第1話 始動
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リリーティアとシュヴァーンは騎士団長の執務室をあとに、城の廊下を進んでいた。
「(潮時か・・・)」
リリーティアは心の中で呟く。
アレクセイが言っていたその言葉を思い返し、ぎゅっと手を強く握り締めた。
それは、何か覚悟を決めたかのような素振りだった。
実際、彼女はそれなりの覚悟をしていたのだ。
それは、評議会議員のラゴウと、『紅の傭兵団>(ブラッドアライアンス)』のバルボスの行く末に関して。
中でもラゴウに至っては、利用するのが終わった後、アレクセイが彼をそのまま野放しにするわけがない。
のちに次期皇帝候補を誘拐、また、バルボスと結託していたという罪に問われたとしても、そこは評議会の人間。
ラゴウは方々に手を回して、己の罪を軽くするに決まっている。
それが<帝国>のルールであり、世の現実だ。
頭角を現した評議会の人間が障害となったその時、執るべきことはただひとつ。
それは、これまでそうだったように、今回もそうなるのだろう。
「リリーティア」
シュヴァーンが振り向きざまに呼んだ。
リリーティアは物思いからはっとして、前を歩いていた彼へ視線を向ける。
「はい」
「姫は城の中にはいないだろう」
さも当然のように言う彼の口ぶり。
なぜそう言い切れるのか彼女は不思議に思った。
「それでは、姫様は脱獄者と共にすでに外へ?」
「おそらくな」
「・・・でしたら下町に向かったかもしれませんね。脱獄者は下町出身のようですから」
脱獄者が下町出身だということを知っているリリーティアはそう考えたが、生憎、脱獄者の彼が何処の下町地区に住んでいるのかまでは知らない。
一言で下町といっても、帝都の最外周一帯に広がっているため、その広さは尋常なほどに広い。
手当たり次第に下町の中を探しまわるは無理だ。
「ルブラン小隊長ならその脱獄者のことをよく知っていますので、一度彼と話し、姫様を追跡してみます」
それに、もしかしたらすでにルブランは脱獄者を追っている可能性がある。
脱獄者が逃げたとなれば、仕事に生真面目な彼のことだから、すぐに捕まえに向かったかもしれない。
リリーティアの言葉にシュヴァーンは頷くと、踵を返して再び歩き出す。
彼女もそれに続いた。
そして、途中、ヨーデルの救出に向かうシュヴァーンと別れ、リリーティアは行動を開始した。
エステリーゼの身柄確保。
それは、ただ彼女を連れ戻すだけの任務。
それ以上もそれ以下もなく、ただそれだけのことだと彼女は思っていた。
姫のことを任せて欲しいとアレクセイに進言した彼女のあの行動が、後に、己が進む道の先で、さらなる苦渋の選択を迫られることになろうとは、この時のリリーティアには知る由もなかった。
この世に有るのか無いのか分からない運命の中、
新たな変化をもたらす歯車は、この時すでに動き始めていた。
第1話 始動 -終-