第7話 魔導器
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「ここがエフミドの丘?」
「そう・・・だけど・・・」
リタの問いにカロルは頷くも、不審な表情で辺りを見渡している。
一行はハルルの街を西へ進み、エフミドの丘にたどり着いていた。
「おかしいな・・・結界がなくなってる」
「ここに、結界があったのか?」
「うん、来るときにはあったよ」
リリーティアも訝しげな表情で周りを見渡していた。
カロルの言うとおり、ここには最近、結界魔導器(シルトブラスティア)が設置された。
新型の魔導器(ブラスティア)、通称、ヘルメス式魔導器(ブラスティア)で作られた結界魔導器(シルトブラスティア)だ。
「人の住んでいないとこに結界とは贅沢だな」
「あんたの思い違いでしょ。結界の設置場所は、あたしも把握してるけど、知らないわよ」
結界魔導器(シルトブラスティア)は希少なもので、発見されれば魔導器(ブラスティア)を研究しているアスピオにも報告される。
だから、世界中にあるその結界魔導器(シルトブラスティア)のことはアスピオにいるリタにも当然すべて耳に入っているはずだった。
「(・・・知らないのも当然、か)」
しかし、ここに設置された結界魔導器(シルトブラスティア)はそこにあったのではなく、人の手で作られたものだ。
発見されればアスピオの研究所に即報告されるのとは違い、このことを事前に知っていたのは、この結界魔導器(シルトブラスティア)を設置するうえで、深く携わった者たちだけ。
もちろん、これを作った張本人であるリリーティアも当然の如く知っている。
「リタは知らないだけだよ。最近設置されたって、ナンが言ってたし」
「ナンって誰ですか?」
エステルはカロルが口にした名前にすかさず反応する。
どこか興味津々といった目をしていた。
「え・・・?え、えっと・・・ほ、ほらギルドの仲間だよ。ボ、ボク、その辺で、情報集めてくる!」
カロルはなぜか逃げるようにしてその場を駆け出していった。
「あたしも、ちょっと見てくる」
結界魔導器(シルトブラスティア)がここに設置されたことが信じられないのだろう。
自分の目で結界魔導器(シルトブラスティア)がこの丘にあることを確認しようと、リタもカロルに続いて、その場を駆け出していった。
「ったく、自分勝手な連中だな。迷子になってもしらねえぞ」
ユーリは落ち着きのないその二人を見ながら、やれやれといった様子でぼやいた。
「(それにしても、どうして稼働していない?」
数日前に正常に稼働したという報告を受けていたにもかかわらず、いざそこに来てみれば結界の輪はない。
リリーティアは空を仰ぎながら、結界が稼働していない理由を考える。
「(・・・・・・まさか、また・・・)」
何か思い当たったリリーティアは、カロルたちが駆け出した方へと足早に向かった。
「・・・って、リリィもかよ」
「わたしたちも行きましょう」
少し先へ進むと、騎士や技師たちが立っているのが見えた。
よく見ると、彼らが取り囲んでいる中には、崩れ倒れて道を塞いでいる結界魔導器(シルトブラスティア)があった。
それは無残なほどに大破していた。
それを見たリリーティアは、なぜ結界が稼働していないのかを理解し、大破した原因をもすぐに悟った。
「こらこら、部外者は、立ち入り禁止だよ!」
その中に割り込もうとするリタをひとりの技師が止めた。
「<帝国>魔導器(ブラスティア)研究所のリタ・モルディオよ。通してもらうから」
「アスピオの魔導士の方でしたか!し、失礼しました!」
技師はリタの名前を聞くとすぐに言葉を改めた。
リタは技師の言葉を最後まで聞かずに横を抜け、なかば強引に魔導器(ブラスティア)を調べ始める。
「ああ、勝手をされては困ります!上に話を通すまでは・・・」
技師は慌てて言うが、リタは聞く耳も持たず、調べる手を止めない。
すでに目の前にある魔導器(ブラスティア)に集中しているため、彼女には声自体が届いていないようだ。
「(やはり、ここにも・・・)」
その少し離れた所から、リリーティアは険しい表情で壊れている魔導器(ブラスティア)を見ていた。
「あの強引さ、オレもわけてもらいたいね」
「ユーリには必要ないかと、思うんですけど・・・」
リリーティアの後ろで、ユーリたちはリタの様子を窺い見ていた。
「みんな、聞いて!」
情報を集めにいっていたカロルがリリーティアたちのもとへ戻ってきた。
そして、彼は少し興奮気味に話し始める。
