第7話 魔導器
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「揺らめく焔、猛追!」
リタはすぐに詠唱をはじめた。
武器である帯を広げながら、踊るようにして彼女特有のやり方で術式を描く。
「ファイアボール!」
複数の火球がガットゥーゾに向かって飛んだ。
しかし、相手は軽々とそれを交わして上へ飛び上がると、そのままリリーティアたちがいる場所へと襲い掛かる
皆は散開し、ガットゥーゾから距離をあけた。
ガットゥーゾが着地した直前にユーリは攻撃を仕掛けたが、それも相手は軽々と横へと避ける。
「ちっ、すばしっこいな」
中でも俊敏なラピードの攻撃でさえも、ガットゥーゾは余裕にかわしていった。
一行は苦戦を強いられ、互いに連携し、攻撃を繰り返す。
「ワウッ!ワウッ!」
そんな戦闘の最中、ラピードがガットゥーゾにではなく、茂った草木の中に向かって吠え出した。
すると、その草むらの中から新たに2体の魔物が現れる。
「げっ!」
突然に現れた魔物に、カロルは苦い顔で叫んだ。
その2体はガットゥーゾがそのまま小さくなったような姿で、そこら辺にいる魔物のウルフとよく似ている。
それは、ガットゥーゾの幼体時の頃の姿で、ガットゥーゾ・ピコと呼ばれていた。
その2体が現れた瞬間、リリーティアは両手に持ったふたつの《レウィスアルマ》を一振りする。
その片先が白く輝き槍のような刃に形どると、彼女はその場を駆け出した。
「ユーリ、ラピード、あの魔物は私が相手をする!そのうちにその2体を!カロル!リタとエステルをお願い!」
そう声を上げながら、リリーティアはガットゥーゾに向かって一直線に走る。
相手も彼女を標的として捉えたようで、鋭い牙を光らせて唸り声をあげた。
「確かに、先にあいつら片付けた方がいいな」
「ワォーン!」
ユーリとラピードはそれぞれにガットゥーゾ・ピコに向かい合った。
カロルもリリーティアの言う通りにその場を後退すると、リタとエステルを守るように前に立って武器を構えなおす。
ユーリとラピードがガットゥーゾ・ピコの相手をしている間に、リリーティアは武器に宿した属性を様々に変えて攻撃を繰り返し、相手の弱点を見極めようとした。
だが、その攻撃も掠りはするものの、決定的な攻撃を当てることが出来ずにいた。
「ルベウスイレ!」
エアルの刃から射出された火炎弾。
その攻撃も掠っただけだったが、しかし、ガットゥーゾの反応が大きく違った。
「火だ・・・!」
相手の弱点が判明したその時、ガットゥーゾが怒るように叫び鳴き、その口内から緑色をした霧状の何かを吐き出した。
リリーティアは反射的に顔を腕で庇い、急いで後ろに飛んだ。
「っ!」
その直後、腕に鈍い痛みがあった。
見ると、さっき顔を庇った腕から、何かが焼けた後のようにして微かに煙が出ていた。
服に染み込んでいる痕から煙が上がって、その下の肌に鈍い痛みを感じる。
「(毒か・・・!)」
緑の霧状の正体を知ってリリーティアは苦い顔を浮かべたが、微量だからと今は気に留めなかった。
彼女は魔物に向かい合うと、大きく口を開いた。
「相手は火に弱い!それから、口から吐き出すあの霧状のものには気をつけて!あれは毒だ!」
そう言うとリリーティアは火属性を宿したエアルの刃で、再びガットゥーゾに向かって走った。
相手も牙をむき出しに向かってくる。
「リリーティア!」
そして、互いに衝突する手前。
カロルの声が近くから聞こえ、はっとした彼女は駆け出す足が緩んだ。
「活心リカバースタンプ!」
その声と共に、リリーティアの目の前に大きなハンマーが振り下ろされた。
それは、今、カロルが扱っている武器だ。
そのハンマーが振り下ろされた地面に術式が描かれて鮮やかに光ると、術式に足を踏み入れたガットゥーゾは悲痛に仰け反って後ろへと大きく後退した。
「はあ、よ、よかった。なんとかうまくいったみたい」
カロルは小声でそうつぶやくと、額を拭った。
リリーティアはいったい何が起きたのか分からず、ただじっとカロルを見る。
「リリーティア、大丈夫?」
「え?」
そう言うカロルの視線はリリーティアの右腕に注がれており、彼女は自分の右腕を見る。
魔物の毒で熱い痛みがあったはずなのに、今はまったく感じられなくなっていた。
カロルは、ガットゥーゾが何かを吐き出した時にリリーティアが右腕を気にかけていたのをしっかりと見ていた。
そして、彼女から毒だと聞いた彼は、迷わずリリーティアの元へと駆け寄ってきてくれたのだ。
カロルの今の攻撃は、術式の範囲内にいる者の状態異常を回復し、且つ、魔物に対しては攻撃するものだったのである。
「カロル、ありがとう。助かったよ」
