問題じゃない。人は細々と文明を築いてきた。その中で魔導器(ブラスティア)は人間と共に生きてきた存在なのよ。ただの道具とは違う」
カロルの言葉にリタは反論するように話す。
この時のリタの瞳はさっきのような憂いさはなく、どことなく怒りが見えた。
同時にリタの強い想いと、リタ自身の信念がそこにあることを感じた。
「・・・ま、リタが、魔導器(ブラスティア)に相当思い入れがあるってことはわかったよ。もういいだろ?行こうぜ」
「ええ」
ユーリたちはエフミドの丘を出ようと歩き出す。
リリーティアも立ち上がると、しばらくその魔導器(ブラスティア)を見下ろした後、先を歩くリタの背を見詰めた。
そして、ひとり小さく息を吐くと、彼女もユーリたちの後に続いて歩き出した。