「それが一瞬だったらしいよ!槍でガツン!魔導器(ブラスティア)ドカンで!空にピューって飛んで行ってね!」
カロルの説明に呆然とするユーリとエステル。
その説明は抽象的すぎて一体何がどうなったのか理解ができないようだ。
リリーティアはカロルが言いたいことをなんとなく理解したが、まったく事情を知らない二人には確かに意味がわからないだろう。
「・・・・誰が何をどうしたって?」
「竜に乗ったやつが!結界魔導器(シルトブラスティア)を槍で!壊して飛び去ったんだってさ!」
大きく身振り手振りを加えて説明するカロル。
今度は二人にもよくやく分かったようだ。
しかし、その内容は到底信じられるものではなかった。
「人が竜に乗ってか?んなバカな」
「そんな話、初めて聞きました」
「ボクだってそうだけど、見た人がたくさんいるんだよ。『竜使い』が出たって」
「竜使い・・・ねえ。まだまだ世界は広いな」
竜使い。
その者は、数年前から突如として現れた。
初めてリリーティアの前に現れたときは、はっきりとその姿を確認することができずに終わった。
それ以来、彼女自身は一度も会ったことはなかったが、あれからも幾度となく魔導器(ブラスティア)を破壊し続けている。
相も変わらず、新型であるヘルメス式魔導器(ブラスティア)だけを狙って。
「ちょっと放しなさいよ、何すんの!?」
「なんか、騒ぎ起こしてるよ」
騒がしい声に見るとリタが2人の騎士に掴まれていた
「この魔導器(ブラスティア)の術式は、絶対、おかしい!」
「おかしくなんてありません。あなたの言ってることの方がおかしいんじゃ・・・」
困ったような表情の技師の言葉にキッと睨み見て、リタは叫ぶように言った。
「あたしを誰だと思ってるのよ!?」
「存じております。噂の天才魔導士でしょ。でも、あなたにだって知らない術式のひとつくらいありますよ!」
リタの横柄な言葉に技師も声を荒げた。
「こんな変な術式の使い方して、魔導器(ブラスティア)が可哀想でしょ!」
その言葉の中には、怒りというよりも悲痛さが滲みでているようだった。
そんなリタの言葉にリリーティアは一瞬息が詰まった。
胸の奥が僅かに苦しかったが、彼女は大きく息を吐いて前を見据えた。
「ちょっと!見てないで捕まえるのを手伝ってください!」
もう一人の技師が、じっと突っ立ったままその様子を見ている騎士たちに苛立ちげに叫んだ。
リタは騎士たちが制止するのもかまわず、その腕を振り払うと、魔導器(ブラスティア)をもう一度調べようとしている。
様子を窺いみていたリリーティアは、これ以上は大事になると判断し、リタのもとへその足を踏み出した。
その時だった。
「火事だぁっ!山火事だっ!」
「まってカロル・・・!」
カロルが突然大きな声で叫んだ。
その声にリリーティアは慌ててカロルを見る。
「なんだ、あのガキ」
「山火事?音も臭いもしないが?」
「こらっ!嘘つき小僧!」
騎士は辺りを見渡すと、山火事になってる様子もないことにすぐに気づき、カロルの言葉に惑わされることはなかった。
公務を妨害したとして、何人かの騎士がカロルを捕まえようと駆け出してくる。
「やばっ・・・もうバレたの?」
追いかけてくる騎士に、カロルはその場から急いで逃げ出す。
逃げるカロリの背を見ながら、さらに大事になってしまったとリリーティアは困り果てた。
「おまえたち、さっきのガキと一緒にいたようだが・・・」
一人の騎士が足を止め、脇で見ていたリリーティアたちへと声をかけた。
すると、その騎士はすぐにユーリへと目を止める。
「ん?おまえ、確か・・・」
瞬間、ユーリはすかざすその場から走り出した。
リタの腕を掴んでいるひとりの騎士のもとへと一直線に向かって駆け出す。
「な、待て!・・・うわっ!!」
指名手配犯と気づいた騎士が慌ててそれを追いかけるが、ラピードが背中から押し倒して、それを阻止した。
ユーリはリタの腕を掴まえている騎士に手刀を食らわせると、騎士はうめき声をあげてその場に倒れ込んだ。
「今だ!」
その掛け声と共に、ユーリとリタは街道の脇に広がる草むらの中へ向かって走り出す。
「あ、こら、待て!!」
ほかの騎士が慌てて追いかけるが、それをラピードがすかさずその先を阻み、うなり声を上げて威嚇した。
騎士がたじろいでいる間にユーリたちは草むらに逃げ込んだ。
「エステルも早くあの草むらの中に!私はカロルを見てくる!」
「え、は、はい!」
エステルの背中を押し草むらの中へと身を隠すように促すと、リリーティアはカロルが逃げた方へと向かって走り出した。