「これぐらい、どうってことないよ」
笑みを浮かべるリリーティアに、カロルは得意げに応えた。
しかし、その言葉とは裏腹にどこかその表情には余裕がないように見える。
そんなカロルの様子に内心おかしく思いながらも、リリーティアは必死に敵に向かって毒を治してくれたカロルに心から感謝した。
そして、リリーティアは態勢を整え、再びガットゥーゾへと視線を戻した。
ガットゥーゾはリタが繰り出す火炎弾から逃げている。
リリーティアの言葉のあと、リタは即座に火属性、主に『ファイアーボール』と称される魔術を中心に戦い方を変えたようだ。
エステルも火属性は扱えなくとも、光属性の攻撃魔術で少しでも相手の動きを止めようと援護している。
ふと、ユーリとラピードのほうを見ると、二人が相手をしているガットゥーゾ・ピコは、これでま二人に負わされた怪我で動きが鈍くなっており、すぐにでも片が付きそうだった。
二人は問題ないと見て、リリーティアはもう一度ガットゥーゾへと視線を戻した。
「あいつ、すばしっこ過ぎるよ」
「(ただ、闇雲に攻撃するだけじゃだめか・・・・・・)」
カロルの言葉を耳にしながら、リリーティアは魔物の動きを止める手立てはないかと考えた。
その時、視界の端に赤い花が見えて、途端彼女は何やらはっとした。
「ビリバリハの花を使えば・・・」
「え?あの赤い花?」
リリーティアはカロルに頷くと、すぐにその場を駆け出して行った。
彼女の意図が分からず、カロルは戸惑いげに駆けていく彼女をただ見ることしかできなかった。
カロルの戸惑いをよそに、彼女は何の躊躇もないままガットゥーゾへと飛び込んだ。
リリーティアは相手の注意を自分へと向かせると、ガットゥーゾからの攻撃を避ける。
そして、再びこちらから攻撃を仕掛け、相手の反撃を避ける。
それを何度か繰り返し、相手との距離を計りながら徐々に後退していった。
後ろにあるビリバリハの花へと近づいた時、思いきり武器を振り上げて攻撃を仕掛けると、彼女はすぐに地を蹴って後ろへと大きく飛び退った。
一気に敵との距離を広げる。
相手はその攻撃を避けたが、自分の苦手とする火で攻撃したからか、怒りを露わにして、リリーティアへと一直線に突進してきた。
あと数十センチでビリバリハの花が背中に触れるところで、彼女は後退する動きをぴたと止めた。
じっとそこで留まり、そのまま突進してくるガットゥーゾをじっと見据え続ける。
「リリーティア、あぶない!」
エステルが叫んだ。
その時、ユーリとラピードが2体のガットゥーゾ・ピコを倒し終え、二人はリリーティアの方へと走り出した。
未だに彼女は慌てることなく、ただその場でじっと佇んでいる。
相手との距離はあと数メートル。
ガットゥーゾが地面を蹴って飛び上がり、牙をむき出しにして覆いかぶさるように彼女に襲い掛かった。
「リリーティア!」
エステルの声と同時にリリーティアはその身を屈めた。
そして、ガットゥーゾの牙がもうそこまで迫ってきたとき、横へと地を蹴って地面を転がるようにその身を避けた。
その牙は彼女をとらえることなく、すぐ後ろに生えていたビリバリハの花を切り裂く。
そこから黄色い花粉が舞い、魔物は口から鼻からとそれを吸い込んだ。
「グオォァァ!」
ガットゥーゾは悲痛に叫ぶと、そのまま力なく地面へ倒れ込んだ。
低く呻き、微かに体を痙攣させている。
立ち上がる様子はない。
「蒼破刃!」
「ガウッ!」
そこをすかさずユーリとラピードが攻撃を仕掛けた。
「行くわよ!とどめ!ファイアーボール!」
リタが繰り出した複数の火炎弾がガットゥーゾに直撃した。
燃え盛る炎を中で、ガットゥーゾは顔を上げて悲痛な雄叫びをあげる。
炎が消え、煙が空に舞う中、巨体な魔物はその身を地面に伏して絶命した。
「(・・・・・なんとかなった)」
リリーティアは地面に片膝をついて魔物が息絶えたのを確認すると、体についた砂埃をはたきながらその場を立ち上がった。
「リリーティア、大丈夫です?」
エステルが心配した面持ちで駆け寄ってくる。
怪我もないことを伝えると、エステルはほっと息を吐いた。
その後、無茶はしないようにと念を押すように彼女に強く言われたが、リリーティア自身にとっては無茶をしたつもりはなく、ただ困ったような笑みを浮かべて頷いた。
「な、なーんだ、手ごたえゼロだったね」
カロルは息絶えたガットゥーゾを恐る恐る覗き込みながら言った。
「でも、この先もまだ何匹も出てくるかもよ」
「だ、大丈夫だって」
リタの不吉な言葉を否定しながらも、カロルはどこかおどおどしている。
「ま、そうならないことをみんなで祈ろうぜ。先に進むぞ」
なんとか巨大な魔物を撃退した一行は、さらに獣道を進んでいった。