第7話 魔導器
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***********************************
「うわあ・・・」
エステルが声を上げた。
歩き出してからそれほど時間を経たずして、今まで周りを覆っていた草木が急になくなり目の前が開けた。
その先の光景を見た瞬間、彼女は思わず声を上げたのである。
「これ・・・って・・・」
リタも目を瞠り、目の前に広がる景色に言葉を失っていた。
「ユーリ、海ですよ、海」
「わかってるって。・・・風が気持ちいいな」
眼前には広大な海が広がり、潮が薫る風が優しく吹いている。
エステルはよほど感動したのか、落ち着きなく何度も声を上げている。
エステルの様子にユーリは苦笑しながらも、穏やかな表情を浮かべて吹き渡る風を感じていた。
リタもカロルもただじっと海を眺めている。
彼らの様子を少し後ろから見た後、リリーティアは絶景と謳われる景色へと視線を移した。
彼女がここに訪れたのは、これで三度目。
「(やっぱり、何度来てもここは素敵な場所だね・・・・)」
リリーティアは目を細め、髪飾にそっと触れた。
彼女は思い出していた。
ここに初めて訪れたあの日のことを。
----------今でもはっきりと覚えている。
海が広がる絶景に魅せられたあの日。
水平線に浮かんだ太陽(ひかり)に魅せられたあの日。
何よりも魅せられた、もう一つの太陽(ひかり)がそこにあった。
それは、この手で奪ってしまったのだと思っていた太陽(ひかり)。
それは、もう二度と見られないと思っていた太陽(ひかり)。
あの頃と同じ、彼のおどけた笑顔がそこにあった。
それは確かに、嘘偽りのない、仮面でもない----------太陽(えがお)だった。
「(彼は大丈夫だろうか)」
リリーティアは水平線を遠くに見詰め、この場所を教えてくれた彼の身を案じた。
彼はヨーデル誘拐の件でラゴウがいるノール港へと向かった。
行動が取りやすいことを考えれば、彼はレイヴンとしてノール港にいる可能性が高いだろう。
まさか、魔核(コア)ドロボウの問題と繋がるとは思ってもいなかったが、もしかしたら、ノール港ではその彼と出会うかもしれないし、会わないかもしれない。
どちらにしろ、リリーティアにとっては彼が無事であればそれでよかった。
「本で読んだことはありますけど、わたし、本物をこんな間近で見るのは初めてです!」
エステルは声を弾ませて、海を見詰め続けている。
その瞳は、水平線が太陽の光でキラキラと煌いているのと同じように、とても輝いていた。
「普通、結界を越えて旅することなんてないもんね。旅が続けば、もっと面白いものが見られるよ。ジャングルとか、滝の街とか・・・」
「旅が続けば・・・もっといろんなことを知ることができる・・・」
ギルドに入っているカロルはいろんなところへ行ったことがあるようだ。
まだ一握りにも満たないほどの世界しか知らないエステルは、カロルの言葉に感慨深げに呟いた。
「そうだな・・・オレの世界も狭かったんだな」
ユーリもかつて騎士をしていたといっても、その期間は短く、帝都に出たのも数えるほどしかない。
この広大な海を前に、改めて彼は世界を大きさを知り、そして、自分が見てきたものが世界の一片だったかを思い知った。
「あんたにしては珍しい素直な感想ね」
「リタも、海初めてなんでしょ?」
「まあ、そうだけど」
日夜研究に没頭し、ほとんどの時間を研究に費やしてきたリタ。
研究のために周辺の地域や街などに足を運ぶことはあっても、こうやって海を見られるような大陸の端までは来たことがなかった。
「そっかぁ・・・、研究ばかりのさびしい人生送ってきたんだね」
「あんたに同情されると死にたくなるんだけど」
哀れむような目で見るカロルに、リタは不機嫌な表情を浮かべ、鋭い目をカロルに向けた。
「この水は世界の海を渡って、すべてを見てきてるんですね。この海を通じて、世界中がつながっている・・・」
エステルは目を閉じ、世界はどんなに広いのかと思いを巡らせた。
その未知なる世界に、エステルの心の中には、躍るようなわくわくした気持ちが無限と湧き上がっていく。
「また大げさな。たかだか水溜りのひとつで」
エステルの考えにリタは呆れたように言った。
「リタも結構、感激してたくせに」
そんなリタにカロルはわざとらしくにやけた表情を向ける。
すると、さっとリタが手を挙げた。
また打(ぶ)たれると思ったカロルは思わず頭を手で抑えるが、なかなかその手は下りてこない。
「あ、あれ・・・?」
カロルは恐る恐る見ると、結局、リタは打つのをやめていた。
カロルが言ったことはあながち嘘でもなかったようで、今回は素直にそれを認めたリタに、後ろからその様子を見ていたリリーティアはひとり小さく笑った。
「これがあいつの見てる世界か・・・」
「ユーリ?」
ユーリは目を細め、誰にも聞こえないほどの声で呟いた。
すぐ近くにいたエステルは何か呟いたことに気づいたが、その内容までは聞き取れず疑問符を浮かべる。
「追いついて来いなんて、簡単に言ってくれるぜ」
「エフミドの丘を抜ければ、ノール港はもうすぐだよ。追いつけるって」
「そういう意味じゃねえよ」
「え?どういうこと?」
ユーリが言ったことをそのままの意味で捉えたカロルは、意味が分からずキョトンとした。
あの手紙には、たった一言の言葉の中にユーリ対するフレンの想いが込められていたのだろう。
帝都のことしか知らないユーリに対して、任務で様々なものを見ているフレンの想いがそこにあったのだ。
ユーリは彼のその一言に、彼の言わんとしていることをちゃんと読み取っているようだった。